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すばらしき世界

ヤクザ。暴力団。反社会勢力。私も社会人のはしくれとして、様々なところで、社会にとって、会社にとって、それらを排除することがいかに重要なことなのかを学んできた。概ねその通りだと感じ、これからもそれを遵守することに変わりはない。一方で、映画や文学が好きな市民としては、反社会勢力に所属する人たちの人権や、境遇に思いを馳せてしまうこともないわけではないし、そういう作品を見るたびに考えさせられる。この2つの間を埋めるような作品というのは意味がある。

 ただ、このすばらしき世界はその地平をはるか飛び越えている。もちろん上記のような社会学的ポイントがないわけではない。ただ、この映画の主題はそんな場所からはるか遠く空の上にある。主人公三上は脆さや危うさがあり、家庭環境も複雑。ただただまっすぐで、状況に七転八倒する。役所広司という類い稀ない役者が魂を吹き込み、スクリーンにそういうヤクザもんが魅力的に存在していた。そしてその魅力に引き込まれた周りの人たちが彼を求める。そして彼から見たこのせかいのおかしな部分がしっかりと提示される。つまり三上の人権や状況ではなく、三上の魅力や、三上を通して現代日本の問題点がつきつけられる。反社というラベルそのものがひっぺがされ、君はどう感じる?という問いへ収斂される。

 俯瞰の多用や、淡い丸ボケだけの画面、歌唱の入ったの音楽の使用など、今までの西川作品にはない手法を使い映画に情緒を加えていたが、そういうメタ的な手法を行わずとも圧倒的だったと思う。らしくないというか。ただそれも三上に監督が惚れてしまったということなら十分に理解できる。エモい画面が多かった。ラストの津乃田のリアクションとか。しみじみ素敵な監督だと感じる。西川監督のさらなるファンになった。

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