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西武の2022ドラフト結果とその所感

10月20日、NPBドラフトが開催された。
ライオンズは以下の選手の交渉権を獲得した。

支配下
1位 蛭間拓哉 外・早稲田大
2位 古川雄大 外・佐伯鶴城高
3位 野田海人 捕・九州国際大学付属高
4位 青山美夏人 投・亜細亜大
5位 山田陽翔 投・近江高
6位 児玉亮涼 内・大阪ガス
育成
1位 野村和輝 内・石川ミリオンスターズ
2位 日隈モンテル 外・徳島インディゴソックス
3位 三浦大輝 投・中京大
4位 是澤涼輔 捕・法政大

2022ドラフト結果

以下、それぞれの選手について見ていこうと思う。


1位 蛭間拓哉 中堅手・早稲田大 177・87


公言通り一位指名は早稲田大・蛭間。元ライオンズジュニア、浦和学院高、渡辺GMとの繋がりなど何かと縁のある選手で、奇遇ながら補強ポイントにも完全合致した。本人曰くライオンズは「一番入りたかった球団」であり、まさに相思相愛の関係性だった。また西武には高校同期の渡邉勇太朗が在籍しており、かつて甲子園を沸かせた投打のエース2人による相乗効果にも期待が持てる。

戦力的には文字通り即戦力として1年目からの活躍が望まれる。本人にとっては酷な話かもしれないが外野3枠が空いている現状、そのハードルは他球団と比べるとかなり低い設定となっているだろう。左投左打の特徴を存分に活かした綺麗なフォームはメカニクスの観点からも非常に優れているとの評価が多く、その左手の押し込みによって広角に長打を放つことを可能にする。また三振率はやや高いものの選球眼には定評があり、絶不調である今秋でさえもフォアボールはしっかりと選べている。

しかし蛭間の一番の魅力はデータに表れないところに存在する。単純なカタログスペックの良さに留まらず、早慶戦での決勝弾に代表される勝負所での強さ、時に自分を追い込んでしまうほどの強い責任感、代表合宿で常に周りに囲まれるカリスマ性など、掘れば掘るほど彼の持つ奥深さに気付かされる。そして渡辺GMは長い間彼を追い続けたからこそ、自信を持って1位指名の公言に踏み切ったのだろう。

蛭間拓哉(画像はFull-Countより)

2位 古川雄大 中堅手・佐伯鶴城高 186・90


西武の今年のドラフトを代表するピック
。2位は即戦力投手だろう、という大半の予想を覆しまさかの野手、しかも2連続外野手、しかもなんと古川。適正順位での獲得とはいえ、身長185を超える大型で身体能力に全振りしたロマン型の野手を近年西武が獲得した記憶はないため、非常に驚かされる指名となった。稼頭央政権となり、彼の現役時代を鑑みて圧倒的なスピードとパワーを兼ね備えた身体能力を選手評価の上で重視する傾向が強まったのかもしれない。

彼のプレーを見ていると、「身体能力はNo.1」という触れ込みになんの疑いもないことがすぐわかる。地面を蹴るごとにスピードは上がり、後半にかけてどんどんと伸びてくる。ダイヤモンドを軽くジョグで一周している時でさえも、その走り姿から体に備わる強靭なバネを確認できる。「ダンプカーにF1のエンジンを積んだよう」と渡辺GMが話した通り、その馬力はまさに規格外。外野から矢のような送球を繰り出す最速140の強肩をも備えるスペシャルな存在である。

打撃の荒さ、守備における打球判断、送球のコントロールなどの面においてはまだまだ時間がかかりそう。だがこれほどのポテンシャルを持った選手は中々おらず、23歳以下の外野がほとんどいない編成上、じっくりと下で育てることができるだろう。リスクはあるが、リターンは無限大。どう育つか楽しみでしかない。

古川雄大(画像は西日本新聞より)

3位 野田海人 捕手・九州国際大付属高 174・81


意見の分かれる判断。野田の1番の特徴はその捕手性能にあり、世代NO.1クラスの強肩に加えてフットワーク・インサイドワーク・ブロッキングなどの技能も高水準にある。つまり実戦向きなタイプで枚数の少ないファーム捕手としての運用もすぐ可能になるだろう。侍にも選出され、捕手としてだけではなくピッチャーとしても登板した。しかし打撃面においては課題が多く、地方では良くとも全国の舞台では全く通用しなかったため、ゼロから打撃の作り直しが必要となってくる。

