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ホールドアップ問題に関する物語を作ってみた

ホールドアップ問題のケースを考えるという大学の課題があったのでその内容を掲載してみます。みなさんが阪根であればどのようにこの問題に立ち向かい回避しますか?

※この物語は全て空想上のものです。実際に存在する企業や人物とは一切関係ございません。

阪根はCRMマーケティングツールを提供するスタートアップ企業CAUDA社を2020年に設立し同社代表取締役に就任した。

2022年5月、開発は佳境に入り阪根は営業活動を開始した。大手の導入実績がないことから契約獲得は難航した。
1アカウント月額1万円と単価が高く、全社導入を前提とするサービスであることも影響した。
そんな中、阪根が一縷の望みをかけて営業した中堅商社があった。
契約獲得ができたら奇跡と考えていた阪根であったが、「1事業部100名ほどでまずは契約したい。よければ全社導入も検討する。」意外と担当者は乗り気であり、順調に事が運んだ。
しかし、社内で使われている内製のシステムと連携できるAPIを開発することが条件であった。阪根が社内のエンジニアと確認したところ、商社の内製システムは相当レガシーな構成であることが判明した。
先方の望む納期を加味すると自社開発は現実的でない。
阪根はAPI開発の見積りをシステム会社に依頼した。
条件とする納期で開発が可能と返答があったのは1社だった。
見積り金額は約700万円。
CAUDA社の財務体質を心配してか全額前払いが条件であった。
阪根はこの開発費用を加味し、利益が確保できる3年間の契約を結ぶことを商社担当者に伝えこの条件で合意に至った。
この時契約書の取り交わしは行っていない。
納品物の詳細が確定しない段階での正式な契約は難しいということであり口約束で事を進める他なかった。
阪根はAPI開発をシステム開発会社に正式に発注し、700万円を振り込んだCAUDA社の残高は約1000万円、月々のバーンレートは約100万円、売上はないので単純計算で残り10ヶ月が勝負である。
阪根は半年後の商社導入が決定すれば月々約100万円の売上が見込めることから、大きな心配はしていなかった。
3ヶ月後の2022年10月、API開発を発注しているシステム開発会社から次のような連絡があった。
見積りよりも開発時間がかかっている。
計画通りに進めるためには追加の人員が必要であり、さらに300万円必要になる。
他に発注できる会社はない。
納期に間に合わせるためには追加の300万円を支払う他に方法はない。
阪根は苦い思いをしながら追加の300万円を振り込んだ。
残高は残り400万円弱。
向こう3ヶ月で開発が完了し導入を開始できても、商社からのさらに1ヶ月先になる。
阪根は倒産の危機を強く感じ、資金調達を進め始めた。
予想はしていたが、売上がないCAUDA社に融資判断を下す金融機関はなかった。
投資家との交渉も導入予定の商社との書面上の契約がないため難航した。
唯一投資を前向きに検討してくれるVCがあったが、提示されたバリュエーションは阪根の想定していた1.5億の3分の1の5000万円であった。
必要資金である500万円を調達するためには約10%の議決権を渡す必要がある。
余裕資金も含めれば1000万円の調達が理想であり、その場合には約20%になる。
阪根は悩みに悩んだ。
結論が出ないまま2ヶ月が経過した。
APIの開発は順調であり来月には商社への導入を開始できる段階まできた。阪根は商社担当者に状況を伝え、書面での契約を改めて要望した。
聞かされた担当者の言葉は耳を疑う内容でだった。
「法務部の方針変更で完成するまで契約は結べない」「今年の予算額が少なく導入は2023年度からにしてほしい」。
阪根は途方に暮れた。
一連の状況をVCに伝えたところ、あっさりと投資見送りの連絡が入った。

中堅商社である阪井商事は2024年より社内システムの刷新を計画していた。コンプライアンスの都合上外部企業のサービスを導入することは難しく、全て内製化する必要があった。
しかし、予算は3000万円と少なく、実現が難しい状況にあった。本件を担当する鷹司は頭を悩ませていた。
そんな頃、開発予定のシステムに非常に近いシステムを開発するスタートアップ企業から導入提案の営業があった。
鷹司は3000万円でこのスタートアップの開発するシステムを買い取ることを画策した。

予定していた導入時期が遅れ、VCとの交渉も決裂し、阪根はついに諦めた。廃業することを伝え謝罪するために阪根は担当者の鷹司氏とのミーティングを設定した。
怒られる覚悟で出向いた阪根であったが、担当者の鷹司氏から話されたのは意外な提案であった。
3000万円でシステムを買収したいという提案であった。
提案価格は当初坂根が考えていた企業価値からは大幅に割引されている金額であったが、どの道廃業を決意してもいたため、提案に応じることにした。

鷹司は予算内で社内システムを構築する難題を見事に達成し、2024年執行役員に昇進した。


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