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第二次孔子廟訴訟 意見書

1 最高裁大法廷は令和3年3月24日、那覇市の松山公園内に設置されている孔子廟で行われている釋奠祭禮は「宗教的意義を有する儀式」であり、これを行うことを目的とした孔子廟は「当初の至誠廟等の宗教性を引き継ぐ宗教施設であり、その程度も軽微とはいえない」と認定した上、本件使用料の全額を免除した行為は、本件施設の観光資源としての意義や歴史的価値を考慮しても、一般人の目から見て、那覇市が久米崇聖会による釋奠祭禮に係る特定の宗教に対して特別の便益を提供し、これを援助していると評価されてもやむを得ないものであるとして、憲法20条3項の禁止する宗教的活動に該当するという違憲判決を下した。 

2 この違憲判決が出された後、那覇市は久米崇聖会に対し、過去に遡って公園使用料を全額請求し、久米崇聖会はこれに応じてきました。しかし、それ以外は施設の規模が縮小されるわけでもないし、フェンスで区切られた区画がより一般市民に解放されたわけでもない。釋奠祭禮こそ新型コロナウイルス感染の影響から中止されてきたが、今後、そのあり方が改善されるわけではなく、なによりも久米崇聖会の閉鎖的かつ非公共的な性格(会員資格は久米三十六姓の末裔に限るという規則、女性は認められないという運用)はそのまま変わっていない。本件孔子廟は相変わらず松山公園のシンボルとして君臨し、その正面中央に広大なスペースを占有している。公園の使用料を支払うことは、当たり前のことである。少なくとも那覇市の市民公園である「松山公園のシンボル」として君臨している状態はなんら改められていない。 

3 本件のリーディングケースである空知太神社事件の最高裁判決において、市有地の無償使用は政教分離に違反するとする判決が確定した後、空知太神社は砂川市に対する適正な賃料の支払いに加え、神社施設の縮小、祭祀の態様の変更等、様々な処置をとることでようやく合憲性が確認されたのが第二次空知太神社事件最高裁判決である。この第二次空知太神社事件にかかる最高裁判決の判示に照らし、前述した孔子廟のあり方は余りに不十分だということで訴えたのが本件、すなわち第二次孔子廟事件訴訟である。     

4 ところが、令和4年3月23日に言い渡された原判決は、前述した大法廷判決が判示したとおり、釋奠祭禮の「宗教的意義」を認め、孔子廟が宗教性を色濃く有する「宗教施設」であることを認め、更には、これを一歩すすめて久米崇聖会が憲法20条1項後段の「宗教団体」であることを認めながらも、次のように言って政教分離違反をいう控訴人らの主張を退けた。要約すると、「那覇市が久米崇聖会に対して、宗教的施設である孔子廟を那覇市の管理する土地に設置することを許可するという行為には、宗教団体等に対する便宜の供与という面があることは否定できない。しかしながら …孔子廟の設置目的は公園施設の一部の利用(歴史・文化の保存や観光振興等)という世俗的、公共的な目的というべきである。」とし、更に、那覇市が本件孔子廟を「松山公園のシンボル」として位置づけている点についても、久米地域の歴史等を考慮したものであり、孔子廟の宗教的性格に着目したものとまではいえないとして久米崇聖会に対する援助・助成とは評価できないとした。本件孔子廟はわざわざ若狭から移設する形をとって新設されたものであり、建物それ自体に文化財としての価値があるわけでもない。それは久米崇聖会という宗教団体による釋奠祭禮という宗教的儀式を行うための宗教施設である。このことを認めながら、「松山公園のシンボル」としての孔子廟の設置がその宗教性に着目したものではないという原判決の論旨は、控訴人らには矛盾にしかみえない。  

5 控訴人らが何より問題とするのは、原判決の次の部分である。曰く「宗教性を有する本件孔子廟の設置を許可することにより、久米崇聖会による本件孔子廟を利用した宗教的活動を容易にする側面があることを考慮しても、一般人の目から見て、那覇市が特定の宗教に対して特別の便益を提供し、援助していると評価されるものとはいえない。」と。そこにいう「一般人の目」とは誰の目をいうのだろうか。そもそも控訴人(金城照子、上原義雄)らが第一次訴訟に続いて第二次訴訟を提起したのは、久米崇聖会という宗教団体による釋奠祭禮等の宗教的行事を行うことを目的とする孔子廟という宗教施設を、市民公園である松山公園の正面に「松山公園のシンボル」として設置することは那覇市による久米崇聖会の宗教活動に対する便宜供与であることは明らかだという確信からである。控訴人及び控訴人らを支援する多数の那覇市民の目は「一般人の目」ではないというのだろうか。
   
6 本件控訴審の結審にあたり、本件について結論先にありきではなく、那覇市民である控訴人ら及び控訴人らを支援する多くの市民の率直な認識・感情・感覚に基づく「一般人の目」を尊重した上で、公正な判断を行うよう求める次第である。   
                                以上

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