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ソウルにおける高齢者等のデジタル活用支援 (海外事例紹介2)

今回は、高齢者のスマートフォン利用を積極的に支援しているソウル特別市の取り組みについて、ソウルデジタル財団の金(キム)革新事業本部長にお話をお聞きしましたので、ご紹介します。
東京都の取り組みに通ずるものでもあり、とても参考になるものです!
(本記事は、2月9日に開催した、東京デジタルフォローアップ官民連携連絡会において、金革新事業本部長からプレゼンテーションいただいた内容を基に作成しています。)

1 はじめに

皆さんこんにちは、ソウルデジタル財団の 金恩映(キム・ウンヨン) 革新事業本部長です。
今回、ソウルデジタル財団の概要と、「Eodina Supporters(オディナ サポーターズ)」に関する推進背景や目的、事業内容などについてご紹介します。

2 ソウルデジタル財団(Seoul Digital Foundation)

ソウルデジタル財団は、ソウル特別市の出捐金を得て、2016年に設立された機関です。デジタルを基盤としたスマートシティソウルを構築し、ソウルの国際競争力を強化していくことをミッションとし、次世代デジタルエコシステムをリードするスマートシティソウルのコントロールタワーとなることをビジョンに掲げ活動している財団です。

このようなビジョンのもとに、財団では次のような事業を進めています。
まず、デジタルソウルを構築するための政策を研究すること、そして、AI ・デジタルの活用力強化のための教育、デジタル企業の成長のための支援、そして最新技術として注目を集めているメタバースについても研究を進めています。

3 オディナ サポーターズ(Eodina Supporters)

次に、Eodina Supporters(オディナ サポーターズ)についてです。
まず、この取り組みが始まった背景についてです。

デジタル技術が発展し、デジタル技術を基盤とする様々なサービスがでてきました。一方で、その技術を利用できない方々との間で、格差が発生しました。
最新の韓国におけるスマートフォン保有率は95%と全世界で最も高い数値となっています。このようになぜ、韓国のスマートフォン保有率が高いのか、その理由について考えてみると、韓国政府による支援補助があるということのほか、スマートフォンの生産量の多さもその理由の一つではないかと思います。韓国では、むしろ一般の携帯が高いぐらいです。

保有率が示すとおり、高齢者の方のほとんどがスマートフォンを持っています。しかしながら、高齢者の多くが、電話や基本的なメールを送るだけで、他の技術は利用できない状況にあります。このため、韓国政府は、デジタル格差が深刻化していることを認識し、情報格差の是正に関連する法※を整備し、自治体の積極的な関与を促しています。(※国家情報化基本法第31条)

この写真は、オディナ サポーターズの広報動画の一部です。

この動画に出ている高齢者の方々を見ますと、自らもデジタル活用力が足りないということを意識し、その深刻さを認識している方々もいらっしゃいます。一方で、この写真のとおり積極的に挑戦してみたいとおっしゃる方もいらっしゃいます。
このような状況を踏まえ発足したのが、オディナ サポーターズです。
オディナ サポーターズは 55歳以上の方々で構成された“デジタル格差を解消するための講師団”です。オディナ サポーターズは、高齢者デジタルお出かけ隊の略語であり、“オディナ”という言葉は日本語で“どこでも”という意味です。
オディナ サポーターズは社会のDXが進むなかで、誰もが便利なデジタルライフを享受できるようにするという趣旨のもとで、高齢者の方々が、気軽に楽しく学べるようにするという目的をもって運営されています。
高齢者の情報格差を解消するための教育は、韓国ソウルのいろいろな場所で行なわれていますが、ここでもっとも注目すべきところは、このオディナ サポーターズは、“高齢者”が“高齢者”を教える「老老ケア方式」という点です。
この「老老ケア方式」には、二つの意味があります。高齢者にとっては、引退後も仕事ができるという”雇用創出”や”社会貢献”という面でも意味があり、また受講生側から見ると“聞きやすいこと”と“共感者から学べる”という点で意味を持っています。

4 オディナ サポーターズの運営

ここまでは各者対象の必要性と意味そして オディナ サポーターズについて説明させていただきました。ここからは運営の現状と採用フロー、採用後の教育についてです。
オディナ サポーターズは2019年から始まりました、新型コロナが発生する前の時期です。
この時は、スマートフォンの普及率が高まることに対して、高齢者のデジタルサービス対応力を高めるための教育を中心に実施していました。34名のサポーターズが 464名の受講生を講師として教育しました。この時は1名の講師が多数の受講者を教育する授業の方式をとっていました。
しかし2020年度になり感染症の拡大より、一つの空間に受講生を集めて教育することが難しくなり、1対1 の授業に転換し、216人の講師で 2,183人の受講生を教育しました。
さらに2021年、感染症がさらに深刻化したことで、すべての生活がオンライン、インターネットに転換するきっかけになりました。このため高齢者のデジタル教育に関する需要が爆発的に増加し、100人 の講師が8,000人の受講生を教育することになりました。
資料の写真はサポーターズの活動状況です。右のほうが発足式で、新型コロナ感染症の拡大によって、非対面、オンラインで行われました。ソウル市長のオ市長も参加し、ご挨拶いただきました。

