見出し画像

カミュのペストを読もう|無料で読める漫画をつくったよ

2020年の7月に無料で読める『ペスト』の漫画作品を公開しました。このnoteでは、カミュの『ペスト』のあらすじや登場人物と、原作でカミュが描きたかったテーマなどについて解説しています。

■コロナの第2・第3波で再びロックダウンになる世界

2020年12月になり、コロナの感染者が再び世界で増加しています。先日イギリスでは再びロックダウンとなりましたが、日本でも感染者数が増え、Go to政策が停止となるなど混乱状態が続いています。日本では死亡者こそ少ないものの、ロックダウンはもはや対岸の火事ではないでしょう。

コロナの感染者数は日本でも過去最多に

◼️ロックダウンを題材にした小説『ペスト』

さて、コロナが流行してから、ロックダウンを題材にしたカミュの小説『ペスト』が注目されました。

アルベール・カミュといえば、「異邦人」など社会の不条理を文学で表現した偉大な作家です。カミュは1940年にパリでナチスの占領を経験しており、罪のない人々が弾圧されたり殺されたりという理不尽を目の当たりにしました。

ペストは中世のイタリアなどで流行った病気なのですが、実はカミュが『ペスト』で描いた世界はナチスの占領によって閉鎖された環境において、不条理に人が死んでいく状況のメタファーです。

ナチス占拠下の不条理な閉鎖状況の中で、暴力や全体主義によって死に追いやられる者、それに抵抗を試みる者、逆に迎合してしまう者・・・

『ペスト』は本来、カミュが目の当たりにした、立場や価値観によって異なる人間の動きや、そのような極限状態の中で人間がとるべき行為について描かれている作品なわけです。

しかし、比喩として使った伝染病による都市封鎖が、現代の新型コロナの状況と酷似しており、ロックダウン状況のシュミレーション小説として読めることから一気にブームになりました。

このnoteでは難しいカミュの『ペスト』を簡単に、かつ現代人でもわかるように解説していきます。(※一部ネタバレを含みます)

(※ちなみに、今日の小説とかSNSの自分語りでありがちな、”ちょっと変わった私”の話、”世間の人と感じ方が違う私”の話、という流れを作った人という意味で近代文学の偉人だと個人的に思っています)

◼️カミュ『ペスト』のあらすじ

難しい『ペスト』を簡単に読めるようにざっくりとしたあらすじを解説します。

194X年、フランス領アルジェリアの湾港都市「オラン」で突然大量のネズミが死体の状態で発生します。同時期に多くの人々が謎の病で死亡し、ペストであるということが判明します。

ペストのあらすじ、大量のネズミが死骸で見つかる

ペストが流行し、人が次々に死んでいきます。オラン市は感染拡大を阻止すべく都市を封鎖します。医師のリウーはペストと戦うため、懸命に病人の治療に当たりますが、特効薬がないために苦戦し、棺桶に入りきらないほどの死者が出ます。

ペストあらすじ

リウーの周囲には、街に閉じ込められてしまったパリの新聞記者・ランベールやペストは神の意思だと説教するパヌルー神父、ペストに乗じてハッカ飴やアルコールの密売を行う犯罪者のコタールなど、多様な人物が現れ、それぞれの立場で行動をおこします。

そんな中、リウーは、ボランティアによって人々を救う保健隊という組織を立ち上げた謎の活動家・タルーと出会い、行動をともにします。

やがてペストの特効薬が見つかり、人々は救われますが、最後に友人となっていたタルーが感染してしまいます。

ペストあらすじ 感染するタルー

今際の際で、タルーは自分はずっと昔からペストに罹っていたと告白します。しかしそれは比喩で、裁判官であったタルーの父親が、裁判によって間接的に他者の命を奪う場面を目にしてから、自分は間接的に自分が他者を殺す可能性がある社会に苦悩し続けていた、だからこそ保健隊を立ち上げ、ボランティアで人々を救っていたのだと、心の裡をリウーに語り亡くなります。

ペストのあらすじ ペストを体験したリウー

その後、リウーは離れ離れになっていた妻が病死したという報せを受け、絶望し、この体験を文章に残そうと決意して物語は終わります。

と、いうのがざっくりとしたペストのあらすじです。

実際はもっと複雑なのですが、コタールやパヌルーなど、立場が違う人々を描いたエピソードが結構な分量を占める作品なので、次の章で紹介する登場人物の説明を見てもらったほうが、かえって話の筋がわかりやすいと思います。

