さようならツイッター、今まで本当にありがとう。君がいなければ、ぼくの今の人生はなかったよ。
さようならツイッター。
さようなら青い鳥。
本当に君はいなくなってしまうんだね。
まだスマホのアプリでは君を見ることができるんだけど、いつ会えなくなるか分からないから、今のうちに手紙を書いておくよ。
君に出会ったのは2007年の3月だったよね。
当時のぼくは、とにかくシリコンバレーの新しいサービスを片っ端からレビューしてたから、君と出会ったときにこんなに長い付き合いになるとはまったく思ってなかったよ。
正直、日本語も入力できなかったし、日本では流行らないと思ってたんだよね。
名前もトゥイッターとか日本人には覚えづらい名前だったし。
アメリカでは変なサービスが流行るんだなぁとか思っていたよ。
でも、その後、ブロガー合宿で仲間内で使ってみて君の面白さに目覚めて。
それからは長い付き合いになったよね。
もう16年以上になるよ。
振り返ってみると、今のぼくがあるのは本当に君のおかげなんだ。
典型的なパソコン人間だったぼくは、ノートパソコンを持ち歩いてれば、ケータイからネットが使える必要なんかないと思ってたんだけど。
モバツイッターで、日本のガラケーからツイッターが使えるようになって、その面白さに目覚めたんだよね。
当時の記事はまだモバトゥイッターって書いてるね。
笑えるよね。
でも、その後君はトゥイッターではなくてツイッターと呼ばれるようになり、本当なら「さえずり」のはずが「つぶやき」と翻訳されて、独り言サービスとして日本で流行るようになるんだよね。
君がコミュニティの意見を取り入れて、どんどん機能を増やしていくのは見ていて本当に楽しかったな。
ハッシュタグとか、ぼくは最初シャープだと思ってたし、日本では半角英数入力必須の機能とか流行らないと思ったんだけど。
今ではあれがないと不便で仕方が無いんだよね。
W杯観戦とか、オリンピック観戦とか、君のおかげで家で一人でみていても本当にさびしくなくなったんだ。
ファンが勝手に盛り上がってツイッターナイトやってたり。
創業メンバーが日本に来てくれてオフ会とかやってたりもしたよね。
君は本当にコミュニティに愛されるサービスだったんだよね。
よくサーバーが悲鳴を上げて落ちてしまって、猫の写真とかクジラの画像とか出したりしてたけど、みんな文句言いながらもサービスが戻ってくるのを楽しみに待ってたよね。
みんな本当に君が大好きだったんだ。
いろんなサービスを作れるようにびっくりするほどいろんなAPIを公開してくれてたよね。
おかげで、ぼくの知り合いのエンジニアが、いろんなサービスを作ってくれて、おかげでぼくは本当に楽しいツイッター生活が送れたんだ。
投資家は、君がライバルに比べて金儲けが得意じゃないことを批判していたけど、でも君は自分だけじゃなくて周りを巻き込む形でエコシステムを形成するユニークな存在だったんだよね。
伊藤穣一さんがツイッターのビジネスモデルどうするのって聞かれた時に「ビジネスモデルがあってユーザーがいないサービスはほぼ間違いなく失敗するけど、ユーザーが100万人いてビジネスモデルがないサービスの方が成功する確率は間違いなく高いよ」と言ってたのを今でもぼくは良く覚えているよ。
しかも、君のおかげで、ぼくの今があるのは間違いないんだよね。
ツイッターが日本で流行る前、ぼくは趣味の延長で有名なブロガーの人たちを投票企画で探し出すアルファブロガーを探せという企画をやっている、ただの無名ブロガーだったんだけど。
君が「おすすめユーザー」という仕組みを作って、30人ぐらいの日本人ツイッターおすすめユーザーになぜかぼくも選んでくれたおかげで、急に22万フォロワーぐらいまでフォロワーが増えてしまって、えらくゲタを履かせてもらったんだよね。
あのおかげで、ぼくのことなんか当時誰も知らなかったのに、フォロワー数で誤解した人たちが勝手にぼくをインフルエンサー扱いするようになったんだよね。
おかげでツイッターについてのメディア向けの勉強会をやったりするようになって、ぼくは君を入り口にソーシャルメディアやSNSの専門家っぽくなっていくんだよね。
君との出会いがなければ、前の会社でソーシャルメディアのコンサルとかすることもなかったろうし、ソーシャルメディアの本を出すこともなかったと思うな。
君との出会いがなければ、ツイッター中の人である企業担当者の人たちと仲良くなることもなかったろうし、企業のマーケティング界隈の偉い人に、SNSに詳しいからとフラットに相手してもらえることもなかったんだよ。
君との出会いがなければ、今のようにメディアに出させてもらうこともなかったよね。
今はメディアに「SNSに詳しい」とか「SNSの歴史に詳しい」とかって不思議な肩書きで出させてもらって友達にイジられてるけど、君に出会わなければそんなこと絶対におこらなかったんだよね。
今のぼくがあるのは、本当に君のおかげなんだよね。
でも、結局あのあと、おすすめユーザーの仕組みがなくなってからは、毎日の様にフォロワーが減っていってしまって、毎日傷ついていたんだよ。
まぁ、今となっては良い思い出だけど。
しかも、君の凄いのは、16年間ぼくが何をやっていたのか全部覚えていてくれるだけじゃなくて、他の人にも見つけられるようにしてくれてるところなんだよね。
