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家庭における危機管理

子供自身が判断できるように

近年、セクハラだけでなくパワハラやアカハラなど、「〇〇ハラスメント」という言葉をよく耳にするようになりました。強い言葉は即座に問題視され、糾弾の対象となることがありますが、その結果、安全で快適な世の中に進化しているかと言えば、そうでもないように思います。

インターネットを開けば、有益な情報が得られる一方で、悪意に満ちた言葉が目に入らない日はありません。道ですれ違っただけの人から理不尽な怒りをぶつけられたり、知り合いであっても、小さなトラブルから恐怖を感じるほど憎まれたり……。そのようなことがいつ何時、自分に降りかかってこないとも限りません。

親であれば、子供にはできるだけ嫌な目に遭うことなく、怖い思いをすることなく、生きてほしいと願うものです。とはいえ、四六時中子供についてまわり、保護することなど現実的ではありません。先回りしすぎて過干渉になってしまうことも、健全な成長のためにはならないでしょう。

また、子供の成長過程においては、他者からの厳しい𠮟責や言動を受け止めなければならないときもあります。子供の身に起きた出来事を、親が先走り感情的になって「〇〇ハラスメント」とひとくくりにして排除するようなことがあってはならないとも思います。

重要なことは、子供自身が「危機的状況を判断」し、「起きてしまったときにその場でどうするか」です。幼い子供であっても、できるだけ危険な状況に身を置かない判断力が求められています。また、いざというときに「周囲に助けを求める」「防犯ブザーを鳴らす」「110番通報する」などの行動をとれるようにしておかなければなりません

そしてもう一つ重要なことは、「その後」の対応です。弊社の相談でよくあるのが、子供が何かしらの嫌な出来事をきっかけに、学校に行けなくなったり、会社に行けなくなったりして、親も異変に気づいていたのに、その後のケアを怠ってしまった、という事例です。

子供の話に耳を傾ける。本人が言いたがらないのであれば、学校の先生や友達、職場の上司や同僚などに話を聞いてみる……、本人の様子を注意深く見守り、場合によっては専門家の力を借りることも視野に入れるべきでしょう。子供が何も言わないからと言って、「たいしたことじゃなかったんだ」などと思わないことです。

発育過程で見逃してしまいがちなこと

弊社が携わる対象者は、現在、30~40代の方がメインですが、最近の傾向として、主病名(統合失調症や強迫性障害)の他に、実は幼少期から、発達や知的面での遅れがあったのではないかと思われるケースが増えています。

それは、本人が医療につながり主病名の治療が進んで興奮状態が落ち着いてくると、むしろ如実に表れてきます。たとえば院内での過ごし方や退院後の生活について、病院職員の方も交えて面会で話し合い、その時は本人も理解を示して決めたはずのことを、次の日には「そんな話はしていない」と主張します。

もう一度よく話を聞いてみると、皆で話し合った内容がうまく理解できていなかったり、皆とは異なる解釈をしていたり、ということがよくあります。知能検査や心理検査を受けると、発達障害等の確定診断までには至りませんが、たとえば聴覚的な情報を記憶したり、頭の中で操作したりして処理することが苦手、社会規範を柔軟に取り入れる力が乏しいといった結果が出ています。

以前、そのような患者さんへの関わりについて精神科医とお話したときには、「耳から聞く情報だけでは入りにくいこともあるので、文字にしたり図にしたりして、説明してあげてください」と教えていただいたこともありました。

とくに、今30~40代の方の幼少期には、「発達障害」の周知度も低く、親御さんも、本人の特性を認識せずに育てています。本人が専門学校や大学などに進学できている例も多いのですが、時系列で振り返ってみると、ところどころで学習面や人間関係における躓きが見られ、かなり無理をしていたのではないかと思うこともあります。

その特性に気づかないまま家族が本人と接すると、「会話はあるが、真の意味でのコミュニケーションが取れていない」ということが起こりがちです。親は「本人とは何度も話しあった」「気持ちを尊重してきた」と考えていますが、本人は「親は自分の意見を聞いてくれない」「自分のことを理解してくれない」と感じているのです。

結果的に、「言った、言わない」「嘘を吐いた」「約束を破った」…というような話になってしまい、話をするたび喧嘩になるか、逆に会話が皆無になるなど、関係が悪化していきます。親子だからこそ感情的にならずに話をすることが難しい側面もあり、親子間のコミュニケーション自体に、第三者の介入が必要なケースも見受けられます。

弊社への相談では、すでに事態が深刻化しているケースが多いため、優先順位として対象者の方に注力することになりますが、そもそも親自身が他者とのコミュニケーションが苦手であったり、それゆえに過去に相談した行政職員との中で、言いたいことを伝えきれていなかったり、主旨を取り違えていたりするケースも少なくありません。

まだ幼い子供をもつ親御さんからも、「うちの子も障害があるのだが、将来が不安だ」というご相談をいただくこともありますが、障害の有無にかかわらず、幼少期のうちから家族以外の大人(専門家も含め)と関わりを持っておくことです。コロナ禍により、いっそう孤立しがちな現代社会だからこそ、その難しい課題を乗り越えていきたいものです。

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