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サダミ叔父

小学三年まで住んでいた家。一階の暗い廊下の先にはトイレと洗面所があって、洗面所にはくたびれた薄いタオルが何本もかかっていて、いつも大人の男性特有の汗臭い匂いが漂っていた。この家には僕の家族の他に父の両親と兄弟が二人住んでいて、女系家族の母方とはすべてが対象的だった。

あるとき、そんな男臭い洗面所に洗顔化粧石鹸が置いてあるのに気づいた。おそらく理容店を営むマサオ叔父が置いたのだろう。
まだ使われていなかったチョコレート色の石鹸はとても美味しそうだ。サダミ叔父は僕の横に来てこう言った。「雅之くん、こいはね、チョコレート石鹸っていうて、食べらるるっ石鹸よ」白い石鹸しか見たことがなかった僕でも、さすがに騙されることはなかったが、時々、妻に向かって小さな子供を騙そうとするような嘘をついてしまうのは、おそらくそんな事があったからなのだろう。

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