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映画『オッペンハイマー』の感想

※映画『オッペンハイマー』のネタバレがあるので注意!

公開日に早速オッペンハイマーを観てきたのでその感想を書いていこうと思う。

まず自分はこの映画を見るにあたって背景情報を知っておきたかったので以下の本を読んだ。なので映画を観る段階では描かれることの大筋は知っていたということになる。

実際に映画を見てみると先に情報を知っておいて正解だったように思う。作中の時系列が結構入り乱れているので初見だと理解がおぼつかなかった可能性もある。本で出てきた著名人がちょっとだけ出るシーンなどでも、小ネタを見つけるというような感覚で楽しめたという感じがする。自分が読んだ本だとシラードについて結構書かれていたが本当にちょい役で小ネタという感じだった。

一応戦前と戦中はカラーで公聴会の時はモノクロになったりもするけどオッペンハイマーが取り調べを受けている時(戦後)はカラーだったりもするのでいまいち法則性がわからなかった。水爆について議論している時も記憶違いでなければモノクロの場面とカラーの場面が入り乱れていたと思うし(ここは記憶が曖昧なので違うかもしれない)、とにかく背景情報を知らないと混乱しそうな気がする。

なので本を読まずともwikiなどで大まかな流れは把握しておいた方が映画を味わえると思う。少なくとも人物としてストローズ・グローヴス・ニコルズ・ジーンくらいは知っておくといいかもしれない。特にグローヴス(軍人の人)に関しては映画だけ観てるとオッペンハイマーと打ちとけた描写もそんなにない(しいて言うなら出会いのシーンくらい)し急に仲良くなってる感じがしたが、本だとグローヴスのオッペンハイマーへの思い入れは結構強かった感じに書かれているのでそういったことを頭に入れておくとわかりやすく観れると思う。

この映画は思ったより反原爆・反水爆・反大量破壊兵器という感じがした。研究者倫理を求める描写も多々あったし、オッペンハイマーに言い訳を与える余地なく、止められるポイントなんてどこにでもあっただろうといった感じで描かれていた。ロスアラモスを建設するときに人道的な理由から出ていく研究者もいたし、研究に突き進むオッペンハイマーと対比させて反原爆的な考えも随所に出ていたと思う。

広島や長崎に原爆が落とされた様子が間接的にしか描かれていないという批判もあったけど自分はそこに関しては本質的な問題点ではないと感じた。むしろあっさり描いたからこそ研究者たちの無責任さや戦場からの遠さが伝わってきて、その研究者たちの浮世離れした感覚が浮き彫りになっているように思えた。昨今の兵器開発でも同じように開発者たちと実際の戦場は遠いのだろうと思う。この遠さこそが本質的な「無関心さ」という問題だと思うのでそれを描いていたんじゃないかと思う。

直接的な描写が描かれていないからと言って、原爆を落としたことを肯定しているわけではないし否定的に描いているのは確かだ。トリニティ実験が成功したシーンで喜んではいるけど映画の演出としてはどこか乾いた成功という感じに描かれていたし、想像以上に明確に反原爆という作りになっていたと思う。

原爆の怖さも十分に伝わる出来だった。IMAXの音響でときどき流れる轟音を聞くと「これが日本に落ちたのか……」と恐怖に襲われる感じがあった。アメリカの人はどう見たのかはわからないけど日本人の感覚としては本当に怖かった(間違いなく肯定的には描かれていないのでアメリカ人としても思うところはあったんじゃないかと思う)。

自分が印象に残ったシーンはヒトラーが降伏した後にそれでも原爆を作るかどうかという選択に迫られたという場面である。このときにオッペンハイマーがそれでも作るという選択をしたというのを明確に描いた点は真摯だと感じた。ここに関しては本を読んでいる時から注目していたところである。ここのシーンまでは「ナチスより先に原爆を作る」「ナチスに原爆を持たせない」という大義名分を元に原爆を作っていたが、それがなくなった段階で作る意義はどこにあるのかという問題が出てくる。日本も降伏寸前の段階でそれでもなお作るという選択をした、それを描いたのは評価できるポイントでオッペンハイマーの罪に対して言い訳の余地ができない作りになっていると思う。

あと11都市から原爆を落とす場所を選ぶ会議を描いたのも残酷さを際立たせる上で大事なポイントだったように思う。「京都は文化財が多いから外す」というようにまるで旅行先を選ぶかのような感覚で原爆を落とす場所を議論している、それが兵器を使うことを決定する立場の人間の戦場からの遠さのわけでこのあっさり感が残酷に響いたという感じがした。

オッペンハイマーの映画なので仕方ない面はあるけど、オッペンハイマーの視点からだけだとどうしてもとらえきれない問題点があるようにも思える。戦争の問題は多角的な視点が考えられてしまうのでどうしても映画一本では収まりきらない問題が種々出てきてしまう。そういった意味で不満点がなくはないけど1本の映画としてはよくまとまっている作品なんじゃないかとは感じた。それなりには満足できる映画だったし反原爆をここまで描いた映画がアカデミー賞を獲ったというのは大きなことだと思う。繊細な問題なので賛否はあるかもしれないが自分としては評価できる作品だったように思う。

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