岩手の味に挑む老舗菓子店
お話しを伺った方
竹屋製菓 代表取締役 嵯峨壱朗さん(2022年取材)
売り切れ御免!話題の黒豆ゼリー
竹屋製菓が作る黒豆ゼリーは、岩手県産の黒豆を贅沢に使用した人気の逸品。北海道産のビート(てんさい)糖で豆の味を引き立たせ、控え目な甘さの中にもコクがあり爽やかな喉越しが印象的だ。
これまで県内外を問わずさまざまなコンクールで表彰されているほか、メディアにも取り上げられ、注文が殺到して売り切れ状態になったこともある。
「実は黒豆ゼリーは、限られた期間に作っているんです」
そう教えてくれたのは、竹屋製菓の代表取締役を務める嵯峨壱朗さんだ。
「保存料などの添加物は一切使用しない」として、糖度や水分量の調整に加えて食材が傷みにくい季節に製造するなど、完成までには多くの試行錯誤を重ねた。
そうして出来上がった黒豆ゼリーは、「一度食べたら忘れられない」とリピーターになる人も多い。
地域とともに歩んだ66年の歴史
昭和31年の創業当時は、主に冠婚葬祭用の注文菓子を手掛けていた。
時代とともに注文菓子の需要が減っていき地域の競争も激しくなる中、昭和50年にはJR八戸線の久慈駅~普代駅が開業(昭和59年に三陸鉄道へ転換)。観光客の増加とともに、街の菓子屋は土産用の菓子づくりに力を注ぐようになった。
竹屋製菓もまた、この土地ならではの菓子を作ろうと地元の食材に着目。この地域は昔から、北東の冷たい風「やませ」の影響で米の収穫にあまり適してなかったため、稗(ヒエ)、粟(アワ)、豆類などの雑穀を中心に生産していた。
「藩政時代は年貢として、米の代わりに大豆を納めていたという説があります。また、かつての県の奨励品種「山白玉」の産地でもあり、まずは大豆を使った菓子を作ろうと考えました。最初に作った『大豆き甘納豆』は、30年ほど経った今でも人気の商品です」
次に嵯峨さんは、岩手県産の黒豆に着目する。
今でこそ「黒豆といえば丹波」というイメージがあるが、昔は東日本を中心に「黒豆といえば雁喰い豆」と言われていた。
雁喰い豆は岩手県や山形県の一部などで作られているが、平たい形の豆を一粒ずつ手作業で選別しなければならず、手間がかかることから生産者は減少傾向にある。
「商品づくりを始めた時、雁喰い豆は県内の限られた地域でしか栽培できず、また、黒豆の生産そのものが少なかったんです。そのため近隣の農家の方々に協力していただいて、種としての黒豆を配って、育ててもらう所からスタートしました。だいぶ少なくなりましたが、今でも年末になると農家さんたちが黒豆を届けてくれます」
新たな食材との出会いを求めて
黒豆は煮汁もゼリーに使用するため、捨てることなく全てを使い切ることができる。今では品数も増え、甘納豆やケーキ、どら焼きなど、さまざまな商品を展開している。
嵯峨さんはそれらを眺めながら、「これまで当社では豆類や山ぶどう、ブルーベリーなど、岩手県産の材料にこだわってきました。今後も岩手の食材を使って新商品の開発に挑戦していきますし、長く愛される菓子を作り続けていきたいです」と語ってくれた。
撮影:佐藤到
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