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シンガポールにおける高齢者等のデジタル活用支援 (海外事例紹介)

今回は、高齢者のスマートフォン利用の普及啓発などに積極的に取り組んでいるシンガポールのSeniors Go Digitalなどについて、シンガポール大使館のDarrel Chua参事官にお話をお聞きしましたので、ご紹介します。
東京都で取り組んでいるデジタルデバイドの是正に向けた取組みにも、とても参考になるものです!
(本記事は、SG Digital Office(SDO)のWebページ及び11月29日に開催した、東京デジタルフォローアップ官民連携連絡会において、Darrel Chua参事官からプレゼンテーションいただいた内容を基に作成しています。)

1 SG Digital Office(SDO)の取組

シンガポール政府は、国としてのデジタルの未来に向けて加速する中で、高齢者を含めたすべての人々がシンガポールのデジタルコミュニティに参加できるよう取り組んでいます。
昨年6月、Infocomm Media Development Authority(情報通信メディア開発庁:IMDA)では、SG Digital Office(SDO) を立上げ、国民生活におけるデジタル化支援プロジェクトを開始しました。

2 Seniors Go Digital

SG Digital Office(SDO)が取り組む支援プロジェクトの一つが、Seniors Go Digitalです。

Seniors Go Digitalは、高齢者が豊かな生活を送るためのデジタル化の次の一歩を踏み出す手助けをするための支援プログラムで、2021年3月までに10万人の利用を目標として始まったものです。
このプログラムでは、通信事業者と連携し、手に取りやすい価格でスマートフォンを提供しています。
また、高齢者の個人ニーズに応じて、①基本的なコミュニケーションツール、ファイルメッセージング、ビデオ通話の使い方を学ぶ、②Singpassアプリなどの政府のデジタルサービスへのアクセス方法を学ぶ、③市場やホーカーセンターでのQRコードやインターネットバンキングアプリ利用や、サイバーセキュリティのヒントなど、電子決済ツールの使用方法を学ぶ、の3つのプロフラムを提供しています。
このプログラムでは、高齢者の身近な場所であるコミュニティクラブ/センターや公共図書館に開設しているSGデジタルコミュニティハブという場で、政府が公認するデジタルアンバサダーからのガイダンスを受けながら、高齢者自身のペースで学ぶことのできるようにしています。
このデジタルアンバサダーは、政府が指定するプログラムによる1週間のトレーニングを受けたのちに公認されます。アンバサダーは紫色のユニフォームを着て、1対1または小グループの設定で高齢者に基本的なデジタルスキルアップに向けた教育プログラムを提供するとともに、屋台等を営む高齢者のビジネスに電子決済の導入を支援しています。
また、アンバサダー公認条件として、基本的なデジタルスキル(政府のサービス等を使えるなど)があることと、あわせて、英語以外の言語、中国語、福建語、マレー語などを話せるかということがあります。これは、シンガポールの高齢者が英語を話せないかたもいるからです。
さらに、デジタルアンバサダーは、ボランティアによる参加と、コロナ過で仕事を失った方に対する有給による参加の2つの制度から成り立っています。
このように、Seniors Go Digitalは、シニアに利益をもたらすだけでなく、新しくつくられたデジタルアンバサダーという役割(仕事)をシンガポール人に提供することにも貢献しています。

(デジタルアンバサダーの声)

3 Hawkers Go Digital

2020年にユネスコ無形文化遺産になったシンガポールの伝統屋台「ホーカー」
SG Digital Office(SDO)では、高齢化が進む屋台の商店主向けに、SG・QRコードを利用したスマホ決済の導入支援を行うためのプログラムも展開しています。

これまでに経験したことのない状況下で、公衆の健康と安全を維持することは最優先事項となっており、屋台の店主が顧客との物理的な接触を減らすのを支援するために、電子決済ソリューションの導入支援を推進しています。
この支援プログラムでは、ホーカーがCOVID後の将来に向けて、安全に活動していくため、①オンライン化の支援、②持続可能なビジネスモデルの開発、③消費者の意識の向上の3つの視点で、様々な取り組みを展開しています。
具体的には、先程も登場したデジタルアンバサダーがチームを組んで、100を超えるホーカーセンターや市場、集合住宅に併設されたコーヒーショップ、産業用食堂にSGQRコード※による電子決済の導入を支援しています。
また、電子決済の導入を支援するだけでなく、ホーカーセンターを巡回して、ホーカーの店主のニーズを理解し、新しいフードデリバリープラットフォームのメリットなども個別に紹介するなど、デジタル化に向けたきめ細やかな支援を展開しています。

※SGQRコード:
SGQRコードは、複数の電子決済方法を束ね、店舗側と利用者側の両者の利便性を高めるためにQRコードを統一化したもので、2018年、世界で初めてシンガポール政府が導入した。SGQRコード導入前までは、店舗側はそれぞれの決済方式に対応したQRコードを店頭に表示する必要があったが、統一されたことで、SGQRを1つ表示するだけで済んでいる。利用者側も、スマートフォンの電子決済アプリがSGQRに対応していれば、スマホを同コードにかざすだけで支払うことができる。日本でも、2020年からJPQRとしてサービスが開始されている。

4 今後の取り組み

 これからの取組2020年6月のSDO開設以降、SDOが実施するデジタルスキルトレーニングの支援を受けている高齢者は1年で10万人を超えています。アンケートや電話調査によると支援を受けたすべての人が満足し、10人に9人の高齢者がスマートフォンをビデオ通話に使用したり、政府のデジタルサービスにアクセスしたり、電子決済を行ったりするなど、学んだスキルを日常生活で使い続けています。
また、現在、ホーカーなどの店主の60%以上が電子決済を使っています。
これまでの成果を踏まえ、IMDAではSDOの取組を拡充し、地域の高齢者だけでなく、職場の高齢者や聴覚障害者などの脆弱なグループへと、支援の対象を拡大していくことを2021年9月に発表しました。今後とも、高齢者を含めたすべての人々がシンガポールのデジタルコミュニティに参加できるように取り組んでいきます。

(最後に事務局より)
まずは、今回、貴重なお話をいただきましたシンガポール大使館Darrel Chua参事官に感謝いたします。東京都として、今後のデジタルデバイド是正策の検討に役立てたいと思います。

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