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星野源と新垣結衣による「根拠なき誹謗中傷の再発防止」の願いを、私たちはどう受け止めるべきか

「こういうことが起きてしまったこと自体もすごくつらかったですが、先ほど源さんが言ったみたいな誹謗中傷、攻撃を受けてつらい思いをしている姿を隣で見るのが本当につらくて。
もう二度とこういうことが起きてほしくないなと思ったし、こんな思いになりたくないなと思ったし、誰の身にも起きてほしくないなと思ったので、それを願っております」

5月28日、星野源さんと新垣結衣さんが、自分達に対する憶測の報道を否定するために、オールナイトニッポンに夫婦そろって生出演したことが大きな話題になりました。
冒頭の発言は、新垣結衣さんが星野源さんが誹謗中傷の攻撃を受けていたことを見ていたことを振り返って、話されていた言葉です。

2人のラジオでの音声は、いまでも星野源さんのSpotifyで聞くことができますので、実際に聞いてみることを強くおすすめします。

冒頭の星野源さんが「やっぱり今日はこのお話からしたいなと思って。先週、水曜日の夜に起きたことをみなさんも知ってるかと思います。」と一つ一つ慎重に言葉を選びながら話す様子から、新垣結衣さんが登場し2人の声にようやく本当のことをファンに対して話せたという安堵の声がもれる様子まで、「声」ならではの2人の感情の揺れが強く伝わってくるメッセージになっています。
 

100%完全なデマを元に大量の誹謗中傷が襲う

今回の件に関しては、星野源さんの所属事務所であるアミューズも非常に迅速に毅然とした否定を行っていますし、2人が肉声でここまで明確な反論をすれば、さすがにこれ以上2人に関して変な噂を流そうとする人やメディアはいなくなるはずです。

ただ、ここで考えたいのは、2人が生出演してまでファンや世の中に伝えたかったであろう、「100%完全なデマを元に大量の誹謗中傷が1人の人物を襲うような出来事」を二度と起こさないようにしたい、という問題提起を私たちはどう受け止めるべきかという問題です。

今後同様の問題が発生しないようにするためには、3つの関係者の問題を解決していく必要があります。

■1.根拠の無い噂を拡散する暴露系インフルエンサーの問題
■2.ネットの噂に便乗する誹謗中傷の問題
■3.ネットの噂に便乗するメディアとポータルの構造問題

一つずつ具体的に問題の詳細と、対策の選択肢について考えてみたいと思います。
 

■1.根拠の無い噂を拡散する暴露系インフルエンサーの問題

まず、今回の問題でそもそもの原因となっているのは、暴露系インフルエンサーとして知られる滝沢ガレソ氏が、噂を元にその噂を裏付ける情報を広く募集した投稿です。

(出典:滝沢ガレソ氏公式X)

滝沢ガレソ氏はXのフォロワーが270万人を超えるインフルエンサーですから、その彼による投稿は非常にインパクトが大きく、名前を伏せた投稿でも、膨大な数の誹謗中傷を星野源さんに向ける原動力になってしまったようです。
何しろこの投稿は現時点で1.5億回表示されています。

残念ながら、滝沢ガレソ氏は今回の投稿を削除する気配もありませんし、謝罪をする気配もなく、騒動の後も平常運転での投稿を続けています。

ただ、騒動の直後には「えげつない量の批判を頂戴しています。」として今後の運営方針を見直す姿勢は明らかにしており、少なくとも後悔はされている可能性は高そうです。

おそらく今回の投稿については、アミューズ側が「法的措置を検討」と宣言している関係で、あわてて投稿を消したり謝罪すること自体が、この投稿が星野源さんと新垣結衣さんのこととして書いたと認めることになり、訴訟をされた場合に不利になる可能性があるため、現時点では投稿をそのまま放置していると考えられます。

もともと滝沢ガレソ氏は、他の暴露系インフルエンサーに比べると、時代の流れに合わせて暴露投稿のトーンを変化させてきた歴史があります。

今回の投稿も、タレコミのネタがネタだけに見過ごせずに、思わず名前を伏せて情報募集の投稿をしてしまったということだと思われますので、滝沢ガレソ氏が今後同様の投稿をする可能性はかなり低くなったとは考えられます。

一方で、他の暴露系インフルエンサーによる類似の憶測や虚偽の投稿を減らす上で今後の注目点となるのが、アミューズの法務部が滝沢ガレソ氏に対して法的措置を実際に行使するかどうかです。

今後同様の虚偽の投稿による誹謗中傷を防ぐには、今回のような虚偽の投稿には厳しいペナルティが科せられるということが証明されることが有効であるとは考えられます。
ただ、実際に訴訟をして万が一アミューズ側が敗訴するようなことになれば、このレベルの伏せ字での投稿は許容範囲という悪い事例を作ってしまうことになりますので、アミューズ側の判断は難しいところでしょう。
 

