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テラスハウスの「副音声」ライブ中継に学ぶ、ネット時代の「テレビ」の価値

今週、Netflixの人気番組「テラスハウス」が、YouTubeで興味深い取り組みに挑戦していたのをご存じでしょうか。

その企画の名は「テラスハウスウォッチパーティー」
過去に出演経験もある、NBAで活躍する八村塁選手が米国からゲストで参加するというサプライズもあり、NetflixのYouTubeチャンネルで約3万人の視聴者がライブ中継に参加していました。

テレビの視聴率やYouTubeの人気番組の再生数を考えると、3万人という数字は、それほど大きな数値に聞こえないかもしれませんが、注目していただきたいのは、このライブ中継で配信されていたのがテラスハウスの番組そのものではなく「副音声」だったという点です。


テラスハウスにもウイルスの影響が

ウイルス感染拡大の影響で、テレビドラマの収録がことごとく中止に追い込まれていますが、その状況はテラスハウスも同じ。
スタジオ収録が難しくなった関係で、テラスハウスも放映を一時中断。
今回配信の41話に関しては収録は山里さん1人でスタジオ収録する形になっていました。

その結果、41話の「副音声」に関してはNetflixでの配信日までに収録することができなくなってしまったということのようです。

そこで、本配信に「副音声」が入らない代わりに、テラスハウスのスタジオメンバーが、Netflixにおけるテラスハウス最新話の公開タイミングに合わせて、同時にリアルタイムで番組を視聴、その視聴している様子を番組の「副音声」としてYouTubeでライブ配信したのです。

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そもそもNetflixにおいては、番組は公開されてしまえばオンデマンドでいつでも視聴することが可能です。
そういう意味では、公開時間の21時に合わせて視聴する必要もなければ、サブコンテンツであるはずの「副音声」のために、わざわざYouTubeライブを見る必要はないはず。

それにもかかわらず、3万人近い人がリアルタイムでスタジオメンバーと一緒に、YouTubeライブを楽しんだわけで、テラスハウスにおける「副音声」が人気のコンテンツであることが良く分かります。


ファンの間で根強い人気の「副音声」

実はテラスハウスの「副音声」というのは、テラスハウスファンからすると、「副音声」を聞かないと本当のテラスハウスじゃないという人がいるぐらい、重要な人気コンテンツなんだそうです。

テラスハウスは、もともと2012年にフジテレビで放映が始まったリアリティ番組ですが、当初はYOUさんがオープニングを1人で務めていた形で始まり、トリンドルさんと2人になり、と徐々に形を変えながら、現在のスタジオ形式になっていった経緯があります。

その後、スタジオで見ている際のスタジオメンバーの会話をそのまま「副音声」として配信するようになり、今の形に辿り着いたようです。

実際に、スタジオメンバーの「副音声」がある状態とない状態で番組を見ると、全くテラスハウスの印象が変わりますから、「副音声」のファンが多いのもよく分かります。

スタジオメンバーの毒舌やリアクションが面白いというのも、もちろん大きいと思いますが、個人的に興味深いのはスタジオメンバーの「副音声」を聞きながら見ていると、あたかも自分もスタジオメンバーと一緒に番組を見ているような感覚を味わえることです。


みんなでテレビを見る、というニーズ

同じテレビ番組でも、家族や友達と一緒にテレビに文句を言ったり、感想を話したりしながら視聴することで、面白さが大きく変わる、という経験は誰もがしたことがあるはずです。

特に、ビデオやDVDが普及していない時代は、テレビ番組は配信時間に生で家族や友達と一緒に見るのが普通でした。
それが録画機能の発達や、1人1人へのテレビやスマホなどの端末の普及、そして動画配信サービスの進化等により、1人1人が好きなタイミングで好きな番組を見ることができる時代が到来し、大勢で1つの番組を見るケースというのは少なくなったように思います。

ただ、実は「テラスハウスウォッチパーティー」に見られるように、みんなでわいわい同じ番組を見たいというニーズは、オンデマンド配信のシンボル的存在のNetflixにおいても、確実に存在しているわけです。

実はNetflixには、もともと「Netflix Party」という複数のNetflixユーザー同士で同じ作品を同時に鑑賞しながらチャットでの会話ができるサービスが存在します。

これは公式にNetflix社から提供されているものでは無いようですが、ウェブブラウザのChromeのプラグインとして利用できるもので、Googleのウェブサイトを見る限り世界で1000万以上のユーザーがインストールしているようです。

やはり「友達と同時に喋りしながら番組を見たい」というのは、全世界共通のニーズと言えるでしょう。

テレビドラマや、スポーツの試合などをツイッターに投稿しながら視聴するスタイルはソーシャルビューイングと呼ばれ、日本でも珍しくない行為になりましたが、ある意味Netflixを見ながらチャットをしたり、ビデオ通話をするというのも、新しいソーシャルビューイングの1つと言えるでしょう。


リアルタイム放送だからこそできること

本来であれば、リアルタイム放送が主力である地上波のテレビ局が取り組むべき、同時にみんなで番組を見るというソーシャルビューイングの取り組みに、Netflixが積極的に取り組んでいるというのも興味深いところです。

丁度、先週末に、NHKで「あたらしいテレビ 徹底トーク2020」という未来のテレビを議論する番組が放送され、電波少年のプロデューサーとしても有名な日本テレビの土屋さんが「テレビは”今”なんだ」と強調されていたのが非常に印象的でした。

土屋さんのnoteには、この発言の背景について、下記のように書かれています。

「未知のウィルスが中国で生まれ世界中に広がっていく中で「今の状況」が最重要で、それをどう解釈するか?そして次の手をどう打とうとしているか?この「今」の一次情報に一番近いのがテレビの生放送、生中継であるとなった時に「テレビが放送している今」の重要さを感じたのだ。」

確かに「今」を本当に反映し、「今」にあわせることができるのは、ライブ中継であり、その最大の存在がいわゆるテレビ局なのは間違いありません。

最近は、テレビ局の報道番組におけるウイルスについての報道の仕方が問題になることが増えています。
そうした報道が物議を醸すために、様々な激しい議論がネット上で展開され、ネガティブなエネルギーがネットにもテレビにも増えている印象があるのは私だけではないはずです。

一方で、「テラスハウスウォッチパーティー」のように、みんなで1つの番組を同時に見ながらおしゃべりすることで、みんながちょっとずつ幸せになったり楽しい気分になったりするのも、「今」に一番近い、テレビの生放送であるように思います。

実は、外出自粛が求められ、大勢の人がテレビを見ている今こそ、テラスハウスの「副音声」のような、みんなで楽しくつながりを感じる取り組みや番組作りが、地上波のテレビ局でも増えて欲しいと思う今日この頃です。

この記事は、2020年5月15日のYahooニュース寄稿記事の全文転載です。

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