見出し画像

同人誌印刷「みかんの樹」工場見学

同人誌印刷のみかんの樹の工場見学に行ってきました。
大人の社会科見学です。

印刷会社で工場見学をできる所は非常に珍しいです。
以前に同人誌印刷のしまや出版に見学に行った事がありますが、あの時はイベント的に特別に見学させてもらいましたが常時ではありません。 
しまや出版見学|太郎 (note.com)

ですがみかんの樹では常に工場見学を行っています。コロナ禍でここ数年はオンラインでの見学になっていましたが、今回から数年ぶりに再開との事です。土曜日開催なので会社員でも行きやすい日程になっています。
みかんの樹HP https://mikan-no-ki.com/company/factorytour/

行くまで気が付きませんでしたが、みかんの樹は独立した会社ではないそうです。
チラシなどを見ると「みかんの樹事業部」と表記されていて、正確には情報印刷株式会社内の一事業部がみかんの樹なのだそうです。
みかんの樹の母体である情報印刷会社は商業印刷がメインの会社です。

なので純粋にみかんの樹の社員と呼べる立場の人は1人しかいないそうです。それで仕事が回るのか不安になりますが、極端な話受付の人だけがいればいいので大丈夫なのでしょう。ですが事業部としても人が少なすぎると思ってしまいました。
忙しい時は他部署から応援に来てもらうそうですが、コロナ禍では1人でも時間を持て余してしまったそうです。改めてコロナの影響は相当大きかったようです。

工場に着くと意外に大きかったです。全体を見渡せた訳ではないので実際の大きさは分かりませんが、少なくとも同人誌専門の印刷屋に比べればかなり大きいです。これは商業印刷がメインなので当然なのかもしれませんけど。

工場見学の流れは最初に説明、工場見学、見学後の質疑応答の形でした。

説明はみかんの樹独自の印刷方法であるコールドフォイルと疑似エンボスについてがメインでした。
どちらも効き馴染みがありませんが、同人誌印刷ではこの2つをできるのはみかんの樹だけだそうです。そもそもこれ専用の印刷機が日本国内に数台しかないので、商業印刷を合わせてもかなり珍しい印刷技術になります。

コールドフォイルとは仕上がりだけを見ると箔押しに近いものです。
箔押しとは印刷後に金箔や銀箔を貼る方式です。それに対しコールドフォイルは最初に必要な部分に銀箔を貼り、その上から印刷する方式です。
印刷工程の違いだけで何が違うのかと思われますが、箔押しの場合基本的に1色のみです。数色を使用することも可能ですが色ごとに何度も貼る必要があります。また細かい文字などを箔で表現するのは非常に難しいです。

それに対してコールドフォイルは銀箔ににインクを乗せるので、どんな色でも一度の印刷で何色もラメが入ったようにキラキラとしたものにできます。さらにどんなに細かい文字などにも対応が可能です。
こうしてみると箔押しに比べるとかなり良く思えますが当然デメリットもあります。
発色の問題。銀箔の上に印刷するので色の変化が起こってしまい、思ったような発色にならない事があります。
コストの問題。箔押しであれば必要な場所だけに箔を使用しますので料金は面積に応じてとなりますが、コールドフォイルの場合は全面に銀箔を貼る前提で必要のない部分を除く仕様なのでワンポイントで使用などの場合はコスト高になってしまいます。
彩度の問題。キラキラする度合いで言えば箔押しに比べると多少劣ってしまうそうです。

コールドフォイルのカラーチャート
右側が普通に印刷した状態で左側の光っている方がコールドフォイル印刷をしたものです。
発色が多少変わっていることが分かります。


そもそもなぜこの印刷方法を導入したのかと言えば、情報印刷が商品パッケージ印刷に参入しようとした時に必要な技術だったからだそうです。
化粧品やドラッグストアに置かれている商品パッケージを見るとキラキラとしたものが多いですがそれにコールドフォイルが使われているそうです。
商品パッケージに印刷するために0.03mm~1mmまでの紙にまで印刷は可能なのだそうです。
紙の厚さ1mmともなると段ボール程の厚さになるのでこれは結構とんでもない事です。薄い方の0.03mmもとんでもないですけど。

ただ化粧品などの商品パッケージはキラキラするほど売れる傾向があるそうなです。他社では箔押しを使用してパッケージを作っている会社もあり、彩度で劣ってしまうコールドフォイルは苦戦気味なのだそうです。商品パッケージとかある意味金に糸目を付けない状態ですから。

