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子供に考えさせるコミュニケーションを

弊社が携わる対象者の方々の特徴として、「人付き合いは苦手、他人とは接せずに自分の好きなように生きていきたい。…でも自分の話は聞いてほしい」という傾向があります。

実際に、第三者に敵意をむき出しにしながらも、面会に行くと「もっと話したい」と言ったり、長い手紙を書いてきたりします。それでいて、彼らの共通点として挙げられることに、「自分の“気持ち”を言葉にするのが苦手」ということが挙げられます。

この“気持ち”とは、感情(喜怒哀楽)のことではありません。その瞬間の喜怒哀楽を言葉や態度で表すことは、むしろ得意です。ただ、その感情の根底にある“気持ち”と向き合ったり、それを言語化したりする力がありません。

だからこそ第三者にとっては、彼らが突然、感情的になり、しかもその言動がコロコロと秒単位で変わるため、「とても付き合いきれない」「面倒くさい」人になってしまい、人が寄りつかない、という結果になります。

このように言うと、よほど彼らが会話のない家庭で育ち、親から放っておかれたのだろうか、と想像するかもしれません。当然、そのような事例もありますが、一方で「本人が精神疾患を発症し、親子関係がこじれるまでは、会話も普通にあった」という家族もいます。

そのような家庭におけるコミュニケーションのあり方を振り返ってみると、会話はあっても、表面的な言葉の投げ合いだったのではないか、と思われることがあります。

分かりやすい例として、子供が学校の先生や友達の悪口を言ったとき、一緒になって「あの先生(あの子)は、〇〇だもんね!」と悪口を言う親がいます。そこから派生して、ひとしきり誰かの悪口や噂話で盛り上がって、会話を終えてしまいます。

まずは子供の話に耳を傾け、共感するのは大切なことです。しかし、一時が万事この調子では、そのときは楽しくてストレス解消になったとしても、子供が自分の“気持ち”と向き合い、感情をコントロールする術を学ぶ機会を、奪うことにもなりかねません

「なぜその先生(友達)のことが嫌いなのか」「問題は先生(友達)にあるのではなく、自分自身にもあるのではないか」「先生のことは一つのサインで、学校生活自体に問題があるのではないか」「他に悩みがあるのではないか」……等、子供の感情の発露から見るべきポイントはたくさんあります。

重要なことは、親の考えや価値観を押しつけるのではなく、その感情の根底にあるものを、子供自身に「考えさせる」ということです。それを自分の頭で考えられるようになることが、感情のコントロールや、他者との上手なコミュニケーションにもつながります。

この傾向は、かつては母親と娘の組み合わせで顕著でした。女の子は早熟傾向にあり、早い段階から母親の良き話し相手になることが多く、母親のほうもつい、友達感覚で話をしてしまうことが多いからです。

しかし最近の若い男性(10~20代の息子)に関する相談事例を見ていると、母親が息子と友達感覚(あるいは恋人感覚)で接し、日々の会話も感情的、表面的なやりとりですませてきたような事例が増えています。親子関係もジェンダーレスになってきた社会背景もあるかとは思いますが、子供のコミュニケーション能力を育てるためには、少々、注意が必要です。

もっとも、常に禅問答のような会話では子供も疲れてしまいます。ポイントとしては、子供にとってのマイナスの事柄(人間関係のトラブルや、人生における失敗など)があったときはとくに、喜怒哀楽の感情の発露に親が同調して済ませてしまうのではなく、その根底にある“気持ち”と子供自身がしっかり向き合えるよう、サポートできると良いと思います。

次回は、幼少期に親子のコミュニケーションをないがしろにしたことで起きる「束縛コミュニケーション」について、考察を深めてみたいと思います。

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