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『三体』の作者の短編を読んで感じたバカSFの良さについて

※劉慈欣『円』に収録されている短編『郷村教師』のネタバレがあるので注意

『三体』自体は途中自体で読むのを断念してしまったが、短編なら読めるだろうということで『円』という『三体』作者の短編集を読んでみた。今回はその感想を書いていこうと思う。

感想を書くと言っても全ての短編について言及するわけではなく、今回は短編集の中でもひときわ印象に残った『郷村教師』という作品にフォーカスして感想を書こうと思う。

『郷村教師』は貧しい寒村で育った教師が、その村の子どもたちに教育を施すために奔走する話である。村の大人たちは貧しさゆえに国から補助としてもらった機器などをすぐに売ってしまったりと、貧しさゆえに考え方すらも貧しくなるという悪循環が描かれている。

この短編の前に載っている『地火』という作品も社会派的な内容だったので「三体みたいなSF以外にも、そういうのを書く作家なんだなー」と思って読み進めているとまさかすぎる意外な展開となる。

『郷村教師』で描かれるのはそんな話だけではなかった。貧しい村の話が一通り語られた後、急に宇宙戦争が始まるのである。

最初その部分を読んだときは一瞬目を疑った。というか短編集なので「さっきの村の短編終わったのか?」と思ってしまった。しかし短編は終わることなく同じ作品として続いている。

急な展開に困惑しつつ読み進めると、先ほどの村のリアルで陰鬱な描写と打って変わり、やたらと大規模なSF描写が繰り広げられる。ケイ素生命体と炭素生命体の大規模宇宙間戦争がそれっぽい用語や理屈で描かれる。

そして具体的な理屈は省くが、戦争に勝利するためにある一帯の星をすべて破壊しなければならないという超展開になり、その一帯に高度な知的生命体が住んでいるか超文明の炭素生命体がテストするという話になる。

ここまでやられてしまうと超展開なんだけどバカっぽくなってきて面白い。『三体』でも大規模すぎてバカっぽい感じになってたけど、それゆえに発生する良さがこの作品にもあると思う。

結局地球の文明レベルが炭素生命体の偉い人たちに伝わり地球は救われるという話になる。いまいちテーマ性はつかみきれなかったけど、高度文明のテストをクリアする際に教師が子どもに教えていた事柄が役だったので、そういった知識の伝達の重要さと尊さを示した作品なのかもしれない。

劉慈欣の『円』はどの短編も違った読み味で面白い。まだ三作しか読んでいないのでこれ以降も少しずつ読み進め、気になる作品があったら記事を書こうと思う。

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