疑似エンボスは触り心地がザラザラになる印刷方法です。
その前にエンボスとは紙に凹凸をつけて文字や絵柄を浮き上がらせる加工です。身近なところで言えば車のナンバーやクレジットカードの文字などもエンボス加工になります。ですが浮き上がらせる分裏面から見るとその部分は凹んでいます。

疑似エンボスは裏を凹まさずに浮き上がらせる印刷方法です。浮き上がらせたい場所にのみニスを重ねて印刷することで浮き上がって見えるのだそうです。
なので模様などを印刷した場合、その場所のみザラザラとした触り心地になります。
触り心地だけではなく仮に単色の場所に模様を疑似エンボスで印刷すれば角度によって模様が浮かび上がるような効果もあります。

疑似エンボス印刷をしたもの。
黒い四角の中に模様が浮き出ているのが分かると思います。
手で触るとザラザラした触り心地です。


この2つは両方を組み合わせても片方だけでも使用することが可能です。これがみかんの樹の最大の売りなのだそうです。
正確な事はみかんの樹のHPを見て下さい。
ガイドライン (mikan-no-ki.com)

説明が終わった後に実際の工場見学です。
残念なことにこの2つの印刷を行う印刷機は別の工場にあるらしく実物を見る事はできませんでした。

みかんの樹ではオンデマンド印刷も扱っていますが全体としてはオンデマンド印刷は微々たる量のようです。同人誌に限って言えば注文件数ではオンデマンド印刷はオフセット印刷の2~3倍あるのだそうですが、売上金額で言えばオフセット印刷の方が圧倒的に多いのだそうです。オンデマンド印刷は少部数の注文がほとんどのためだそうです。
そのためかオンデマンド印刷機も端の方にちょこんと置かれているだけでした。

ちなみにみかんの樹では紙の原稿でアナログ入稿にも対応しているそうですが、アナログする人は1度のコミケで1件あるかどうかだそうです。

印刷機については以前しまや出版でも見せてもらいましたが、みかんの樹では商業印刷がメインな事もあって、それよりも大型な物でした。
また特色印刷も得意としているそうで、特色用に使う印刷機の隣の棚には特色用のインクが沢山詰まれていました。

棚に積まれた缶1つ1つが別々の色の特色用インクです。
特色とは黒、赤、青、黄の4色のかけ合わせでは出しにくい色の事を言います。


驚いたのは色調調節です。印刷現場はいまだにアナログな事が多く、色調に関しては熟練の職人のような社員が試し刷りを見て手動で調節していく事があります。それに対してみかんの樹では試し刷りしたものをスキャンして元のデータとの差がどのくらいあるかを数値化し色調調節ができるようになっていました。

台の上に試し刷りをしたものを置き、スキャンすることでデータとのずれを数値化し色調調節が可能なのだそうです。



印刷後4ページや8ページをまとめて印刷したものを折り機で折ります。折られた時にちゃんとページ順に並ぶように配置して印刷はされます。
表裏印刷されているので折られた物は8ページや16ページになります。それをページ順に重ねます。

折られたものを重ねてページ順に並べる機会。

ページ順に重ねたものにのり付けをし、表紙を付けた後で上下横の三辺の余分な部分を断裁すると本になります。


のり付け機
写真右下の辺りからページ順に重ねられた物が流れてきて機械の中でのり付けされ、Uターンして機械左側から出てきます。


のり付け後、断裁機までのベルトコンベアが無駄に曲がっている場所があったのですが、これは設計ミスではなくのりが乾く時間を稼ぐためにわざと曲げて作られているのだそうです。

壁に強引に穴を開けていて設計ミスかのように見えますが、
のりが乾燥する時間を稼いでいるのだそうです。


ここの工程は完全に機械化されていました。この辺りは商業印刷の工場ならではです。
手動の機械もありオートでできない特殊な判型などは手動で行っているのだそうです。

工場見学後に再度質疑応答をして工場見学は終了となりました。
最初の説明や質疑応答が多かったために見学予定時間をかなりオーバーした見学となりましたが非常に面白く見る事ができました。

見学者にはコールドフォイルと疑似エンボスを使ったポストカード100枚分の印刷が無料と言う太っ腹なおまけまでついていました。
せっかくなので使ってみようと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?