そんな彼が3位で指名されたのにはやや驚いた。守備型の高校生捕手は今ドラフトにおいてボリュームがあったジャンルであり、野田自体の評価も打撃の課題から下位指名が濃厚とされてきた。この順位での指名は球団内で捕手における強肩要素の重要性が高まっている(古賀、古市、是澤など)ことの表れでもあるか。

また西武がどうしても彼を欲しがっていたのなら、意外にもこの順位が適切だったかもしれない。西武3巡目〜4巡目の間に高校生捕手が二人指名されており(山浅、清水)、野田がこのジャンルで1番だというコンセンサスがあったのならこれらの球団に先に指名されてしまっていた可能性もある。また野田の代わりに3位で取るとすればそれは即戦力投手、それこそ4巡目指名した青山などであったため、結局はこの順番での指名が正解だったと言えよう。偶然か狙ったか真偽はわからないが、偶数年ドラ3野手の伝説も存続した(山野辺頑張れ)。

野田海人(画像は日刊スポーツより)

4位 青山美夏人 投手・亜細亜大 183・94

スリップした上位候補を素直にスチールし、昨年の佐藤隼に引き続き「やればできんじゃん」と思わされた。彼はまさに大学生投手のプロトタイプであり、体格・球速・制球力・変化球・投球術など全てにおいてバランスよく高水準にある。完成度は素晴らしく、今春は東都で防御率1.40を記録しMVPを獲得すると、大学選手権でも大車輪の活躍を見せた。

球種も豊富であり、縦スライダースプリット亜大ツーシームと3つも落ちる変化球を持っている。球速帯は140前半とやや控えめだが、リリーフ登板の際にはそれが7〜8キロ上昇して150近辺の威力ある球に変貌する。そのため最初はリリーフが主戦場となるだろうが、平均球速が上がれば球界のエースになれるだけの投球術は見せている。

「先発では二軍でローテを回して育成、中継ぎでは即戦力候補」という球団のニーズに完璧にフィットした投手であり、それだけに2位指名で予想していたためこの順位で取れたのは非常に大きい。上位3名を素材重視の野手で埋めて崩れかけた編成上のバランスは、この青山と後述する山田陽で完全に取り返せたてか亜細亜大から選手って取れるんだね、知らなかった

青山美夏人(画像はスポニチより)

5位 山田陽翔 投手・近江高 175・78


甲子園のスターがまさかの西武入り。現段階での完成度でいうと間違いなく高校No.1投手である彼を5位で取れる、しかも取ったのは予想外であった。この世代の顔であり、そのスター性から客も呼べる選手。その長打力から野手転向でも潰しが効くため、極めてローリスクハイリターンなバリューピックとなった。

最速149の真上から投げるストレートに加え、高校生レベルにない変化球による高い奪三振力が持ち味。切れ味抜群のスライダー・ツーシームはピッチトンネルを通過し、並の高校生じゃ打てるわけがない。また勝負所でベストピッチを投げ込めるメンタルの強さも素晴らしいものがある。これらを踏まえると、U-18代表でも任されていた守護神のポジションがプロでも適任だと思える。

伸び代の部分で懸念の声も聞こえるが、あいにくこの球団には173センチ100キロ(指名当時は84キロ)で活躍する平良海馬がおり、体格的にある程度の育成指針にはなるだろう。平良のように筋力トレーニングを積めばまだまだ球速も上がるだろうし、制球にも改善の余地がある。正直西武にあの山田陽翔がいるのは違和感しかないが、素晴らしい選択だったように思う。

山田陽翔(画像はSportivaより)

6位 児玉亮涼 遊撃手・大阪ガス 166・65


守備力に定評のある社会人ショート。かなり小柄だが、意外にも打撃には広角に放てるパンチ力があり守備専に留まらない可能性を残す。実戦向きで二遊間のバックアップ要因としてはすぐに使えるため、去就が未確定の外崎・山田遥の退団リスクをある程度カバーしておくという狙いもあるか。

トヨタで9番だった源田が山賊全盛期に2番を打つなど、プロで打撃開眼してそのまま活躍する例が近年多数見られる社会人遊撃手。源田・中野・上川畑などはその代表格で現在のトレンドとも言えよう。児玉もその例に倣い、ショートでなくともセカンドやサードで1年目から活躍する可能性も十分にある。