◼️カミュ『ペスト』の登場人物

ペストの登場人物についてもそれぞれ見ていきましょう。人物のイラストを添えてさらっと書いていきます。

・主人公で医者のリウー

ベルナール・リウー。小説「ペスト」の登場人物の中で主人公的ポジションであるリウーは医者です。オランの街の外に療養中の妻がいますが、ペストのロックダウンによって、離れ離れになっています。医師という自分の仕事を誠実にこなし、ペストの異常事態の中で最善を尽くします。

ペストの登場人物:リウー

・謎の男 タルー

ジャン・タルー。数週間前にオランに訪れた謎の男、タルー。リウーと仲良くなり、行動を共にするようになる。ペストを治療するボランティア組織のような「保険隊」を組織する、少し影のある善人。

ペストの登場人物:タルー

・ペストで儲ける半グレ・コタール

密売人。いつ逮捕されるかわからない状況で、精神不安定な犯罪者だったが、ペストのおかげで皆が自分と同じようにいつ死ぬかわからない状況になったことから精神的に気力を回復させ、ペストが蔓延する状況の中で絶好調となる。ペストに効くという噂を流し、ハッカ飴やアルコールを売り、ペストに乗じて商売を成功させる。

ペストの登場人物 コタール

(※現代にいたら、マスクの転売とコロナの助成金詐欺とかやってそうですね)

・ペストは神の意思という宗教家・パヌルー神父

キリスト教イエズス会の司祭。ペストの襲来は神の意思である、などと市民に説法していたが、後に子供がペストに罹って死亡するところを見てから、宗教観が揺らぐ。その後自分も感染するが、治療を受けることを拒否した。

ペストの登場人物 パヌルー神父

・閉じ込められた新聞記者・ランベール

レイモン・ランベール。パリから来ていた新聞記者。国に恋人がいるが、オランのロックダウンに巻き込まれ離れ離れになってしまう。当初は恋人の元に戻るため、リウーを訪ねたり、密売人のコタールに頼んで裏ルートから脱出しようとするが全て失敗する。最終的に実は自分と同じ境遇であったリウーの言葉に説得され、保険隊での活動に参加する。

ペストの登場人物 ランベール

◼️カミュ『ペスト』の名言

名言、というか自分が好きなペストのセリフなんですが、以下のようなものがあります。

・リウーの名言:ペストと戦う唯一の方法は誠実さです

ペストの名言〜リウー

リウー:「今回の災厄では、ヒロイズムは問題じゃないんです。問題は、誠実さということです。こんな考えは笑われるかもしれないが、ペストと戦う唯一の方法は、誠実さです」

このリウーの言葉こそ、私の中では『ペスト』最大の名言だと思います。新型コロナ下における我々にも同じことが言えるのではないでしょうか。

◼️カミュ『ペスト』は青空文庫では読めません

少なからぬ人がペストを無料で読もうと青空文庫で検索しているようですが、結論から言うと、カミュの『ペスト』は青空文庫では読めません。

カミュのペストは青空文庫では読めません

青空文庫は著作権の切れた作家の作品を無料で読めるサイトですが、日本の著作権法は2018年に改正され、死後70年間保護されます。カミュは1960年になくなったので、青空文庫に登場するのは2030年以降になるでしょう。

ペストの原作を無料で読みたい人は図書館にいきましょう。

(※↑多分そうだと思いますが、著作権の専門家ではないので外国文学や翻訳作本は違うかも。気になる人は調べてください)

・ペストの漫画なら無料で読めます

ただ、前述のとおり、ペストはカミュ独特の哲学的なエッセンスも濃厚に入ってあり、大人が読んでも結構難しく、読了するまで結構時間がかかります。(本気で集中して読んでも半日はかかる)

こういう場合こそ漫画でダイジェストされた作品があれば時短しつつ作品をざっくりと理解できるのですが、漫画作品は結構お金がかかります。

いろんな出版社がペストの関連作品の漫画やムックを作っているんですが、どれも1000円くらいして高すぎなので自分は無料で漫画版『ペスト』を公開することにしました。

コロナで大変なときに生きる指針を考える手本になるこういう作品を、無料にしてより多くの人に伝えるべきだと考えたからです。

無料で公開することで誰でも(子供でも)読めるということがインターネットの効力だと思うので、無料にしています。

同様の理由でややデフォルメし、大人にはちょっと物足りないかなと思う部分もあるかもしれませんが、原作を読む際のガイドブック程度には機能すると思っています。

無料漫画「ペスト」

漫画版:「ペスト」はこちら




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?