■2.ネットの噂に便乗する誹謗中傷の問題

一方、今回の誹謗中傷問題において、直接的な加害者になっているのは、星野源さんに対して直接的、間接的に誹謗中傷を行っている人達です。

星野源さんに対する誹謗中傷の一部は、すでに否定報道後、投稿した本人や事務所側によって削除されているようですが、今でも検索すれば滝沢ガレソ氏の匂わせ投稿後に大量の星野源さんへの誹謗中傷や批判投稿が発生したことを確認することができます。

「星野源」の投稿数推移(出典:Yahoo! リアルタイム検索)

星野源さんは、「100%やってないことで、日本中から憎悪を向けられた感覚になった。その経験は今まで一度も無くて本当に恐ろしかった。」とラジオで語っておられますが、こうした誹謗中傷の憎悪の固まりがこれまでに日本でも多くの人を追い込んでしまっていることを考えると、今回は星野源さんに新垣結衣さんという味方がいて本当に幸運だったと言うしかありません。

木村花さんの悲劇など、過去の誹謗中傷の問題を受けて、日本でも2022年から誹謗中傷の厳罰化がされましたが、まだまだ多くの人がその事実を知らずに以前と変わらぬ誹謗中傷投稿を続けているのが現状と言えます。

騒動の後、星野源さんと新垣結衣さんが明確にラジオで否定したにもかかわらず、多くの誹謗中傷の投稿者が、いまだにその誹謗中傷投稿を放置していることがその象徴と言えるでしょう。

多くの誹謗中傷者は、本人特定をされたり、訴訟をされると、とたんに「そんなつもりはなかった」と反省の言葉を口にするケースが多いようですが、誹謗中傷をされている側からすると、そんな言葉では済まないほど、言葉の凶器で心を傷つけられている卑劣な暴力行為であるということを、もっと多くの人に認知させる必要があるでしょう。

一時的な自分の快楽のために他人の人生に取り返しのつかない傷をつける可能性があるという意味では、飲酒運転で人身事故を起こした人が「そんなつもりはなかった」と言い逃れをしていたのと、同じような構造にあると言えます。

飲酒運転が、厳罰化と、大々的な認知向上キャンペーンにより大幅に減少できたように、誹謗中傷についても引き続き悪質な投稿へのさらなる厳罰化の検討と、実際に深刻な誹謗中傷を行う人間に対する訴訟などの断固たる対応と、社会的な認知向上の取り組みが必須であると考えられます。

特に、国際大学の山口真一准教授の調査によると、炎上や誹謗中傷に加担する人は実際には40万人に1人と非常に少人数であることが分かってきています。

今回のような騒動で誹謗中傷を行った人達に対して、星野源さんなど芸能人側から訴訟を行うというのは社会的印象を考えると難しい面はあると思います。
ただ、誹謗中傷を行っている人達が同様のケースで再び誹謗中傷の刃を他の人たちに向けることがないように、プラットフォームや法的機関、もしくは業界団体から誹謗中傷の前科があるアカウントに対して警告を行うなどの対応が今後必要になってくるとも感じます。
 

■3.ネットの噂に便乗するメディアとポータルの構造問題

なお、今回の問題は滝沢ガレソ氏の投稿がきっかけになり、多数の誹謗中傷が星野源さんに向かってしまったため、問題の原因を滝沢ガレソ氏と誹謗中傷を行った人達のみと考えてしまいがちです。
しかし、今回のような誹謗中傷問題の再発を防ぐためには、もう一つ根本的な業界の問題に注目する必要があります。

それは、根拠の無い噂の流布を金に換えるメディアとポータルの存在です。

実は、星野源さんと新垣結衣さんが不仲ではないかという噂を流したのはそもそも滝沢ガレソ氏が最初ではありません。
2022年8月の段階では、夕刊フジが「〝別居説〟再燃」というタイトルの記事を書いていることが確認できますし、週刊文春の滝沢ガレソ氏に関する記事でも、2023年秋の段階で二人の不仲説がまことしやかに噂され、複数社が取材に動いたと報道されています。

実際はその取材の段階で多くのメディアはガセだと判断したそうですが、その流れで、FRIDAYが「別居説」「危機説」を一蹴という趣旨で2人の新居での生活についての記事を出します。

このFRIDAYの記事自体は根拠の無い噂を否定する報道という意味で、アミューズ側としても大きな問題にはしなかったようですが、この記事に便乗していわゆる悪質なページビュー狙いの「こたつ記事」が大量に生産されてくるのが、現在のメディアの構造問題のポイントです。

FRIDAYが「別居説」「危機説」を報道した結果、それを元にタイトルだけを過激にした記事が多数乱発される結果になるわけです。
その中でも特に悪質なものは、「gooいまトピランキング」に3月22日に掲載されているこちらの記事でしょう。

(※記事公開後、goo側で削除されたようでリンク切れになっています。)

このタイトルだけ見ると、誰もが星野源さんが浮気をして新垣結衣さんが激怒したと誤解すると思います。
元々の記事は、アサジョの記事で「星野源&新垣結衣、“別居不仲説”を吹き飛ばす「ラブラブすぎる目撃談」に羨望の嵐」というFRIDAYの記事を元にした不仲説の否定をタイトルにしているのに、記事ロンダリングをされた「gooいまトピランキング」ではさらに過激なタイトルがつけられているわけです。

