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相次ぐ失言炎上騒動で考えるツイッターの「はだかの王様現象」の罠

この記事は2019年5月30日にYahooニュース個人に寄稿した記事の全文転載です。

ここ最近、ツイッター上での投稿がきっかけで騒動になり、投稿を削除したり投稿者が謝罪に追い込まれるニュースが増えている印象があります。

今月中旬には、幻冬舎の見城徹社長が作家の実売部数をツイッター上に暴露した問題が大きく注目され、最終的に見城社長はツイートを終了することになりましたし。

先週は、国民民主党の玉置雄一郎代表が、自らのツイッターに、「マスゴミ」と投稿した後、指摘を受けて投稿を削除し物議を醸しました。

さらに、今週には、SPEEDの上原多香子さんの夫としても知られる演出家のコウカズヤさんがツイッター上での論争がきっかけで謝罪に追い込まれ、所属する劇団から退団処分を受ける結果になっています。

類似の騒動としては、今年1億円お年玉キャンペーンで注目を集めたZOZOの前澤氏が、洋服の原価に関するアンケートの投稿を連投したことが、業界の批判を集め、関連するツイートを全て削除してツイッターを一時休止したことが記憶に新しい方も多いでしょう。
(現在は投稿を再開されています。)

SNS投稿による騒動といえば、今年2月にアルバイトによる不適切動画投稿が騒動になったことが記憶に新しい方も多いと思いますが。

どちらかというと、この若い世代による不適切動画騒動は、ソーシャルメディアに対する知識の無さや、若さゆえのバカ騒ぎという印象が強いと思います。
それに対して、前述のツイッター失言をしている方々は、どなたも比較的ツイッターの活用歴が長かったりフォロワーが多かったりと、社会的地位も高く、ツイッターを使うのに比較的慣れていると思われていた方が多い、というのが注目すべきポイントと言えると思います。


ツイッターになれているからこそ失言しやすい

多くの方からすると、なんで大人がこんな失言するんだろう、と思うかもしれませんが、実はこうした失言問題はどなたにとっても他人事ではありません。
実はこれにはツイッターの構造的特徴が、「はだかの王様現象」とでも呼ぶべき誤解を生みやすいところに原因があるのです。

ツイッターで「はだかの王様現象」が生まれやすい要因として、ポイントは3つあります。

■普段のツイートはフォロワーにしか見られない
■過激な発言の方が反応がつきやすい
■過激すぎる発言はフォロワー以外にも伝播する

順番にご説明します。

■普段のツイートはフォロワーにしか見られない

 ツイッターはサービスの構造上、自分が興味のある人をフォローする、という片方向のフォローの仕組みになっています。
 これは従来のFacebookやmixiなどのSNSがお互い承認してフレンドになっていた双方向の仕組みに対して、ツイッターらしい仕組みだったと言えます。
 今ではインスタグラムやTikTokも同様の仕組みですし、Facebook自体もフォローの仕組みがありますから珍しくはなくなりましたが、この片方向のフォローの仕組みの特徴は、基本的には興味がある人にしかフォローがされないという点です。

 双方向のフレンド承認であれば、相手が仮に自分に興味がなくても、フレンド申請をして相手が承認すれば、自分の投稿も相手に表示されることになります。しかし、片方向のフォローの仕組みでは、自分が相手をフォローしても、フォローバックされるとは限らないわけです。
 結果的に、ツイッターのような片方向のフォローの仕組みでは、基本的にフォローする人はその人に興味がある人やファンが中心になります。

 ツイッターにおいては通常、普段の投稿は自分のフォロワーにしかほとんど表示されません。
 実際にはツイートは検索すれば誰にでも表示されますし、リツイートで拡散することもありますが、通常のリアクションはほとんどが自分のファンの人達。

 ツイート自体は世界にオープンなんですが、自分の味方や似たような考え方の人ばかりがリアクションをする形になるので、仲のいい人達と若干クローズドに会話をしているような錯覚に陥りやすいわけです。
 この錯覚の存在は、ツイッター普及の初期に、芸能人のお忍び訪問を、友達だけに報告する感覚で投稿してしまい炎上したケースが相次いだことでも明らかでしょう。


