東京の林業会社がフジロックで伝えた「自分の仕事 × 森・林業」の話。
新潟県湯沢町の苗場スキー場で開催された「フジロックフェスティバル’23」(2023年7月28日〜30日)。
東京チェンソーズは期間を通して、同フェス内で開かれたNGOヴィレッジに出展しました。
日本最大級の野外フェスで、東京チェンソーズが何を伝えたのか!
「自然×音楽」のフェスで森について伝えたい
出展のお誘いを受けたのは今年の春。以前から東京都心部での木育ワークショップで親交のあったグリーンアップルの中島悠さんからのお声がけがきっかけです。 ※グリーンアップルはNGOヴィレッジの主宰者です
中島さんのお誘いを受けたのが、今回の出展チームのリーダーを務める弊社・販売事業部の高橋和馬。
2年前の2021年に大手食品メーカーから転職してきた高橋は、森の素材を使った商品開発をはじめ、人と森をつなぐ「森デリバリー」事業を担当。フジロックの開催地・湯沢町の出身でもあります。
中島さんとはその森デリバリー事業で、2021年の冬頃から何度か顔を合わせていました。
フジロックは「自然と音楽」の共生を目指し、毎年10万人規模の集客を誇る日本最大級の野外フェス(今年は前夜祭からの4日間で114,000人)。
そんなフジロックに誘われたのです。喜んで引き受けました!
「フェスに来る人たちは僕たちが普段なかなか関わりを持てない人たちです。彼らに対して森林の課題や会社の活動を伝えられる良い機会だと考えました」(高橋)。
フジロックのキーワードの一つである”自然”という点で弊社は親和性がありますが、”音楽”という点ではこれまでほとんど接点がないところでした。
新しい人たちと出会い、森を伝える! これが出展の大きな目的です。
私たちの暮らしには元気な森が必要なことを伝える
NGOヴィレッジとは「社会の課題や地球の問題を分かりやすく来場者に伝え、解決への一歩を共に踏み出す場」です。
森の何を伝えるか? 森林の課題は複雑なものが多いのですが、ここでは分かりやすく、まずは「森が元気であることの大切さ」、そのために何をするのかを伝えることにしました。
森は公益的機能を持ち、それは暮らしと密接に関わる
まずは森には公益的機能という、私たちの暮らしに密接に関わる機能があることを知ってほしいと思いました。
いずれの機能も私たちが暮らして行くために大切なものばかり。こうした公益的機能を十分発揮させるためには、森は元気である必要があります。
元気な森とはどういう状態?
では、元気な森とはどういうことをいうのでしょう…?
”元気”という状態は見方によりいろいろな捉え方があるので、これから説明することがすべてではないですが、ここでは思い切り分かりやすく表現します。
日本は面積の66%が森林でできていて、その約40%が人の手で植えたスギ・ヒノキなどからなる人工林といわれるエリアとなっています。
私たち林業会社が関与するのは概ね人工林エリアで、間伐などの作業を通じて森の整備を実施しています(東京チェンソーズは東京・檜原村を拠点にしています)。
間伐すると、林内には光が差し込み明るくなり、下層植生(下草)が地面を覆います。
そうすると、降った雨は下草を伝って地面に届くので、雨水がダイレクトに地面に届いた場合に起こる、表層の土壌を流して裸地化を防ぎます。
また、土壌に有機物が増え豊かになるので、動植物の数が増え、生物多様性に富んだ森林となります。
間伐で伐った木では、コースターや鍋敷き、キャンドルホルダーなど日用品などを作ることもできます。
適切な作業を施され、自然豊かな森。それは山歩きでそばを通りかかっても気持ちがいいものです。そんな森を、私たちは元気な森だと考えています。
元気な森を作るひとつの方法として、木を1本まるごと使う取り組みを伝える
元気な森を作る方法として、私たちが取り組んでいる”木を1本まるごと使い切る”ことについてブースではお伝えしました。
1本まるごと使い切るとは文字どおり、1本の木を捨てる部分なく活用すること。野菜や魚を皮まで食べようということと似ています。
山で伐採した木は通常、丸太にして原木市場へ出荷されます。