続いて、オディナ サポーターズの採用フローについてです。
まず 募集の段階ですが、デジタルデバイドの解消教育ができるかということを見るために、エントリーシートには、デジタル講義受講履歴やボランティア活動経験、志望動機、今後の活動計画について書いていただきます。
次に書類審査です。評価基準は、積極性、勤勉性、教育に関する企画力、そして責任感などを指標としています。
書類審査に続き、面接審査です。評価基準は、経験と知識、理解度、共感能力、使命感などを見ており、最終合格判断をすることになります。
ここで選ばれたサポーターズが、事前教育を受け、その後に委嘱式を行ってから本格的に活動を開始します。

オディナ サポーターズとして選ばれてから受講することとなる、講師としての教育カリキュラムとして、2021年には定期教育を2回、体験教育を1回行いました。定期教育は、活動支援及び能力強化のためのものです。内容としては、Zoomの活用方法、ボランティア活動時の心得、モバイルバンキングなどのデジタル金融教育が行われました。
次に、体験教育ですが、2021年は1回実施しています。これは実際、高齢者向け教育に使われる技術でありませんが、講師の能力強化を目的に行われました 内容としては、ドローンを組み立てや運用などの教育をしました。
このような定期教育と体験教育は、本来は、より多く行われる必要があると認識していますが、昨年は感染症の影響で3回しか行うことができませんでした。
このほかに育成教育があります。この教育はオディナ サポーターズとして活動するために必要な知識を教育するものです。高齢者への教授法、ボランティア活動についての理解、デジタル活用力などで構成されています。

5 高齢者向けデジタル教育

最後に、高齢者向けデジタルコンテンツについてです。
高齢者の方々はデジタル活用力が不足している場合が多いため、オンライン教育についても障壁を感じる方が多くいます。
しかし、高齢者の方々は、1回の教育で済むわけではなく、何回も繰り返して教育が必要となります。このような時に、オンラインコンテンツを使って、繰り返しの教育を行っています。
韓国の高齢者の方々のパターンを見ると、特に多く利用されているアプリが Youtube であることが分かりました。このことを踏まえ、デジタル活用力が不足する方々でもYoutubeを通じて、教育を受けられるようにコンテンツを制作しました。
高齢者の方々のデジタル活用力をレベルで見てみると、基礎レベルから結構使いこなすような高いレベルまで様々です。このため、様々なコンテンツを用意し、1つ目に スマートフォン基本設定、二つ目にスマートフォン基本活用方法、3つ目に実生活における活用方法、4つ目に新型コロナ禍でのスマートフォン活用方法の4つで構成しています。
このような教育コンテンツは持続的に研究し、開発する計画です。2022年度は、交通、商品生活、デジタル行政、デジタル犯罪予防の4つの コンテンツを追加する予定です。

多くのコンテンツがありますが、再生回数順に多い3つを選びました 

再生回数が最も多かったのはYoutubeの動画をダウンロードする方法で、2つ目がブログの開設・運営に関する動画が多くみられています。そして、3つ目が、現在のコロナ禍で食堂などの多くの方が利用する施設に出入りする際のQRコードのチェックイン方法について説明する動画です。

これらのコンテンツは、紙媒体の教材も作り、高齢者の方々に配布しています。この教材にはQRコードが付いており、携帯電話でQRコードを取るとyoutube 動画を自動的に再生するものとなっています。

以上が、オディナ サポーターズの最新の現状、コンテンツなどについてでした。ご清聴ありがとうございました。

オディナ サポーターズの活動状況
一つ目の写真は無人 決済端末“キヨスク”の使用方法を教えている場面
右の写真は、スーパーに出入りする際にQRコードを使って出入りする方法を教えている場面
下の写真が高齢者の方に一対一で教育をする場面

当日、行われた質疑の状況は次のとおりです。

Q サポーターの委嘱期間は1年単位なのか。続けてやる場合の再度同じプロセスで募集する必要があるのかどうか。
A サポーターズは1年単位で運営されております。既でに講師として勤めていたことがある方は再度を支援して活動する事はできますが、採用フローは最初から行わなければならないことになっております。 
Q 2019年から始められた政策とのことですが、もともとどれくらいの期間取り組みを展開する予定だったのか、今後の目標等があれば
A 2019年4今日を始まる当時は新型コロナとは関係なく、デジタル格差を解消するための抱擁政策として始まりましたので、継続する予定でした。5か年の中長期計画を持って最初は始まりました。2022年の計画につきましては、サポーターズを150人に拡大することを目標としております。その中で55歳以上の 高齢者の方が100人。そして新たに若者のボランティアサポーターズを50人採用する予定です。

6 最後に

今回、ソウル特別市国際交流担当官キム・チョヨン氏のご協力を得て、ソウルデジタル財団革新事業本部長キム・ウンヨン氏やスマート包容チーム長ジョン・セウォン氏に、貴重なお話をお伺いする機会を頂戴しました。ソウル特別市が進めている先駆的な取り組みを東京都の施策にも活かしていきたいと思います。
また、今回の交流を契機に、東京都とソウル特別市との間で、都市間交流を深め、誰一人取り残すことのないデジタル社会の実現に向けて連携していければと願っております。改めて、ソウル特別市とソウルデジタル財団の皆さに、感謝申し上げます。

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