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【創作】大好きすぎる彼氏を瘦せさせたい女の奮闘記

その④

布団から顔と手だけ出し、携帯で先日と同じように検索する。
寝る時、夏は冷房を入れるが、冬は暖房を入れないので、布団も空気も冷たい。

“恋人 やせさ” まで入力し、検索予測欄に出てきた “恋人 痩せさせる方法“ をタップする。

彼からは、”遅くなるから先に寝てて” と連絡があった。通勤に一時間と少しかかるとはいえ、どんだけ遅くまで仕事してるんだよと思う。ほぼ終電で帰ってくるような週もある。
身体を壊さないか心配しなくはないけれど、そういうことに関しては、私も口を出したくないし、出されたくもない。ので出さない。

検索結果は前回と若干変わってはいるが、だいたい同じようなサイトばかり。
表示されたいくつかのサイトを開いてみた。

  • 痩せてほしいことのほのめかし方 (“スタイルの良い俳優を見て褒め、「OO (恋人) も筋トレしたらもっとかっこよくなるんじゃない?」的なことを言う”、”痩せたらもっときれいに着こなせるであろう服をプレゼントする” 等:直接的に「あんま太んないでね」と言ってしまっているため時すでに遅し)

  • 運動を始めさせる方法 (“一緒にジム行こー、散歩しよー等と誘う”:これは私が誘うと魂胆が丸見えなのでむしろ圧になる)

  • モチベーションを上げる褒め方 (“こまめな声かけが肝心“、"小さな変化でもすかさず褒めるのが重要" らしい:褒め方って何?子育てか??)

…etc. (上記使える人はぜひご参考に (to 物語の外にいる人))

中には、パートナーの日々のご飯を作り、こっそり痩せさせました!みたいなものも出てきた。こっそりって何?気づいてないの本当に?

同志が思いの外たくさんいることを知った反面、ちょっと怖くなってきた。

そういうのって普通なの?そういうもん?我が子に栄養満点のご飯を食べさせるみたいなこと?

そもそも。

毎日当たり前のようにパートナーが作ったごはんを食べたり、パートナーの生活に合わせて生活リズムをかえたり、そういうことは普通に行われているようだということが、私には信じられない。ドラマや映画や小説や、色んな媒体でそういう夫婦生活や家族生活を見ているのだから、知らなかったわけではないはずだけど、それは物語の世界だと思ってきた。

他人と生活リズムを合わせるなんざ、私には到底できない。私は私のものなのだから、好きにさせてくれよと思う。反抗期の子供か。
たまに帰る実家でも、あいつは変わってるから好きにさせておけという諦めを、うっすらと感じる (むしろそれは心地よくすらあるが)。

他人に合わせる能力、というのはきっと生まれついたときにある程度決まっていて、要するに私には、同棲とか、結婚とか、そもそも向いていないのだ。

携帯を伏せて置き、耳の上まで布団を引き上げる。
自分の呼気で、冷たくなった鼻が温まる。

それでも。彼から同棲の話を出されたとき、不安よりも先に、嬉しいと思ってしまった。
やってみれば何とかなるかもとか、うまくいかなければその時考えようとか、苦手だと分かっていても一生のうちには経験してみてもよいかなとか、思ったのだ。どんどん結婚していく同世代に、私も進んでいるよという話題ができるな、とかいう打算もなくない。
いや、本当はそういうのも後付けかもしれない。
同棲しようという提案をしてくれたことが、きっと純粋に嬉しかった。

分かり切っていたが、やはりお互い生活リズムをすり合わせる努力をするはずもなく、友人からは「それすでに家庭内別居じゃない?」とか「顔合わせる時間ほぼないじゃん」等と言われつつも、今のところ大きな問題はなく生活が出来ている。

自分がコントロールされるのが大の苦手で、圧倒的に自由な生活をしているくせに、私は彼をコントロールしようとしているのだろうか。
痩せてほしいという願望はコントロールに入るのだろうか。
私が彼と一緒にいるための必要条件として、それを挙げることは異常なのだろうか。
健康でいられるのだからwin-winだという考え方は、私の言い訳でしかないのだろうか。

考えているばっかりで、全然前に進まない。
夜はたいていネガティヴになる。


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