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迷世屋敷に見るマヨイガ考

VRChatに「迷世屋敷 -maze house-」というホラー体験ワールドがあります。このワールドの内容に関して私の観点から考察を書いてみたくなりましたのでここに一筆したためます。ある意味、好きなワールドの長文紹介とも言えるでしょうか。
なお都合上ワールドの展開に関するネタバレを多分に含むのと、あくまで私の独自研究にすぎない公式見解ではないものであることをご承知願います。

「迷世屋敷 -maze house-」とは?

VRSNS「VRChat」における体験型のホラーコンテンツの一つです。比較的著名で人気なのもありVRChatプレイヤーならご存じの方も多いでしょう。
いわゆる「雰囲気ホラー」と呼ばれるジャンルのワールドであり、具体的なモンスターの登場やグロテスクなコンテンツ・画面の急変などは少なく、暗闇と雨霧が交互に変わる迷宮の中、ひたすらおどろおどろしい雰囲気のみが続く渋い和風ホラーです。

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音声やさりげないアイテムのみからなる「雰囲気」だけに関わらず、いかにもこの先何かが起きそうな、何かが出てきそうな緊張感を適度に継続させるという点において秀作であると私は思います。
しかしこの手のホラーワールドでは往々にしてあることですが、この世界や背景についてプレイヤー側に提示される情報はかなり少なくなっています。盛り込めるボリュームの問題や雰囲気作りもありますがテキストコンテンツや登場人物がそれを語ることもなく、所々にある物や音などの表現のみからそれらを感じ取ることになるわけですね。
しかしなんとなくで置いておくには勿体無い程度には興味深い点をいくつか感じたので、本記事では私が推測したこの世界の背景を以下でまとめておくことにしました。やや長文乱筆になるがお付き合い下さい。

「マヨイガ」伝承との類似点

怪異や伝承に詳しい方なら、ワールドのタイトルから遠野物語などでみられる「迷い家(マヨイガ)」伝承との類似点をまず考えるでしょう。ワールドの説明文における「気がつくと『そこ』に居た。ここが何処なのか、どうやってここまで来たのか覚えていない」という異界性もそうですし、火が起こって何者かが暮らしている気配があるが人の姿は見えないといった点も同様です。原型のひとつはこの伝承にあるとみてよいでしょう。

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ただ伝承ではそれを訪問した者が恐ろしい者に出会ったり危害を加えられる事はなく、むしろそこから物を持ち帰れば福を得るといった不思議ではありますが怪談とも言えないような話です。そもそもそうした伝承の「迷い家」も人里離れた場所ではあれど、牛馬が多数飼われ食器なども用意された立派な家であり、決して迷世屋敷のような崩れかけた廃屋などではないようなのです。この点では「迷い家」伝承そのままの形ではありませんね。

怪異的な伝承から怪談への変質

こうした廃屋を用いた怪談的な世界観はむしろ、近年迷い家の伝承から発展している現代の怪談に近いかと思われます。廃墟探検の体験記や映画「呪怨」といった呪われた土地や家に関する物語であり、そこでは大体訪問者は無事では済まず、得体のしれない怪異や物品を目にして這う這うの体で逃げ出すか、あるいは同行者の一人が精神を病んでしまったり、最悪帰らぬ人となるわけです。

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言うまでもなくここはホラーワールドである以上そうした怪談的な仕立てであることは全編見ても間違いなく、後述しますが「いわくつき」な背景を持つ場所であるのがメインでしょう。作者さんもリリース時「山中の廃墟を探索して脱出を目指すワールドです」といわれてますし。(≒脱出の必要がある何やら危険な場所であるということ)

数々の怪現象と考察

以下、マップを進んでいくうえで出会う様々な事象についてコメントしておこうと思います。
まずタイミング的には最初に聞くであろうものは、「モ~、ム~」といった低い唸り声ではないでしょうか。何か出たか?と思えばどこにも姿がなく気配の演出のみ。他にも何かつぶやくような声やラップ音が聞こえる場所はいくつかあるのですがこいつだけは何度も場所を問わず聞こえるので、様子を伺いながら後を追ってきている体でもあって不気味であり、この屋敷の重要人物(?)ということなのでしょう。(これについては後項で追記)

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入って左に進んでいくと廊下の片隅にゴミ袋があります。当然意味もなく置いてあるはずもなく、耳を近づけると「タスケテ、タスケテ」とかなりダイレクトな表現。どう助けることもできないので生者でなく怨念なのでしょう。まぁ、袋の中身は確かめたくはありませんね。リアルな見物人ならここで逃げ帰っているところですがゲームでは進まねばならないところがつらいところです。
更に進むととある部屋に置いてあるこけしの人形。これも本来愛玩用の人形ですが怪談的な文脈では怖いものの代名詞。このワールドでは珍しい脅かしポイントになってます。これに気を取られて逃しがちですがさらに奥には。

