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坪売り 13

<<登場人物紹介>>
山本
ツボ売りの主人公。オフィス仲介会社グランドオフィスに新卒入社
石田
山本の同期。チャラいが比較的一生懸命営業する
岸部
山本の課の上司。前話にて外資系企業に引き抜きされて転職
大曲社長
グランドオフィスの社長。オフィス仲介業は社会的意義があるとして立ち上げた創業社長

岸部が去ったグランドオフィスの社内は大きく割れた。

社長である大曲が舵取りをする部署が創設され実績を残しているメンバーは社長直属になった。山本・石田、そして若手営業マンは別部署に加入となり組織の再編成となったのだった。

同時に岸部と同じ年次である社員が2名ほど転職として抜けてしまった。いわゆる稼ぎ頭となる社員がいなくなった事であった。現在は大曲が直接もっている案件や社長同士の紹介案件を回す事で会社は継続しているが、岸部在籍時よりも活気がなくなっているのは新卒であった山本・石田の目から見ても明らかだ。

2006年に入り同期の新卒2名が辞めた。結局、山本と石田の二名しかいなくなってしまった。辞めた2人は営業チームではないので実情がわからない。送別会もなく社内の告知のみで終わってしまった。あっけないものである。

同期で集まることもめっきり減ってしまい、なぜ辞めたかもわからず山本・石田に告げることもなく退職していった。

現在は40名近くいたグランドオフィスのスタッフが約20名と半数まで減ってしまった。目に見える範囲で会社に問題があるようには思えなかったが岸部の退職以降少しづつ会社の雰囲気に緊張と殺気じみた空気がピリピリと肌を伝わる。

今回の課はオフィス営業第2課となり、課長代理として3年目の城島が山本・石田の2名とともに行動することに決まる。それ以外の2年目営業2名が営業2課に所属の計5名。

不穏な空気が社内を蔓延しているが、オフィス仲介として同期ライバルのような石田と同じチームというのが唯一の救いだった。しかし、この城島は岸部と違う厳しさを持っていた。2名にとって出鼻をくじかれる新チームの始まりである。

チーム組成後3日目、城島に石田と山本は呼び止められる。

「山本くん、石田君。新卒気分はもう抜けてもらっていいかな?今うちのチームなかで君たちの売上いくつ上がっているかわかる?まだ月の半ばを越すのに達成度率35%ってどういうこと?」

「すいません、当初見込んでいた移転の案件が他社の申込みとバッティングしてしまって」

「そんなのはどうでも良いんだよ。35%からどうやって挽回するかって聞いてるの」

「すいません…」

「頭使って考えろよ。岸部さんがどうやったか知らないけど35%から達成目指さないんだったら辞めてもらっていいんだからな」

「飛び込み・電話なんでもできるのにやらないなんて給料の無駄遣いだろ。わかったならさっさと外出てこい」

会社の雰囲気もまさしくだが、新チームもかなり不安定だなと山本は思ったが口には出せずじまいであった。愚痴を言ってもしかたがない、山本と石田は見込み客リストをもって顧客回りに向かった。


主にオフィスに関する不動産知識や趣味で短文小説を書いています。第1作目のツボ売り、それ以外も不動産界隈の話を書いていければ良いなと思っています。 サポート貰えると記事を書いてる励みになります。いいねをしてくれるだけでも読者がいる実感が持ててやる気が出ます