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♯036 10~20年間ひきこもっていた人と、どう人間関係を育むか

『「子供を殺してください」という親たち』(新潮文庫、コミックス)のタイトルが象徴するように、弊社には、子供の精神疾患から派生する問題に疲弊し「もう限界」という相談が数多くあります。

そのような境地に至る家庭の多くは、問題を「家族」だけで受け止めています。言葉を変えると、対象者(本人)が「家族」としか接点をもっていない、とも言えます。たとえば長期ひきこもりは、その最たる例です。

中には、子供が10~20年単位で一切外出せず、家の中だけで過ごしていた、という相談もありました。人間関係は家族だけ、顔を合わせることすらなくメールやメモでの指示が中心になるなど、健康的なコミュニケーションは存在しません。あるいは、完全なひきこもりとまではいかなくても、一日のほとんどを自宅で過ごし、外出には必ず家族を付き添わせるような方もいました。こちらも第三者との関わりはなく、家族とも不健全な関係に陥っています。多くは10~20代前半でそのような状態がはじまり、そのまま30代、40代に突入しています。

今回のnoteでは、そうして社会性やコミュニケーションに困難を抱えたまま大人になった人たちに対して、第三者の立場である弊社がどのように介入し、向き合っているかについて書いてみたいと思います。

大人になっても「家族の中」だけで生きてきた人と、人間関係をスタートする

弊社が受けるご依頼のほとんどは、親子関係が健全とはいえないだけでなく、それを正そうとすれば命の危険さえあるケースがほとんどのため、精神科入院治療やグループホームなど施設入所を機に、「親と子が物理的・心理的に距離をとる」という選択をすることになります。最初の介入の段階で、本人にもその必要性をお伝えします。

当然、拒否する方もいらっしゃいますが、自室にひきこもることで心身の健康を損なっていたり、精神疾患が原因ですでに家族に暴力を振るっていたりするため、その事実を認めてもらい、まずは心身の健康をとりもどすことから始めるよう説得します。

介入の初期に重要なことは、「とことん(対象者の)話を聞く」ということです。もちろん施設での面会には時間の制限もあるため、足りない部分は手紙や電話などで補います。

本人はこれまで、ひきこもりという形で、親に精神的・経済的に依存してきました。いっぽうで親に対する不満を抱いていることが多く、そのため私たちとの会話も、最初のうちは主に家族(親)への不満が続きます

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