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「もう一度読みたい! '80年代の日本の傑作」

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#子どもの本

末吉暁子『ミステリーゾーン進学塾』

 この連載では、1980年代の当時は話題になったけど、今は書店で手に入りにくくなっている作品を紹介していきます。  1975年に『かいじゅうになった女の子』でデビューし、77年に発表した『星に帰った少女』で、日本児童文学者協会と日本児童文芸家協会の新人賞をダブル受賞して話題になり、以後多彩なファンタジー作品を送り出してきた末吉暁子の異世界ファンタジーです。 夏休みに入って間もないある日、有名私立中学への合格率の高さで評判の進学塾の子どもたちが、三人の先生に引率されて、「

森山 京『あしたもよかった』

 この連載では、1980年代の当時は話題になったけど、今は書店で手に入りにくくなっている作品を紹介していきます。  作者の森山京は、コピーライターの仕事をした後、40歳頃から童話を書き始め、『きいろいばけつ』『つりばしゆらゆら』など、多くの幼年童話の傑作を残しています。この作品も、小さなクマの子が野原で出会った一日の、様々な体験や驚きを詩的に描いて、深く心に残ります。  朝、クマの子は川のふちに座り、耳をすますと、水が「きつねくんきつねくん」とささやいているように聞こえ、

長谷川集平『見えない絵本』

 この連載では、1980年代の当時は話題になったけど、今は書店で手に入りにくくなっている作品を紹介していきます。  1976年に『はせがわくんきらいや』で、絵本の世界に衝撃を与えた長谷川集平が、1985年に急逝した映画監督の伯父・浦山桐郎へのオマージュを込めた作品です。それはまた、家族ならではの、世代を超えた神話的ともいえる奇跡の物語であり、不思議な体験を通した少年の成長物語でもあります。  主人公の少年「ぼく」は、お盆に母さんの故郷の長崎を初めて訪ね、母さんの弟で、一人