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米津玄師による日本人初のフォートナイトライブ挑戦が秘める可能性

シンガーソングライターの米津玄師さんが、8月7日の20時にオンラインゲームのフォートナイト上でバーチャルイベントを開催するという驚きのニュースが飛び込んできました。

フォートナイトというのは、全世界でユーザー登録数が3億5000万人を超えていると言われる怪物ゲーム。

実はこれまでも海外のアーティストが、様々なバーチャルイベントを開催してきたことでも有名なのですが、日本人アーティストとしてのバーチャルイベントは米津さんが初となります。

フォートナイトをご存じない方には、イマイチピンと来ない話かもしれませんが、これは本当に大きな話です。
まずは、4月にフォートナイト内で実施されたトラヴィス・スコットのライブの映像をちょっと見てみてください。

その後、今回の米津さんのフォートナイトライブ挑戦にどういう意味があるのか、簡単にポイントをご紹介しましょう。


プラットフォーム化するフォートナイト

先程さらっとフォートナイトの全世界のユーザー登録数が3億5000万人と書きましたが、これはとにかくすさまじい数値です。

「あつまれ どうぶつの森」の販売本数が発売後6週間で1341万本を超えて驚異的な大ヒットと言われていましたし、プレステ4の「累計」販売台数でようやく1億1000万台。

3億5000万という数字が、一般的なゲームのヒット数の桁を、大きく上回っているのが分かります。

何しろ、アメリカの人口が3億2820万人と言いますから、フォートナイトの登録数は重複もあるため単純比較は意味がありませんが、少なくとも数値的にはアメリカの人口を超えている計算になるわけで、とてつもない数字であるわけです。

ポイントとなるのが、このフォートナイトが基本的には「無料」でプレイできるゲームであるという点。
さらに、プレステ4やニンテンドースイッチなどのゲーム機はもちろん、PCやiOS、Androidにも対応するというマルチプラットフォームのゲームになっている点です。

実は、ツイッターの世界のアクティブユーザー数が3億8600万とも言われています。
フォートナイトはユーザー登録数ですから、数値の意味自体は違いますが、いずれにしても、フォートナイトはゲームというよりはツイッターのような世界的なSNSと同じ規模にまで成長しているプラットフォームと考えた方が良いわけです。


仮想空間サービスよりも進化したゲーム

しかも、フォートナイトの面白いのは、単なるゲームとしての遊ばれ方に留まっていない点です。
フォートナイトの基本的なゲーム構造は、サードパーソン・シューティングというキャラクターを三人称で見て動かすシューティングゲームで、プレイヤー同士やモンスターと戦うゲームなのですが。

ゲームをプレイヤーとしてプレイするだけでなく、自分だけの島やゲームモードを作ることができる「クリエイティブ」モードがあり、いわゆるバーチャル空間を自由に作り、その中で自由に遊ぶこともできるゲームなのです。

一昔前にブームになった「セカンドライフ」や、マイクロソフトが提供しているゲーム「マインクラフト」などをご存じの方は、そっちをイメージする方がフォートナイトの理解としては正しいかもしれません。

(上記の動画は、日本でセカンドライフが話題になった2007年当時のものです。今はセカンドライフは進化を遂げて全く別物のサービスになっています。)

実はセカンドライフのように、仮想空間を作るべくして作られた仮想空間サービスよりも、マインクラフトやフォートナイトとしてゲームとして作られたサービスの方が、仮想空間を作る機能がどんどん充実しているのが、現在のゲームと仮想空間の状況ということができるかもしれません。

冒頭でご紹介した動画も、普通に見るとちょっと変わったプロモーションビデオに見えてしまうかもしれませんが、背中向きに画面に映っているキャラクターが自分が操作しているゲームのキャラクターというのがポイントです。