■過激な発言の方が反応がつきやすい

 また、これはツイッターではよく言われることですが、ツイッター上では過激な発言の方が反応が多くなる傾向にあるようです。

 もちろん、感動的な良い話も反応が多くなるのですが、140文字という文字数の制限もあり、分かりやすい言い切り型の発言の方が目立ちやすいため、多くのツイッター上の有名人が一般の会社員ではなかなか言い切れないことをバッサリと言い切ることで人気を集めているケースがよく見られます。

 これはツイッターだけでなく、YouTubeやTikTokでも似たような現象がおこっていますが、やはりソーシャルメディアでは「いいね数」や「リツイート数」など、自分の投稿に対して分かりやすく数値で反応が見られるため、コミュニケーション欲求や自己承認欲求が刺激されて、さらなる反応を求めて極端な投稿や過激な投稿に走るというサイクルに陥りがちです。

 特に日本は、匿名掲示板の2ちゃんねるがネット投稿の歴史の原点にあるからか、ネット上への投稿は、日常会話よりも明らかに激しい言葉遣いをする人が多い印象もあります。

 ツイッターは文字数問題もあるため、普段メールでは丁寧な言葉遣いでコミュニケーションをされている方も、そうした激しい言葉遣いに引っ張られて、言い切り型で強い口調の発言が中心になっている方も少なくないようです。

 さらに、ツイッターでは前述のフォロワーしか普段の発言を見ない構造と組み合わさり、通常は少々過激な発言でもいきなり炎上することは希です。

 ファンや友人であれば、少々の過激発言は許容してくれますし、仮に気になってもわざわざコメントせずにスルーするでしょう。
 ツイッターの仕組み上、ポジティブなリアクションは「いいね」の数で可視化されますが、ネガティブなリアクションはコメントをする必要があるため、通常はポジティブなリアクションの方が圧倒的に数としては多くなります。

 そのため、1つ2つのネガティブなコメントがついたとしても、通常は「少数派」や「クレーマー」として、切って捨てやすい構造になっているわけです。
 そうなると構造的には、はだかの王様と同様に、イエスマンしかまわりにいなくなり、危ないよと教えてくれる人の発言が見えにくくなっていきます。
 人によっては気に食わないコメントをしてくる人を片っ端からブロックしているようですから、はだかの王様になりやすい構造を自ら作っていると言えます。

 過激な発言が自分の身内の人たちだけに見えている間は問題になりにくいのですが、そうした投稿一つ一つが、密かに炎上のリスクをはらんだ状態でネット上に残っていくことになります。


■過激すぎる発言はフォロワー以外にも伝播する

 ツイッターにおいて特に失言騒動が起きやすいのは、この3つ目の特徴がある点です。

 ツイッターはリツイート機能があるために、個人の発言1つが何かのきっかけで一気に広がりやすい仕組みになっています
 Facebookもシェア機能はありますが、ほとんどの人の投稿は友達限定になっていますし、インスタグラムやTikTokには投稿の拡散機能はありません。
 ツイッターの拡散機能は、当然良い話も広げてくれる効果があり、だからこそ「カメラを止めるな!」の拡散にはツイッターの貢献が大きかったというデータが出ていますし、ツイッターでのバズがきっかけで商品が品切れになる事例も増えてきています。

 ただ、このツイッターの拡散の特徴は、個人の失言でも同様に機能してしまうわけです。

 前述の2つの要因から、普段はフォロワーからポジティブな反応しかない状態で、だんだんと発言が過激になっていき、それでも特に問題が起きない状態が長続きしていくと、人間は不思議とツイッターが全世界から見られている場所であることを忘れて、仲の良い友達との居酒屋トークのような気分になっていきます。

 皆さんも、家族でテレビを見ている時に、ついついタレントの発言に対して口汚く罵ってしまったり、居酒屋で仲の良い同期や部下と飲んでいる時に少し普段とは違う過激な発言をしてしまったり、過激な発言を相手にされたりしたことはあるんじゃないでしょうか。
 そうした言葉遣いは、仲の良い仲間の間であれば特に問題視されないかもしれませんが、発言だけ切り取られてメディア等で引用されると、とたんに非常識だと言われることになるわけです。

