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人と“直接”向き合うことの価値

2022年になりました。

すでに言い尽くされていることではありますが、コロナ禍は、日々の生活や生き方そのものを考える機会となりました。「人に会う」こと一つをとっても、実はさして必要のなかった付き合いや会食の存在に気づき、人間関係を整理した人もいらっしゃるのではないでしょうか。

一方で、人と関わること、直接会って向き合うことの重要性を再確認しています。

たとえば弊社では、精神科病院に入院中、あるいはGHなど施設に入所されている患者さんをサポートしており、環境調整のお手伝いの他、定期的に面会にも行っています。

面会と言っても、ただ会いに行っておしゃべりするわけではありません。弊社が携わる患者さんの多くは、他者との関係構築を苦手とする傾向がみられます。弊社が介入するまで何年もの間、ひきこもりの生活を送り、家族以外の人と接触していなかった方もいます。それゆえに、単純にコミュニケーションの作法を知らないということ以外に、認知の歪みを抱えていることも多くあります。

弊社では面会において、本人とさまざまな話をすることで、その歪みを修正していきます。そのため、過去のことや家族との関係など、本人にとっては耳の痛い話もします。当然、なかなか心をひらいてくれないこともあれば、腹を立てて激高されることもあります。そこで弊社も、複数のスタッフによりマンパワーと時間をかけて、面会を継続していきます。「嫌だ」「気に入らない」「面倒くさい」などの感情で外部をシャットアウトする生き方は、家庭の中では通用したとしても社会では通用しないことを、理解してもらうためでもあります。

病院や施設で治療や一般的な生活訓練を行いながら、面会を通じて本人の認知の歪みを修正し、コミュニケーション力の底上げをする。このように、弊社にとって「面会」は、非常に重要な意味を持っています。またこれは、病院や施設という「安全」な場所だからこそ、できることでもあります。

ところがコロナ禍以降、患者さんと外部の接触は厳しく制限されるようになりました。面会の人数や時間にも制限が設けられるようになり、一切NGとなった所もあります。ふだん面会時には、病院や施設ではなかなか食べられない食べ物(マクドナルドやケーキなど)を差し入れていたのですが、それも禁止となり、気分転換もできなくなりました。

昨年の後半になってようやく、それらの制限が徐々に解除されるようになり、私たちも面会など通常業務を再開しました。そこで久しぶりに患者さんに会ってみると、軒並み、調子を崩されていたのです。

ある方の場合、自宅にひきこもり、家族とのコミュニケーションも首を振ったり手で指図したりするだけで、発語が一切ない状態で十数年を過ごしていました。弊社が介入することで医療につながり、否が応でも第三者と関わることになり、弊社のスタッフとも、少しずつではありますが、会話によるコミュニケーションがとれるようになっていました。

しかしコロナ禍の面会で数分の面会しかできなくなり、しかもアクリル板を挟んだ状態ですのでお互いに声も聞きとりづらく、そうこうするうちに再び「言葉を発しない」「話しかけても首を振るだけ」という状態に後戻りしてしまいました。最終的には首を振ることもしなくなり、唯一感情を読み取れるのは、目の瞬きや表情の変化(険しい顔つきなど)だけとなりました。

もちろん、面会だけが理由ではないと思います。国による緊急事態宣言もあり、病院や施設では外出制限や、院内(施設内)の作業・イベントの縮小などもありました。クラスターが発生した病院や施設では更に厳しい制限が課され、患者さん自身も「罹患するかもしれない」「これからどうなるのか」という不安感が強まったことでしょう。

別の患者さんは、陰性症状が強く、人と会うだけでも極度に緊張されます。ご本人からすると「一人」でいるほうが居心地も良いのでしょうが、独居では服薬の管理や日々の食事などが難しいため、現在は施設に入所されています。面会をしてもなかなか会話が弾まないこともありましたが、年数の積み重ねによって、人間関係が構築されていきました。

この方も、面会制限が解除されて久しぶりに会った際には、病状の悪化が顕著にみられました。ところが一か月後に再び面会に行くと、明らかに復調されていました。面会の解除だけでなく、施設内の行動制限も緩和され、外出が可能になったことも影響していると思います。「(関わりのある人と)定期的にコミュニケーションをとる」ことの大切さをひしひしと感じました。

他者との関わりが途絶えたことによる心の浮き沈みを目の当たりにし、家庭の中で、家族の不調を知りながら放置してしまうことの恐ろしさを、改めて思っています。今、社会では、精神疾患やひきこもりによって孤立している状態を知りながらも、「その人がそうしたいならば、尊重すべきだ」という論調もあります。孤独をすべて悪だと決めつける必要はありませんが、誰も関わらず、感心も持たず、声かけさえしない状態を「それでよし」としてしまったときには、本人の不調は進行するばかりです。とくに認知の歪みの激しい方の場合、孤立することでますます自分の考えに固執し、他罰思考を強める傾向もあります。本人にとって居心地のよい時間や空間(孤独)を守ることも大切ですが、「孤立」させてしまわないよう、いっそうの注意が必要です。

このところ、オミクロン株の流行などもあり、第6波の到来とも言われています。病院や施設は早い段階で外部との接触に制限をかけざるを得ませんので、家族が病院や施設等に入所(入院)しているという方は、タイミングを見て会いに行ってほしいと思います。面会や外出NGの制限がかかっても、患者さんのために必要とみなされた場合は融通していただけることもありますので、日ごろから職員の方々と密に連絡をとりあい、ご本人の状態に気を配ってください。

また、家族の問題で悩まれている方は、先延ばしにせずに行政機関や医療機関に相談に行くことをお勧めします。


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