"Ceros" 英雄とトロールを行き来するプロゲーマー
初めてCerosと対面したのは2015年に専門学校で開かれた特別講義。
ゲストとして招かれた彼にLeague of Legends(以下LoLと書く)のことを聞いたり、1対1の試合をしたりした。
当時の私はサモナーレベルが15かそこらの初心者で、MIDマスター・イーで挑みCerosに瞬殺されたのは良い思い出だ。
彼が所属するDetonatioN FocusMeがリーグ総合優勝を果たしていたこともあって、Cerosに興味を持ち始めた私はクリスマスに「Ceros選手とのLoL 1v1マッチ」が開かれると聞き、ソフマップ秋葉原へ行ってこれに参加。
CerosはMIDレーナーとしての強さを見せつけていた。
あぁやっぱり日本を代表するレーナーなのだなぁと思ったし、何よりファン対応がしっかりしている好青年なんだ。
こちらの声援に対して笑顔で対応してくれるし、大会ではインタビューで戦術に関わる疑問をわかりやすく解説してくれる。
好青年らしく振る舞うCerosだが、彼が想像以上にユニークな男でひょうきん者だと判明するのは、もうしばらく後になる。
2015年 世界大会 対Dark Passage戦のペンタキル
LoLのプロシーンを昔から追っている人ならご存知の通り、日本が世界に挑戦し始めた2015年は酷い有様だった。
見ていてつらかった。
凡ミスに次ぐ凡ミスで敗北、ミスしてなくても如実な実力の差がハッキリと表れており、視聴者の心はへし折られた。
私の心も折れそうになった。
少しばかり希望を感じ始めたのが2回目の世界大会(IWC)で、中でも心の拠り所になるのがCerosのペンタキルだ。
トップのインナータワー周辺で起きた集団戦。
敵チームのDark Passageはジャングルの岩場を背にして、日本代表・DetonatioN FocusMeに対して後衛が火力を出し始める。まずい。
すると、画面外からCerosが現れた。
敵の裏側に回り込んだCerosはジャングル内で挟撃の形を取ることに成功し、火薬樽で後衛のコーキに手痛いダメージを与え撃墜。
よし! 面倒な奴を片付けた。
しかも敵のADキャリーは既に死んでるじゃないか。
Cerosが集団戦の最初に遠距離から一斉砲撃で倒していたのだ。
ADキャリーを片付け、相手主力のコーキも落とした。
あとは瀕死の残兵を料理するだけ。
サポート、トップ、ジャングラーと次々に処理していき、
一人で敵5人全員をキルしてペンタキルだ!
「1、2、3! クアドラが、ありそうだ!
ありそうだ! クアドラキル、セロス!
ペンタですか!? いやペンタですか! 大変失礼しました!」
訂正と謝罪をする実況・eyesの声は、嬉しさを隠しきれない様子で上ずっている。
そりゃテンション上がるって。
消極的で無様な戦いが続く中、日本のエースが大暴れしているんだから。
結局この試合は逆転負けしてしまったが、私はCerosがペンタキルを取ったシーンにBGMを付け動画化、町中を歩く際はこれを再生し、順番に敵をなぎ倒す光景を繰り返しては気持ちよくなった。
遅れてやってくるヒーローのように集団戦の後半から合流して敵を全滅させるCerosは、何度でも再生できるし、折れかけた心を立ち直らせてくれた。
世界大会で頼りになる男 オールスターで見せた勝負強さ
オールスターというLoLのお祭りでは、有名選手による1vs1が恒例のイベントとなっている。
2015年の対Loop戦、敵のカリスタが前ステップで怒涛の連撃を繰り出し、1キルでも取られたら敗北のルールでCerosは何度も倒されそうでヒヤヒヤしたが、前ステップで攻めてきた瞬間をカシオペアのウルトで着地狩りし、やり返すようにCerosの連撃で1キルを取りきった。
世界の舞台は誰しも浮足立ってしまうものだけれど、Cerosは舞台が大きければ大きいほど落ち着いていて、なんか見てて安心感があるんだよね。
勝利の微笑みを見せつつ相手の方へと小走りし、相手の選手と握手する姿にはスポーツマンシップが感じられる。
英語の勝者インタビューを通訳交えつつ堂々と受ける様には、Cerosを日本代表として誇らしく思った。
触手セロス、ボム兵セロス、そして皇帝セロス
オールスターではヴェル=コズの強さも遺憾なく発揮していた。
コミュニティではCerosの得意チャンピオンにちなんだあだ名が付けられるようになり、触手で攻撃するヴェル=コズを使うときは"触手セロス"、爆弾を操るジグスを使うときは"ボム兵セロス"となる。