一番ぼくがびっくりしたのは、NHKの人がぼくといっしょに東日本大震災の時に避難したひとのツイートを発見して、最終的にぼくが震災ビックデータ特集に避難民役で出ることになったときかな。
今でも、当時の一連のツイートを見ると、当時の感覚を思い出せるんだよね。
君はずっとぼくのそばにいてくれたんだ。
年末年始は一応周りにソーシャル断ちとかいって、君を使っていないふりをしていたけど、君に投稿をしない日はあっても、君をひらかない日は多分1日もなかったよ。
2019年にツイッター中の人10周年イベントで、登壇させてもらったときは、資料作るのが本当に楽しかったなぁ。
10年間の間に本当にいろんなことがあったなぁと、しみじみしながらスライドを作ったのを今も良く覚えているよ。
ちなみに、東日本大震災の時に日本の空気をかえたエステーの消臭力のCMって、当時エステーにいた鹿毛さんが、ツイッターで日本の空気を読んで創ったらしいんだけど。
その鹿毛さん曰く、鹿毛さんがツイッターをはじめたのは、ぼくの影響らしいんだよね。
不思議なこともあるもんだよね。
ツイッターの一つ一つの投稿が、知らない間にいろんな人に影響したり、つながるきっかけになったりするんだよね。
ツイッターのつながりで、本当にいろんな経験をさせてもらったよ。
君には感謝してもしきれないよね。
彼が君を買うって決めたとき、ぼくは正直喜んでしまったんだよね。
だって、それまでの君はどうしても他のサービスに比べると儲からないと批判されがちだったし、世界ではあまり注目されていないサービス扱いになってたから悔しかったんだ。
彼も君のことが大好きなように見えたから、彼なら君のことをもっとぼくたちを楽しませてくれるサービスにしてくれると思ってたんだよね。
でも、やたらとスーパーアプリXの話を強調してるから少し嫌な予感もしたんだよ。
だから、彼がツイッターの原点を忘れないことを祈って、そんなコメントをしたこともあるんだよね。
でも、彼は君が好きだったわけじゃなくて、スーパーアプリXが作りたかっただけなんだよね。
彼に買われてしまった後、すぐに会社の名前もXに変えていると聞いて、いつかこの日が来るのは分かっていたつもりなんだ。
彼が君の青い鳥を、柴犬に変えて笑ってたとき、君の会社の看板をジョークのネタにしていたとき、あ、彼は君のことを好きではないんだなと痛感させられたんだ。
だから、彼が君やコミュニティには本当は興味が無くて、スーパーアプリXを作るための最短ルートとして買っただけなんだと分かっていたし、何度もそういう趣旨の記事に書いて、自分にも言い聞かせていたんだけど。
お別れは本当に突然来てしまうもんなんだね。
やっぱりショックだよ。
もうパソコンの画面には、青い鳥はいなくて、Xのロゴが出てるだけなんだ。
しかも、このアイコン彼がツイッター上で募集してから、23分後に応募されたものらしいよ。
作るのに数分しか、かけてないらしいんだよ。
彼が君のアイコンとか社名をネタにしてたときから気づいてはいたんだけど、本当に彼は君のこと興味なかったんだね。
まだ君にスマホのアプリでは会うことができるけど、明日朝起きたらもう会えなくなってしまっているかもしれないし、きっとアイコンが変わったら、そのうちそれに慣れてしまって、今のこの気持ちを忘れてしまいそうだから。
とりあえず夜のうちにこの手紙を書いておくよ。
今日、君のアイコンが変わってしまって、ハッキリ分かったんだ。
ぼくが君を好きだったのは、君がライバルサービスみたいに一人でガッツリ稼いで君臨するサービスじゃなくて、ぼくたちユーザーやエンジニアのコミュニティに頼ってくれるサービスだったからなんだよね。
君は、ある意味ぼくにとってのWeb2.0の象徴だったんだ。
よくサーバーも落ちるし、収益もなかなかあがらないから、いつサービスが終わるのか心配された時期も長く続いたし。
創業者が権力を保持できてる状態じゃないから、経営者もコロコロ変わって、投資家からの圧力にも弱かったけど。
でも、いろんなAPIを無償で公開して、いろんな開発者にいろんなサービスを作ってもらって、みんなが面白いツイートをリツイートで発見してくれて、とても便利なエコシステムができてたんだよね。
彼が君を買収すれば、財務的には無敵の状態になるから、君はもっと楽しいサービスになるとぼくは思い込んでいたし、彼と彼のチームが、ひょっとしたら、本当に凄いサービスにこれから君を変えていくのかもしれないけど。
でも、やっぱりぼくが好きだったのは、みんなに頼っていたころの君だったんだなと分かったよ。
君から生み出されたBlueskyやNostrが、きみの創業者のもともとの意思をくんで成長してくれる可能性も、君のライバルだったはずのザッカーバーグがはじめたサービスが、君を完コピしてくれる可能性も、無くはないけど。
でも、やっぱり君ほどぼくの人生を変えるサービスは、これからも出てこない気がするよ。
それぐらい君との16年は、本当に楽しい16年だった。
今見ているのが悪い夢で、明日朝目が醒めたら、彼があっさりと君の名前とアイコンをサービスとしては残すという判断をしてくれてたらいいなと思ったりするけど。
今夜が最後になってしまうかもしれないから、とりあえず、この手紙を送ります。
さようならツイッター。
さようなら青い鳥。
今まで16年と4ヶ月の間、いろんな思い出を本当にありがとう。
君がいなければ、ぼくの今の人生はなかったよ。