ということは、丸太には規格があるのですが、その規格に合わない枝や葉、根っこ、曲がった木などは出荷されず、捨てられるということ。
1本の木のうち、規格に合う部分はおよそ50%といわれてます。
先人がせっかく丹念に植えてくれた木ですから全部を活かしたい、そう思い、私たちはこの「1本まるごと販売」を始めました。
ブースでは展示だけではなく、丸太にはならない、幹の細い部分で作ったキャンドルホルダーや一輪挿し、鍋敷き、コースターなどの販売もしました。
実際に商品を見て、その節がある姿やいびつな形に触れてもらい、その上でお話することができたのも良かったと思います。
スプーンやカッティングボードを作るワークショップも行い、木にやすりをかける感触も楽しんでいただけました。
1本まるごと販売は、今までゼロだったところに新たに価値をつけることであり、丸太価格が低迷する中では経済的にも有効な手段となっていて、活動を継続することの大きな力になっています。
ステージでの活動紹介も
最終日にはNGOヴィレッジ内のトークステージや「ジプシー・アバロン」でも活動を紹介する時間をいただきました。
ここでも、元気な森の大切さ、それを作るための方法として木を1本まるごと使う取り組みについてお話しました。
うまく伝わったでしょうか?
ブースにも多くの人が来てくれました。
今回は7人という”大所帯”での参加だったので、人員的に余裕があり、ゆっくり時間をかけて話すことができました。
その甲斐あって、皆さん、丁寧に私たちの話を聞いて、理解してくれる人が多かった印象です。
興味を持ってくれた人には、インスタで7月に始まったばかりの「漫画・東京チェンソーズ」をおすすめしました!
弊社の創業前からのエピソードを辿る8コマの漫画なのですが、読むことで一層、林業や森について理解を深めていただくことができると思っています(8月12日更新の第11話でようやく林業が始まる気配がしてきました)!
まずは自分のまわりの森を見る。そしてその先のアクションへ
森について、林業について興味を持っていただけたら、まずは自分のまわりにある、地域の森を見てほしいと思います。
そこは明るく、風が通っているでしょうか?
もし、そうでなかったら、どうしてなのか考えてみるのもいいとか思います。
人手が足りなく、手入れが行き届いていないのだろうか…
では、なぜ人手が足りないのだろうか…
自分でやれることはあるだろうか…など。
その答えは森林ボランティアをやることかもしれないし、あるいは消費のスタイルを変えることかもしれないです。
そして、もしできたら「自分の仕事 × 森・林業」のように、自身と繋げて考えてもらえたら、とても嬉しく思います。
本番前にフジロックの森のワークショップに講師で参加
NGOヴィレッジ本番の前哨戦ともいえたのが「フジロックの森プロジェクト」でのワークショップでした(5月20日、7月1日)。
フジロック会場内を縦断するボードウォーク(木道)の整備や清掃などを行なう「ボードウォーク・キャンプ」。
その中で開かれたボードウォークの廃材をアップサイクルするワークショップに講師として参加しました。
2002年に着工が始まったボードウォークは毎年整備を行なっていて、朽ちて歩行に危険を生じているものが順次新しいものと交換されています。
今回のワークショップでは、取り外された廃材でベンチとスツール(5月20日)及びバードコール(7月1日)を作りました。
苗場食堂の裏手、緑が眩しいエリアで開かれたワークショップには、親子連れなどが参加。
フジロックが好き、フジロックの森の活動が好き、苗場の自然が好きという人ばかりで、接しているだけでその和やかな雰囲気が伝わってきました。
フジロックは環境もいいけど、人も抜群ーーーというのがその時感じた率直な感想です。
ちなみにそこで作ったベンチとスツールは後日、会場内に設置されています。
今回、フジロックという大きなフェスの中で開かれた「NGOヴィレッジ」に出展したことで、森林や林業にほとんど縁のなかった人たちと接点を持つことができました。
私たちの伝えたことが、森に対する見方を変え、良いアクションに繋がってくれたら嬉しいです。