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特売小説短編

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宇宙の全てを躍らせてやると誓った女、今晩死ぬと予告された男、廃墟の団地で出逢った男女。 いつも同じベンチに座っている老人、級友を殺して回る毎日を繰り返す高校生、朝焼けの街で殴り… もっと読む
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記事一覧

#19 How to write a shitty novel: 4 Life

 時間が知れたり、遠方にいる相手と通話が出来たり、地図を開いて目的地を指定すれば道案内をしてくれる小さな板んぱ、これの、あらかじめ設定した時間に音楽を鳴らす機能で以て眠りから覚まされた。  北原白秋の「さすらいの唄」、辛気臭い単調な旋律に気持ちが凪ぐ。  どこかの殺風景な丸太小屋にぽつねんと置かれた寝台の上で俺は、上体を起こす。右手の壁に一挺の機関銃と一本の両手剣が掛かっている。即ちそれが今日の俺の役目、だがどっちも気分じゃねえな。  何年分かの砂埃と返り血で赤茶けた、

#18 How to write a shitty novel 3: Dead End

 愛を詠うでなく、孤独を叫ぶでなく、怒りを叩き付けるでもない。  ただ自らを慰めようという逃避であり、空虚から目を背けようという誤謬であり、不満を押し流そうという作業に過ぎない。我慢を強いられて遵わざるを得ず、明るい色も楽しい音も届かない地下室に閉じ篭もり壁に死体を塗り込めているに過ぎない。  死体の数は増え続けている。  塗り込めた筈が息を吹き返してまたぞろ塗り込めろと苦痛を訴える。  延々と続く。  何故なら死体が自らのものであるが故にその作業は延々と続き、地下

#17 あの娘がユニバース

 灯火と書いてあかり、小さくとも明るいと書いてあかり。  私と小明は名前の読みが同じ。  私と小明は好きな漫画が同じ。  私と小明は初恋の相手が同じ。  私と小明はバストのサイズが同じ。  私と小明は嵌まっているお菓子が同じ。  私と小明は初めてお酒を飲んだ日が同じ。  私と小明は人に言われる第一印象が同じ。  私と小明は出身小学校、中学校、高校が同じ。  私と小明は歳が二つ離れている。  私は亀を飼っている、小明は猫を飼っている。  私は敵を必要とする

#16 How to write a shitty novel 2

 空はドーム状、多少のグラデーションは見られるが灰色一色。延々と続く雲海、その中に渡された綱の上をわたしは往っている。そんなイメージ。  いずれどこかにたどり着く保障はなくきっと力尽きて落ちるだけの綱渡り、それを続けるか或いは思い切って底の見えない雲海に飛び込んでみるか、そういう選択をわたしは迫られている。  いわゆる進路問題。  悩むまでもなく自分の気持ちは決まってる。綱渡りを続ける。だけど世間体を考えたらその選択は決して正解と言えず、経験則を語りたがる諸先輩方からの

#15 How to write a shitty novel

 あんたが死ねばこの無間の地獄も終わるのよ。  などと寂しい事を妻が、レンジから取り出した袋のままの冷凍食品をテーブルに放りながら、旦那に向けて言い放った。怒りも蔑みもなく、ただ事務的な声だった。  自分で用意をした皿に袋のエビピラフを移しながら旦那が応えた。 「逆に言えばお前が死んでも結果は同じって事だよな」  ご尤も、と、妻は納得せざるを得なかった。 ====================  いきなり男が目の前に立ちはだかり、嬉々とした表情で着ていたコートの

#14 ずっといつまでもたまに逢おうよ

 昭和生まれの父親の思い出話に登場しそうな駄菓子も売ってるクリーニング屋、その軒先に置かれたアップライト筐体はただの一台。詰まりゲーセンか、誰かの家に集合して遊ぶ男子からは無視される場所、故に専ら、エリカと未知の寄り道スポットになっていた。  未知のプレイをエリカが横から覗き込む、そんなふうにしてその日も夢中になっていた為に、背後に忍び寄るものに気付かずにいた。 「しょーりゅーけん」  掛け声一発、未知のスカートを捲り上げたのは三人連れのクラスの男子。顔を見合わせにやけ

#13 なぐさみものマリーとやけっぱちヌイグルマー

 昼休みに全裸で。 「ちんこを弄ると気持ちいいー。オナニー、オナニー」 「精子を飛ばすぞ元気よくー。オナニー、オナニー」  卑猥な言葉を叫びながら校庭を走っているのはブーカスと原人。折からの雨による低気温と、重たい泥とが相乗して容赦なく体力を奪う。即ち苦行、しかし彼らは自主的にそれを行っているのではなく、学力順では県下で上の中くらいに位置する市立高校という社会に於いて慰みものの役割を押し付けられ、強制されたもの。  教室に閉じ込められ退屈している生徒らの軽蔑や嘲笑を浴