フォートナイトのライブにおいては、一人一人がフォートナイトという仮想空間において、バーチャルに自分なりにライブを楽しむことができるわけです。


日本人初が米津さんとなる意味

そして、今回そのフォートナイトで日本人初のアーティストとしてバーチャルイベントに挑戦するのが米津玄師さんという点も、個人的には非常に重要だと考えています。

米津さんの最近の楽曲からファンになった方からすると、米津さんがゲームの世界でライブをやると聴くと違和感を感じる方も多いかもしれません。
実際、過去にフォートナイトでバーチャルイベントを開催してきたアーティストと比べると、米津玄師さんはフォートナイト的なバトル系のゲームとは対極にある曲調のアーティストという印象もあります。

ただ、実は米津さんは、もともとニコニコ動画でのボーカロイドプロデューサーとしての活動を原点としているアーティスト。
その当時の活動の際に使っていた「ハチ」という名前は今もツイッターアカウントに残っています。

過去には、ニコニコ動画出身のアーティストはまだまだ舐められているという趣旨の発言をインタビューでされていたこともあります。

しかも、米津さんのYouTube公式チャンネルの登録者数は500万人を突破して日本人アーティスト1位。

多くの楽曲が再生数1億を超えており、チャンネル動画総再生回数は28億回超えという、インターネットやソーシャルメディア活用においては、間違いなく日本の中で先頭を走っているアーティストなのです。

ある意味、フォートナイトでのバーチャルイベントの日本人初のアーティストが米津さんであるのは、「必然」と言うべきなのかもしれません。


日本の音楽業界のデジタル化の背中を押す1つに

日本の音楽業界は、未だにCDが売れるという世界的に見ても特殊な状態のまま進化を続けてきたため、アーティストによるYouTube活用や、Spotifyのような音楽ストリーミングサービスの普及などの、デジタル化が遅れていると言われています。

昨年の嵐のSNS解禁が大きなニュースになったのが象徴的な出来事と言えるでしょう。


そんな中、今回のコロナ禍により、多くのアーティストがリアルでのライブやイベントの収入を得る道が断たれてしまい、大きな影響を受けることになってしまいました。

今回の米津さんのフォートナイトへの挑戦も、開催を延期してきた自らのライブツアーの中止の判断が影響したようで、決して当初から予定されていたものではないようです。
実際に、インスタグラム上で今回の挑戦への思いをつづられており、今回の決断に至る過程においても様々な模索があったことがうかがえます。

「それと同時に、FORTNITEをプラットフォームとしてバーチャルイベントを開催します。これが全てにおいてHYPEの代わりになるとは思っていません。実際に足を運ぶことと画面越しに集まることの間には大きな差異があります。ただ、現実的に不特定多数が集まる空間を設け難い今だからこそ、何か別の形でみんなと集まれないか模索した結果、実験的にこういう形でイベントをやってみようと決断しました」

ただ、そんな状況だからこそ、米津さんがフォートナイトという世界の仮想空間の最先端において、バーチャルイベントに挑戦する意義は決して小さくないでしょう。

フォートナイトの世界はバーチャルですから、コロナフリーです。
ゲームの世界ではありますが、バーチャルイベントの瞬間は、単純にバーチャル空間でのライブを楽しむことができます。

米津さんのことですから、当然フォートナイトならでは、米津さんならではの新しい挑戦にもトライされるはず。

その過程で、フォートナイトを知らなかった方も、知っていてもゲームだから自分には関係ないと思っていた方も。
多くの米津さんのファンが、今回のバーチャルイベントを通じて仮想空間におけるライブの可能性や、デジタル技術を使ったライブのたのしみ方を感じてくれれば、この挑戦がコロナに苦しむアーティストの方々がデジタルに取り組む何かのヒントやきっかけとなる可能性は大きいように思います。

もちろん、世界に3億5000万の登録者がいるプラットフォームで、米津さんと米津さんの曲が知られることになる価値も大きいはず。

8月7日金曜日、夜20時。
米津さんの挑戦に注目したいと思います。

(といいつつ、実は自分主催の自分の本の出版記念イベントと重なって見れないという運の無さ)

この記事は2020年8月1日のYahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。


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