クチバシカジカ
何も見えない暗闇のなか、私は地面に寝そべっている。
両手両足を広げた姿勢で、虚空を見つめている。
手の平や背中から伝わる地面の感触。
極めて平坦な砂地のようだ。
やがて無限にも思われた闇の世界に光が訪れる。
薄明かりの世界へと変貌してゆく。
徐々に明るさが増してゆく。
夜明けだ。
上半身を起こして見回すと、灰色の大地はどこまでも平らであることがわかる。
360°の地平線。何も無い。
空は蒼く澄みきっている。
ここはクチバシカジカ獄。
終わりゆく世界の、最後の一日。
ゆっくりと息を吸っては吐き出す。
これは空気だろうか。あるいは水?あるいはそれ以外の何か?
目の前の空中に、半透明の魚が姿を現した。
かつてこの世界に生きた住人か。
幽霊は語り始める。
誰にともなく、独り言のような口調で。
『長い年月が流れた。
わたしたちはここに暮らし、ここには王の都があった。
クチバシカジカの王。
遥かにそびえる山々に祝福され、王の谷には緑が生い茂った。
吹き抜ける風に揺られながら、わたしたちは気ままに泳いだ。
やがて大地はひび割れ、山は崩れ、森は枯れ、空は赤かった。
わたしたちはひとりもいなくなった。
都は滅び去った。
そして長い長い、眠りについた。』
ふとエーテルの風が頬を撫で、私は空を見上げる。
視界いっぱいに、クチバシカジカの姿が映し出されている。
空を埋め尽くすほど巨大に引き伸ばされた虚像が、ゆっくりと移動しながら、地平線の向こうへと沈んでゆく。
私はそれを見つめている。
空は赤く、黄色く、様々に色相を変えている。
ピンク色に、オレンジ色に、紫色に。
虚像は次第に数を増し、空のこちら側から向こう側へ、とてもゆったりとした速度で動いている。
それは流星のようだ。
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