 最近は政治家が支援者向けのパーティーでついリップサービスで余計なことを発言し、それが録音されていて騒動になることがよくありますが、似たような構造と言えるでしょう。

 個人でも、過激すぎる発言や失言をすると、それがツイッターのリツイート機能であっという間に広がります。
 投稿したときには居酒屋で友達だけに話していたつもりが、気がついたら、はだかの王様のパレードよろしく日本中の人から白い目で見られているということになりえるわけです。

 もうそうなってしまうと、自分のファンや友達以外の人たちに、その発言単独で評価されてしまうため、当然ながらネガティブな反応が一気に増加することになり、投稿を削除しても手遅れになります。


ツイッターの失言は、会話での失言より証拠性が高い

 特にツイッターの場合、飲み会の発言と違い文字自体が残りますし、本人が投稿したという事実が存在します。
 飲み会での発言を伝聞で記事にされたら、そういう意味ではないとか言い訳ができる余地はありますが、ツイートは自らが投稿した文字という形で記録に残る以上、言い訳ができない状況に追い込まれるわけです。

 そのため、いくつかの失言による炎上騒動では、アカウントをハッキングされたという言い訳が散見され、そんなわけないだろ、と総ツッコミをされることがよくあります。

 前述の失言騒動のどれもが、おそらくは似たような精神構造で、投稿されたものと推測されます。

 こうした失言は、実は誰にでも起こりうることです。
 ほとんどの人は組織に所属していると、組織としての建前と個人としての本音の間に必ずズレが存在します。

 常に本音をハッキリ言う人というのはカッコ良いですが、実際には本音トークを売りにするタレント以外の人は、常に本音を言い続けるというのはリスクが高い行為です。

 幻冬舎の見城社長や、ZOZOの前澤社長も、失言によって幻冬舎やZOZO自体のブランドや事業に少なからぬ影響を与えてしまったと思われますし、現場の社員が取引先に謝罪したり、クレームされたりという実害も出ているはずです。
 コウカズヤさんに至っては、組織としての劇団が個人の発言を許容できず、退団という最悪の結果になってしまいました。

 トランプ大統領のように、確信犯で過激な発言を続けているアカウントも一部にはありますが、何らかの組織に所属している限り、永遠にそれを無傷で続けられる人はほとんどいないと考えた方が良いと思います。

 
匿名だから大丈夫、も大きな勘違い

 くどいようですが、こうした失言炎上のリスクは、ネット上に投稿をしているすべての人に存在します。
 私自身も、過去に不用意な発言から批判を浴びたこともありますし、社員に迷惑をかけてしまったこともありました。
 
 自分は匿名だから大丈夫とか、鍵アカだから大丈夫とか思っている人がいたら大間違い。
 画面キャプチャが流出することもありますし。
 匿名で罵詈雑言を投稿していると、それこそ実名とつながってしまったときに取り返しのつかないことになります。

 Facebookの友達限定投稿やインスタやLINEのチャットでも、同様にツイッターにコピペされてしまって炎上した事例がありますから、ツイッターほどではなくとも、ネットに文字を投稿する行為全てに同様のリスクがあると考えた方が良いでしょう。


ツイートは、「つぶやき」ではなく「さえずり」

 個人が誰でも情報発信できるというのは、ツイッターを始めとしたソーシャルメディアが私たちにもたらしてくれた素晴らしいメリットではありますが。
 同時にその力を過信して、はだかの王様になってしまうと、取り返しのつかないトラブルが起こってしまうこともあります。

 ツイッターは一時期「つぶやき」と日本では呼ばれていましたが。
 実際にはTwitterは英語で鳥の「さえずり」のこと。

 友達だけにつぶやいているのではなく、渋谷の交差点でスピーカーでシャウトしているのと同じことだと思って、投稿した方が良いわけです。


 自分はツイッターを長く使っているから大丈夫、と思っている人ほど、案外「はだかの王様現象」の罠にはまりがちですので、是非ご注意頂ければ幸いです。

この記事は2019年5月30日にYahooニュース個人に寄稿した記事の全文転載です。


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