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ならハッピーエンドにしてやりますよ

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はみ出し上等の推定高校生れんじゅうと、その周辺の人々のわちゃわちゃ。鬱々と悩むものはいません。人死にも出ません。えっちなのもいけないと思います。明るく愉快な青春グラフィティを目指…
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track 19 「オフ会でファンだっていう娘に」

 母親が死んで仕送りが止まった。  いつか必ず訪れる事態と理解をしていたが故、予想される経済的困窮に対する不安は小さく、むしろ父親と顔を合わせたくない一心で以て母の葬儀を出席せずに遣り過した自らに対し落胆している精神状態のあって、これに驚いた。  詰まり十年を超える自堕落の先で未だ感情の死んでいない自分と邂逅を果たした次第、ならばと希望を思った。  一念発起、サイドメニューのちゃんこ鍋が人気のファストフード店の求人に応募し、アルバイト採用された。  面接時の説明によれ

track 18 「偶然性に全賭けしたい民」

 母と、高校一年生になる双子の兄妹、以上が三塚家の家族構成。  住居は戸建ての賃貸、トイレは一階にのみあり、冷蔵庫の容量は380L。  双子が小学四年生だった年以降、どこかのタイミングで母の千秋が文筆業で一本立ちした。現在までに経済的困窮を実感させられるような出来事は、双子の兄、松理の記憶の上では起きていない。  それでも彼が、コンビニエンスストアで、個人の感想盛り々りのポップで変わり種ペプシ支持を主張して得た給金の半分を家に入れている理由は、偏に自発的に発見した学ぶべ

track 17 「変な会合とかに参加」

「昨日でしたよね、エリアマネージャーと呑み。どうでした」 「最悪。店員さんにタメ口利くタイプだった」 「やっぱし。だから言ったじゃないすか、絶対人間性ゲボですよって。うちらダシにして店長にアピる感じとか、そんなん誰が言ってた必勝テクだよって」 「ね。その忠告ちゃんと聞いとけばって後悔してる」  どす恋バーガー宝町駅前店、午後四時二十五分。  バックヤードで制服に着替えながら店長と軽く雑談をした後、調理場を通って注文カウンターへ、自身の担当者コードをレジに打ち込んだな

track 16 「出来ると思ってやるっきゃ騎士」

 赤ん坊や猫が、じっと虚空を見詰めていたならそこになにかが確かに在るのだ、とする俗説に照らせば彼もまた何某かの存在に勘付いていたのではないか。 「此羽さんが」 「うん。前に、閉鎖されたビルの中に円将がいてそれを知らずに俺が後から行って、て事があったじゃん。そん時の円将みたいな顔してた」  小此木木野羽、通称此羽、市立宝町高校の二年生。  携帯の電波はおろか外来語も届かない山奥の孤児院出身者の一人だが、彼らが溜まり場としている校舎の三階、南端の音楽室に於ける目撃事例は春

track 15 「とか言う積もりだったでしょ」

 おそらくはなんらかの執筆仕事の為、母の千秋は二日前から作業部屋にお籠り中、となると三塚家に於いてその代役は、双子の兄の松理の務め。  バイト先のハンバーガー屋で購めた皮付きフライドポテトばかりを食べたがる妹のるるに、同じく、自身のバイト先のコンビニでもらった消費期限切れの廃棄弁当を食べさせるべくに世話を焼く。 「プリン。プリン。松理さんプリン」 「プリンは後。弁当を食べ終わった後。芋ばかり食わない」 「お芋はちゃんとお野菜なのよ。だからとっても素敵なのよ」 「特製

track 14 「るねっさーんす」

 実店舗を構えて以ての物理的看板の掲出が然程有意でなく、むしろ都合が悪い。更に言えば実務以外は特段にすべき事も少なく、それもほぼ、指先を僅かに動かしたら終わる。  だから仕事の依頼のなければ喧嘩代行を副業とする高校生などというものは、第三者に判断を委ねれば、だいたいそれの平均層に分類される。  詰まり死屍毒郎、通称死郎の放課後が退屈極まるのは彼にそれを楽しくする才覚の備わっていないが所為ではなく、高校一年生という制約を設けられた立場が故、或いはそれを満額で楽しんでいるか或

track 13 「俺の保健室へようこそ」

 小虫が。  市立宝町高校の直線型校舎一階、昇降口直ぐの保健室を訪ねたなら詰まり、そういう事だ。  引き戸を開け放つ前に既に、目蓋から裂き始まり頬まで届く裂創を、嵌まるもののない眼窩を、恥を叩き売るみたいに曝していた。  肩掛けの詰襟も仮初め、右肩留めにした襤褸布に包ませたなら躯は、生きた心地を取り戻す。  半歩引いた右足に体重を預け、財政難に喘ぐ地方都市の町興しイベントに出席中のゆるキャラみたいな気怠げな立ち姿勢、或いはその脱力状態こそが臨戦態勢、しなりうねり鐘の鳴