中でもCerosを象徴するチャンピオンが、皇帝のアジールだ。
アジールにはブリンクで移動中に兵士を動かすことで、ブリンクの移動先を変えられるテクニックがある。
上記動画のシーンでは岩の向こう側に敵が逃げて一段落かと思った矢先、綺麗な直角を描きながらCerosのアジールが追いかけていった。
アジールが動ける最大距離であろう飛び方に「えっ、そこまで届くの!?」と度肝を抜かれた。
岩を飛び越して相手に追いつき、ウルトの"皇帝の分砂嶺"で敵を弾き飛ばして撃墜。
一連の動きは手練による早技であり、皇帝のアジールを巧みに使いこなすことから"皇帝セロス"の異名が付いた。
おもしれー男
数々の名場面を作り出してきた英雄セロス。
彼にはもう一つ別の顔がある。
その顔が最も現れる時間と言えば、親友のYutaponとランク戦をプレイしているときだ。
あるランク戦の配信にて、二人はとんでもない味方に遭遇していた。
そいつはシンジドなのにJGのポジションを宣言し、TOPのYutaponに粘着してミニオンを強奪し続けるという、とてつもなく迷惑なトロールだった。
普通の感覚であればウンザリするし、トロール行為に腹を立てて配信の空気が悪くなる所だろう。
しかしCerosは動じない。
なぜなら彼もまたトロールだからだ。
いや、彼は迷惑行為を働いてるわけじゃないが、
およそメタとは言えない奇抜な戦術を好み、悪友のYutaponに「これ強そうじゃね」と提案しては二人で実験を繰り返していた。
そんな彼だからトロールに耐性があり、マップを縦横無尽に駆け回り迷惑行為を続けるシンジドに寛容な態度を取り続けた。
「これお前のミニオン吸収装置なw」とネタに昇華してやがる。
Ceros自身が下手したら通報されかねないギリギリのラインを攻めているためか、味方に来る厄介プレイヤーに対して全く動じる所がない。
トロールを受け入れた上で試合を展開していく様には、常人ではおよそ真似できないタフな精神が見て取れる。
ちなみに試合は負けていた。
またある日のゲーミングハウス、外出しようとしたCerosはチームメイトに「どこ行くの?」と聞かれ、「韓国」と答えた。
チームメイト曰く、Cerosからマトモな返答を期待するだけ無駄であり、運が良ければ応答に成功するらしい。
インタビューでの誠実な姿を知る者からすると、素のCerosを知れば知るほど変人っぷりに驚いてしまうが、素を見続けるとギャップが段々と埋まっていき、むしろ"変人セロス"がデフォルトなのだと理解し始めるのだ。
だって普段の配信からして変だもの。
昔Twitchで配信していた頃、Cerosを映すワイプ画面は全く変化がないことに定評があり、表情や体勢に変化が見られただけで視聴者は大盛り上がり。
配信者というものは視聴者のコメントに反応してトークを展開していくものだが、Cerosはチャットで何を書かれようが無反応と無言を貫いた。
音声も映像も動きがなさ過ぎて「静止画じゃないの?」と疑う者が出る有様だ。
ゆえにCerosが動いたり笑ったりした日には「動いたぁぁぁぁ!」「感情が芽生えたぁぁぁぁ!」と盛り上がったものだ。
真顔でLoLに打ち込むCerosの画角と表情は一切変わらないが、半袖になったり長袖になったり、Cerosの服装によって季節の移り変わりを感じていたのが懐かしい。
試合前に干し芋をチームメイトに振る舞って喉を乾かせるという謎の行動を取ってみせたり、Cerosの変人っぷりは枚挙にいとまがない。
英雄らしくチームを救うプレーをしているときは「セロス」と呼ばれ、
チームを窮地に陥らせるミスをしたときは「日本人サーバーさん」と呼ばれる。
「日本人サーバー」というハンドルネームを使ってランク戦をしているときは、頼りにならないダメっぷりを見せてくれるからだ。
世界大会で英雄になったかと思えば、間抜けなプレイで日本人サーバーさんになる。
テレビ出演やインタビューで好青年らしい受け答えをしたかと思えば、意味不明な問答で視聴者を困惑させることもある。
二面性とギャップこそがCerosの魅力だが、その内の一つが現役引退により見れなくなってしまうのは寂しい。
DetonatioN FocusMeというチーム名を見たとき、思い浮かべるのはやっぱりCerosだからさ。
でも彼はまだLoLを続けてくれる。
今後はメタを解説してくれる先生セロスを楽しみつつ、時折表れるユニークな面を追い続けたい。