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穴とスコップ。こうした雰囲気の中床下に埋めて隠そうとするものと言えば……。先ほどのこけしと言い、何事かによる犠牲者の霊が彷徨っている感じですね。とある一家に惨劇が起こったり、魔術的な儀式が行われて犠牲者が出てのち廃墟になり、そこを訪問した者が呪われる……という筋書きは枚挙に暇がありません。それを文脈で読ませてくるのが巧みですね。
他に気になるのは所々に落ちている懐中電灯です。ピックアップできて入口のものと同様に明かりになり、他のワールドでは道中でうっかり明かりを手放したプレイヤーの救済措置として用意されているものに見えますが。

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実はこれは半分罠であり、この懐中電灯からも何事かブツブツつぶやく怨念の声?が聞こえてくる仕組み。動画実況などで初見の人を驚かせる定番でもあり中々にたちの悪いギミックです。さて古風な屋敷に見合わず所々に落ちているこの懐中電灯、過去の忌まわしき事件ののち好奇心で入ってきた侵入者の遺品なのかもしれません。これもまたここの危険性を盛り上げている雰囲気づくりの一環なのかもしれませんね。

地下の檻と怪異における別のルーツ

中盤訪れることになる屋敷の地下には檻があります。今までの展開からすると犠牲者や侵入者を閉じ込めた、ともとれますね(実際この周囲からは子供の鳴き声のようなSEが聞こえ惨劇を思わせます)。しかしそう考えるとこの檻には少し不自然な点があります。檻の枠組みも、中に残る金輪と鉄球も人間には大きすぎるのです。これはむしろもっと大きなもの、犠牲者を食らう怪物を閉じ込めていた檻、ではないでしょうか。
ここでこの屋敷がホラーワールド探索のための都合とはいえ「迷路」という構造を持っていることも踏まえてみましょう。迷路に閉じ込められた怪物といえば、牛の首を持つ怪物ミノタウロスが思い出されます。この怪物も定期的に迷宮に生贄を捧げられる設定を持ち、先述の「モ~、ム~」といった唸り声は聞きようによっては牛の鳴き声のようにも聞こえるわけで。さらに言うならネット上で「とても恐ろしいが故語られない『牛の首』という怪談がある」という伝説もありますね。そうするとここに潜んでいたであろう怪物の姿がおぼろげに浮かんでくる気もするのですが……いかがでしょうか。

ゴールのメッセージの特異性とメタな視点

処々潜り抜けて屋敷の奥にたどり着くと待っているのが比較的明るく整った座敷、つまりゴールです。しかしそこに置いてあるのがこれ。

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「おかえり」(血の手形付き)

安堵したと見せかけて最後に薄気味悪いメッセージで締めるという心憎い演出です。他の洋物ホラーワールドのように「Thank you for playing」と出すのは世界観的にそぐわないのでその代替というのはあるでしょうが、それにしても何故「おかえり」なのでしょうか。屋敷を潜り抜けて現世まで戻ってこれた「おかえり」にしては風体が不気味ですし……。
私見ですが、これはプレイヤーがここに再び戻ってきたことに対する「おかえり」なのではないでしょうか。
VRChatのワールドは検索などメニューからもある程度行けますが、話題の新作以外にたどり着くのは中々難しいもの。旧作ワールドと言えばTwitterやメディアの紹介記事で見るか、あるいは他のプレイヤーに紹介される形で訪問する場合も多々あります。特にホラーワールドは連れていきたがりの人、一人は怖いので経験者に案内してもらう人も多いようです。このワールドに魅入られて新たな犠牲者(?)を連れてくるプレイヤーそのものが屋敷の怪物からすると同類、親しみを込めての「おかえり」なのかもしれません。
そしてその案内された人は新たな案内人になり……?

最後に

最初にも述べましたが作者さんによって語られないワールドの裏話は推測に過ぎず、例えばホラーワールドなら「こうした方が怖そうだからイメージ的にこうした」事もあるのでしょうしはっきりとした意味を求めるのも野暮なのかもしれません。しかしワールド探索の上でオリジナルの設定や物語を思わせられる機会は少なくなく、そうしたものを考えるのも個人的な楽しみではあります。今後も機会あれば他のワールドもこうした長文紹介などをやっていこうかと思います。

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