track 12 「嘘を吐かなくても許される」

 オープンワールドを往く際、街のデータが保存されたHDDの一部領域に破損のあったなら、足下の道の描画されず天地の境のなくなる不安や、奇抜な色の縞々模様の商業ビルに解体途中のまぐろの突き刺さる混沌や、半身を壁にめり込ませながら歩く自身の分身の存在の異質さを、存分に感じさせてくれる。  そこに流城歌呼、自称流歌は底なしの恐怖と、同時に得も言われぬ興奮を覚える。  世界の裏側に触れた気になって脳髄が痺れる。  だけどその痺れは首より下には巡っていかない、ノパソのモニターでは拡

track 11 「あそこですあそこを締めてください」

 もういいぜ。  もうええんかい、もうええんやったらもうええわ。  また聞いて。  いい加減にしろバカ。  一旦やめさせてもらいます。  はいぶぱぱぶぱぱぶぱぱ。  などなど。  即ち紛糾する議論を締めるべくに投下すればたちまち効果を発揮する文句、それらは膨大な数が考案されてきた筈なのに、しかし、今、眼前で、現在進行形で、行われている話し合いを吹き飛ばすに相応しいそれに思い当たらず、然りとてその場から離脱する訳にもいかず、山我轢、通称我轢は、ただスマホの画面に向

track 10 「じゃあ今晩。夢で逢いましょう」

 電車が、然程の誤差もなく決まった時間にホームに滑り込んだなら既にそこで待機している乗るものたちの迷惑にならぬよう、降りるものは降りねばならぬが道理、その流れを止めず従う事が即ち社会活動。  秋には月見バーガーを食し、正月には神社に詣でる、特段に祈願したい事もないから賽銭がどこに飛んだかは問題にしない。  花見の際、SNSで繋がった大学生に酒の代理購入を頼んだなら見返りに手仕事を授ける、夏休みの間だけ頭髪をピンク色に染める。  即ち世間が求める平均的女学生像、それに疑問

track 09 「節穴ですね目が絶対」

 注目すべき大会参加者のプロフィールから会場周辺で評判の好い飲食店情報の収集、或いはまた宿の手配などを担う陰の存在により、小山内未知と外海エリカ、二人の、地方開催のeスポーツ大会を廻る全国行脚は支えられていた。 「やっと正体が判明するね」 「すっぽかされる可能性とか考えないよね、エリカは。それとか替え玉立てるとか」  流浪の日々に終止符を打ち、拠点を構えプロゲーマーとして本格始動する、その第一歩に未知が選んだ大会が男女ペアのトーナメント、参加条件を満たす為のチームメイト

track 08 「骨延長の手術を検討してください」

 一部、電子マネー非対応の旧型筐体に関しては定番タイトルコーナーを設け月額フリープレイ制にするなどし、各金融機関に於ける大量硬貨取扱手数料導入に備えた。即ち生き残りの為の施策、対戦格闘ゲームの指南役として山我轢、通称我轢を雇い入れたのもその一環。  宝町駅から徒歩五分、一階にネパール料理屋、二階にアフガニスタン料理屋、三階に中古CDショップが入る雑居ビルの地下一階、我本望也感電死、という屋号のゲームセンター。  勝てば、当代人気の女性タレントに酷似したキャラクターが恥じら

track 07 「当たり前だ。クラッカーだ」

 ネット発。  北海道稚内市、宗谷岬から鹿児島県南大隅町の佐多岬まで、沖縄を除く46都道府県を24時間休みなくマツケンサンバを踊りながら踏破しようという一大プロジェクト。  飛び入り、離脱は誰に許可を取る必要もなく自由、投げ銭、差し入れは随時歓迎、参加者個々人に対する湯浴みや寝床の提供、就職の斡旋にコラボ動画作成の打診まで思うがまま。言わば移動するサロン。  県境を越えてしばらくは参加者が増加、しかしまた次の県境が近付くに連れて三々五々離脱、出発時点から一度の離脱もして

track 06 「ちゃんと反省します、ちゃんと」

 でかい板んぱ。  即ちタブレット型端末が座席に置かれてあり、傍らにはそれを用意したのであろう一年生の千葉今日太が、客の言い付けを待つ給仕のような表情を浮かべて立っている。  市立宝町高校、始業前の音楽室。  痩躯、だが学ランを肩掛けした姿に妙な説得力を持たせる雰囲気の持ち主たる三年生の小龍包虫男、通称小虫が、席に着きながら今日太に問う。 「なにか用か」 「チャンピオンの今週号、ダウンロードしときました」  答え、窺うような視線で今日太が更に続ける。 「いつ読み