XなどのSNSで情報収集をする人の多くが、タイトルだけを読んで記事を読まない傾向にあると言われています。
その結果、ネット上ではこうした記事タイトルだけを見て、星野源さんと新垣結衣さんの不仲説を事実として受け止めてしまった人が一部発生してしまっていたようです。

今回滝沢ガレソ氏が、一部メディアが否定している噂にもかかわらず、X上で事実確認のための情報を集めようとしてしまったのは、こうしたメディアやポータルの記事の拡散に対して星野源さんやアミューズ側が特に反論をしていなかったため、自分も大丈夫と思ってしまった可能性も想像できるわけです。
滝沢ガレソ氏にタレコミを行った人物が、こうしたメディアの報道に影響されて、思い込みでタレコミを行った可能性すら否定できません。

こうしたメディアやポータルは伝聞形式で他のメディア等の引用をメインにすることで、自らの訴訟リスクを避けながら、タイトルであえて誤解を生む表現をしていると考えると、滝沢ガレソ氏よりもよっぽど確信犯的で、悪質であると言うこともできるかもしれません。

NTTドコモのポータルに「星野源&新垣結衣、別居か」

ちなみに、「gooいまトピランキング」がさらに悪質なのは、今回の滝沢ガレソ氏の匂わせ投稿問題が発生した後のQuick Timezの記事を何と「星野源&新垣結衣、別居か」という全く記事の本題とは違うタイトルで5月27日に掲載している点です。

(※記事公開後、goo側で削除されたようでリンク切れになっています。)

滝沢ガレソ氏が法的処置を検討されているにもかかわらず、このタイトルで記事を掲載できる感覚は、全く理解できませんが、この「gooいまとぴランキング」を運営しているのは、さらに信じられないことにNTTドコモなのです。

NTTドコモは、過去に星野源さんにテレビCMの顔としてお世話になっていた恩があるはずです。
それなのに、こんな星野源さんへの誹謗中傷を誘発しかねないタイトルの記事を、自ら運営しているサイトに掲載していることを認識されているのでしょうか?

いずれにしても、こうしたNTTドコモのような大企業が運営するポータルですら、広告収入狙いのために、こうした噂話を悪意あるタイトルで平気で掲載してしまうというのが現在の日本のメディアの構造問題の象徴と言えます。

今回の星野源さんへの誹謗中傷は、滝沢ガレソ氏の影響力が高かったため、彼の匂わせ投稿の反響が大きすぎ、アミューズ側もその投稿がされた夜の間に法的措置の検討も含めた否定と警告のリリースを出すことになりました。
しかし、実は滝沢ガレソ氏以前にも、同じような噂で金儲けをしているメディアやポータルが多数存在していたわけです。

ある意味、滝沢ガレソ氏の投稿は、誹謗中傷の爆発のきっかけに過ぎなかったわけで、このメディア環境を改善しないことには、また星野源さんと同じような犠牲者が生まれることになると言えるわけです。
 

もう二度と噂の過剰報道による誹謗中傷を生まないために

もちろん、日本には憲法による表現の自由が保障されており、報道の自由や取材の自由がこの表現の自由に含まれると解釈されているため、メディアのこうした噂の報道を全て禁止することはできません。

ただ、明らかに悪意のある噂の拡散や、タイトルを記事の中身とかけ離れた内容にしてアクセスを稼ぐような記事が、大手企業のポータルサイトに平気で掲載されてしまう現状というのは明らかに間違っているように感じます。
特に犯罪行為ではない家庭内別居の問題など、個人のプライバシーに踏み込みすぎた報道は、明らかに現在の時代の流れに反しているとも言えるでしょう。

羽生結弦さんの離婚報告の際にも、こうした過剰報道と誹謗中傷の「負のスパイラル」が、2人と無関係の人にまで誹謗中傷の被害を巻き起こしてしまっていましたが、今回の星野源さんと新垣結衣さんの問題提起で、あらためてこの「負のスパイラル」をどう止めるべきかを真剣に議論すべきタイミングが来ていると感じます。

星野源さんと新垣結衣さんのオールナイトニッポンでの2人の温かいトークのお陰で、星野源さんが「100%やってないことで、日本中から憎悪を向けられた感覚になった。その経験は今まで一度も無くて本当に恐ろしかった。」と語った誹謗中傷でうけた傷を、新垣結衣さんとともに乗り越えて前に進んでいることを感じることができました。

ただ、次にメディアの噂話をきっかけに誹謗中傷のターゲットになった方が、2人のように乗り越えていけるとは限りません。

新垣結衣さんの「もう二度とこういうことが起きてほしくないなと思ったし、こんな思いになりたくないなと思ったし、誰の身にも起きてほしくないなと思ったので、それを願っております」という言葉を、メディアやポータルの運営企業の方々は、真剣に自分事として受け止めていただきたいと思います。

この記事は2024年6月9日Yahooニュース寄稿記事の全文転載です。


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