松井ー中島ー源田とスムーズ()に移行する西武遊撃手の世代交代。その次を担うのは山村滝澤長谷川ら西武屈指のプロスペクト達だが、如何せん源田とは年が離れている。この難しい世代交代を実現するための潤滑油としての役割も児玉には求められているだろう。

児玉亮涼(画像は週刊ベースボールより)

育成1位 野村和輝 三塁手・石川MS 183・93

高卒一年目、強肩強打のサード兼ピッチャー。投手としては最速151を誇り、その強肩ぷりは三塁守備にも活かされる。体重3桁も射程圏内の大きな体から、鋭いスイングで球を弾き返す右の強打者。まだまだ若く、補強ポイントや将来的にも良い指名だった。

育成2位 日隈モンテル 中堅手・徳島IS 186・86

西武の入団テストに合格した、身体能力に優れたザ・一芸枠。今夏まで投手だったが、野手転向するとその快足で盗塁を決めまくった。まずは恵まれた足と肩でアピールし、フィジカルを全面に押し出したプレーで支配下枠を掴み取りたい。

育成3位 三浦大輝 投手・中京大 180・92

最速151の快速球が武器で、リーグ最優秀防御率やB9の獲得経験もある実力派。そのスペックの割に指標が悪いのがネックで育成3位まで順位は落ちたが、補強ポイントである二軍ローテ要因としてには十分な完成度を誇っている。

育成4位 是澤涼輔 捕手・法政大 178・79

多分肩だけで取ってる。あとは六大学とのパイプ強化とか。法政の二番手捕手でありリーグ戦はほぼ出場していない(3打席0安打)が、正捕手より先に指名された。噂レベルだが、遠投131キロ・二塁送球1.78秒らしい。本当なら爆肩。


以上の支配下6名・育成4名が入団することとなる。
事前に考察した補強ポイントと照らし合わせて、ドラフトを評価してみよう。

見ていない方はこちらから↓

各補強ポイントについて、このように指名した。

ー年齢構成から考える補強ポイント
① 高校生捕手 →野田・(是澤)
② 投手全般(できればイニング食える先発タイプ) →青山・山田・三浦
③ 高校生外野手 →古川・(モンテル)
④ 高校生長距離砲(一・三塁を守るイメージ) →野村・(古川)
(⑤ 即戦力セカンド) →児玉

ー投手課題から考える補強ポイント
① 大社先発型投手(やや素材寄り) →青山・三浦
② 出力の高い高校生投手 →山田

ー野手課題から考える補強ポイント
① 即戦力外野手(できれば選球型or機動力) →蛭間
② 高校生捕手or打撃型大社捕手(森次第で変わる) →野田・(是澤)
③ 素材型高校生外野手 →古川
④ 高校生ロマン砲 →野村・(古川)
⑤ 実戦向き二遊間 →児玉
(⑥ 足のスペシャリスト) →モンテル

野手に関しては完璧な布陣と言えるのではないだろうか。弱点を的確に補強しており、しかもロマンが欲しいところでは素材型を、実戦力が欲しいところでは即戦力をチーム状況に合わせてしっかりと取り切っているように見える。

投手の枚数は明らかに少ない。上位指名は無かったにも関わらず質的にはかなり良い人材が揃い、指名された彼らに関しては文句の付けようが無いが、絶対数が足りていないので3人じゃ到底足りない。支配下枠も余っているので、他球団に育成指名された松山晋也・松井楓・才木海翔あたりは取れたのでは?と考えてしまう。TJ組が帰ってくることを考慮したのだろうか、にしてもファームの現状を見るとせめてあと1枚くらいは欲しかった。

それでも不作と言われる今回のドラフトにおいて、非常にいい指名ができたのではなかろうか(これは多分全球団思ってる)。課題の野手の補強を上位でしつつ、4位青山という会心の指名によって来季の投手陣の層も強化することができた。個人的な満足度で言えば、投手の枚数が相変わらず少ないことと、西村瑠伊斗をスルーしたこと以外では特にケチをつけるところはない。流石に昨年ほどではないが、概ね100点に近い内容だったと思う。

また全体的に西武のドラフトとは思えなかった。いい意味で。今までにいなかったタイプの古川を獲得したのもそうだし、青山・山田陽の並びが西武のものであるとは未だに信じられない。また六大学東都から積極的に指名しているのも、球団に吹き始めた新しい風の匂いを感じる。

5年後、「神ドラフトだったわ〜」と振り返れますように。



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