#12 ヲーリーVSももか姫 暁の決着

 おうあんちゃん、今日も仕事帰りかい。  そうかい、明日は休みかい。だったらさっさと帰らなきゃ、こんな路地裏に寄り道なんかしてないで。奥さんだか、彼女だかが待ってるって言ってたろ、こないだ。  ところであんちゃん、たばこ持ってねえか、たばこ。  おお、悪いね。そっちの袋はあれかい、酒かい。  おお、悪いね。なんか催促しちゃったな。そしたら、またなんか面白え話してやんなきゃいけねえかな。  そうだな、三日ぐれえ前に若え女の子同士の喧嘩、見掛けたんだよ。その話でもしてや

#11 PHANTOM SEARCH OPERATOR

 紛失してしまった大事なくまのぬいぐるみを捜して欲しいという、五歳の少女からの依頼。  紛失時の状況など、心当たりを訊いたところ、一番の友達が盗んだ筈はないと答えた。直ぐに彼女の一番の友達を問い詰め隠し場所を自白させた。解決まで一時間も要さない簡単な事件だった。 『あれは円満解決が本当の望みだろ。友情は壊れずぬいぐるみも戻る形の。なのに犯人の子を引き摺って依頼人に直接謝罪させるとかお前は鬼か。あの子たちの泣きじゃくる姿を見て心が痛まなかったのか』  罪は罪だ。それとも、

#10 ベンチの下に埋められた

 気付けば毎日、朝も夜も彼は児童公園の決まったベンチに座っていた。高校入学から三ヶ月と二週間、その姿を登下校時にちらと横目で盗み見る事が玲子の日課になっていた。  好々爺然とした佇まいで無邪気に遊ぶ子供たちを微笑ましく見守るような表情を、たとえば雨が降って周囲には誰もいない日でも湛えていた。  老人のその様子を玲子は怖いと感じていた。 ==================== 「どこの公園よ」 「だからあの、古い電車が置いてある」 「海沿いの、団地のとこ」 「そ

#9 誰も知らない廃墟で君と

 春は、市営団地の駐車場を見下ろす高台一択、染井吉野を綺麗に見るなら絶対に外せない場所。  夏は隣町の香取神社、境内のけやき下のベンチは心地好い風が通る道、板チョコモナカが隣にあれば何時間だって座っていられる。  秋を感じたいなら西小近くの通称三角公園、園内の林は銀杏の樹が多く、時季にはその実の匂いで充満する。  そして冬と言えばやはり町の南、ゴーストタウンと呼ばれる一帯。ぼた山を切り崩して造成されたものの半分以上に買い手がつかず放置状態の宅地、区画された更地が視界いっ

#7 王様は裸

「去年と発声法を変えて声に拡がりを持たせられたし、実際、寝る間を惜しんで練習した成果を選考会でも出せたと思うの。だけど今年も私は歌姫に選ばれなかった。ねえ、どうしてだと思う。私に足りないものがあるとすればそれはなんだと思う」  八方塞がりで藁にも縋りたい、女のその祈るような気持ちが強く感じられた。だから男も真っ向から、真面目に答えた。 「やっぱり、歌姫というくらいだから器量も重要視されるんじゃないかな。その点で君は向いてないんだと思う。この先もずっと選ばれる事はないと思う

#6 スペース女囚コマンドー 地獄の復讐者<リベンジャー>

 西暦2506年7月13日。  スペース時間、午前10時0分36秒。  その日、その時間、宇宙全域に無数に存在する全てのテレビ放送局が電波ジャックされた。時間にしてほんの10秒弱、一人の青年による或る声明が配信された。  度を越した顕示欲を持つ幼稚なるの悪質な悪戯だと、全ての放送局が異口同音にそう伝えた。スペース一般人の殆どがその見解を鵜呑みにした。  だが実際は、全宇宙の平和を脅かす未曽有の危機が進行していた。 ===============  スペースプリズン

#5 孤独な、殺戮の、日々。或いはRepetition of the Dead

 今日は「死霊のしたたり」のメインテーマだった。重要アイテムとして劇中に登場する鮮やかな黄緑色の蘇生液とバーバラ・クランプトンのヌードが眩しい映画だ。  設定していない目覚ましアプリが起動して俺を無理矢理叩き起こす。ベッドの上で身体を起こしながら学習机の上に目をやると、機関銃が一丁、用意されている。  くそったれ。  今日も、昨日の繰り返しだ。  昨晩、洗濯かごに放り込んだ制服が真っ新になって鴨居に引っ掛けたハンガーに吊るされている。着替えなければならない理由はないが