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心を開く銭湯
裸の付き合いは、心もオープンになる。
半年ほど前に銭湯デビューしたばかりだが、私は銭湯が大好きだ。
きっかけはフィンランド在住のコーディネイターの方を招いてイベントをしたときのことだった。
スタッフ宅でのお鍋懇親会で、みんなそこそこ出来上がったころ、彼女が言ったのです。
「私、訪れた土地で3件は銭湯か温泉を回っているんです。
どこかいいところご存知ないですか?
どなたか一緒に行きませんか?」
話を聞くと子供の頃から銭湯にはお世話になっていて、大好きらしい。
しかし一同ポカーン。
初対面の人とお風呂なんて行きづらい…
みんなの頭の中にそんな言葉が浮かんでいるのが見えた。
でも、その時私は
「棚ぼたじゃん!」
と思ったのである。
なぜならあのレトロな雰囲気に憧れてはいたけど、もともと大浴場が得意ではなかったので、だれか誘ってくれれば行ってみたいのになと、長年思っていたのだ。
友達や知り合いとはなんとなく一緒にお風呂に行きにくいが、この方は初対面じゃないか。
隠すものは何もない。
そこで即答
「ついていっていいですか?」
そしてその夜、私は銭湯デビューした。
ほんとはもっと写真を載せたいのだけど、銭湯ではスマホが出せないので、気になったらご自分の目で見に行って楽しさを体験してもらえると嬉しいな。
私の住む県にはきちんとした数はわからないが、公衆浴場組合に加盟している銭湯は15件ほどしかない。
その中の10件は私の住んでいる市にある。
まだ全部は回れていないのだが、今のところ行った銭湯では大体常連のおばちゃんに話かけられる。
「あんた見ん顔やね。初めて?」
「広いお風呂はいいやろ〜」
「ちよこちゃんかね?(違う笑)」
中でも心に残っているのは家から徒歩5分で着く銭湯に行った時だ。
まず番台のおばあちゃんに暖簾をくぐっても3分ほど気づいてもらえなかった。
一見さんお断りなのかと思ったけど、「こんばんはー!」と言いながら手をふったりして、アピールし続けた。
どうやら耳が遠くて目も悪いらしい。
むしろ番台に座っているのが奇跡。
努力の甲斐あって、気づいてくれたたきの笑顔はたまらんかった。
無事にお支払いをして入場。
艶の出た木の床に、使い込まれたレトロな脱衣棚。
お釜ドライヤーにマッサージチェア。
浴室の蛇口も昔ながらの押すタイプ。
うきうきしながら洗い場で体を洗っていると、おばちゃん2人に話しかけられた。
「あんた頭も洗うんやったらこっちのが洗いやすいけ、おいで!」
『ありがとうごさいますー』
「初めてなん?」
『ここは初めてですー
そ、その白いのなに塗ってるんですか?』
「これはね、ヨーグルト。肌がツヤツヤになるんよ。
日焼け止めはね、肌に悪いけ塗ったらいけんよ。陽の光をきちんと浴びんとね。」
とかなんとか、いつも話しかけられたときのような世間話をしていたら、いつの間にか真面目な話になっていた。
「生きてたら理不尽なことだっていっぱいあるし、予想外の借金だってするかもしれないし、思い通りに行かないことたくさんあるんよ。
でもね、良いように思って生きてたら辛くないから。
良くするのも自分、悪くするのも自分。
自分次第なんよ。」
そんな感じの話をしてくれた。
その時私は、向いているのかわからない仕事やどう転がしたらいいのかわからない恋に悩んでいた。
そんな時におばちゃんは「良くするのも悪くするのも自分」って言葉をくれた。
自分のことなんてこれっぽっちも話してないのに、なんで悩んでることがわかるんだろう。
私の背中を押してくれる言葉をくれるんだろう。
と思った。
口に出さずとももしかしたら私の心の声がだだ漏れしていたのかもしれない。
それをおばちゃんは長年の経験で汲み取ってくれたのかもしれない。
なんたって私たちは今、裸の付き合いなのだから。
そして帰りにまた番台のおばあちゃんが、幸せの笑顔を私にくれた。
「気をつけて帰ってね。」
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