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ミュージカル『ビリー・エリオット』観劇記録

10月3日、念願のミュージカル『ビリー・エリオット』観劇である。2017年・2020年に続いて3度目の上演で、その分期待値も高い。ぼくが観劇ライフを初めたのは2021年なので、今回初めて本作品と出会うこととなった。そしてその期待は最後まで裏切ることなく、満足した気分で鑑賞することができた。今回は物語の展開に沿って、感想や解釈を綴っていく。

ここから先はストーリーに沿って感想を綴っていくため、ネタバレを多分に含みます。


第1幕

客席の照明が暗くならないうちに、ぼくのすぐ横をスモールボーイが通り過ぎ舞台へと上がっていく。彼が見つめる先には、国有化され1950-70年代に栄えた英国炭鉱のモノクロ映像が流れている。そして半透明の幕が上がり1984年、サッチャー政権と闘おうとする炭鉱労働者たちのナンバー「♪The Stars Look Down」となる。この演出により、わずか数分で客席ごとタイムスリップした感覚になる。

ボクシングジムでのビリーは無気力そのものだ。ただビリーがほかの子どもと比べて弱いというわけではなく、相手を殴ることにビリーは抵抗をもっているように映る。そんな無気力が生んだひょんな出会いによって、物語が動き出す。

ビリーが最初バレエに抵抗感を示したのは、「踊ること」に対してではなく「男子→ボクシング、女子→バレエ」という固定観念があったからだろう。一方のウィルキンソン先生、初めはビリーなんか全然相手にしてない:50ペンスの芋づるにしか思っていない?が、彼の回転の様を見てビビッときたのか、バレエのもろもろを指南する。

そして教室の世界(ビリーがバレエの腕を上げていく様子)と外の世界(警察と労働者が対決姿勢を見せる様子)が織り重なるナンバー「♪Solidarity」は非常に圧巻だった。これだけのために観劇料を払ってもいいくらいのボリュームで、最初抑えめだった音楽も、ここから一気にギアを上げていく。
そして、先に述べたビリーのバレエに対する抵抗感が完全に無くなったのは、女装姿のマイケルとのナンバー「♪Expressing Yoursrlf」だろう。「なりたい自分になって 何が悪いの」「つかめ 自由」と、彼の固定観念が吹き飛ばされたことがよくわかる。ここは公式YouTubeで予習してきた甲斐があり、心のなかで口ずさみながらノリノリ。

ウィルキンソン先生の娘:デビーの立ち位置も良かった。ビリーに対するあの態度は、家でもバレエでも、母親からそこまで愛情を向けられていないことは影響している気がする。更衣室?トイレ?前でデビーが発した強烈なひと言は、またビリーをからかっているだけなのか、それとも………??

ところでこの日は、「♪The Letter」のシーンで舞台が一時中断するトラブルがあった。観客には、テクニカルトラブル:ビリー役の石黒瑛土さんの体調不良と伝わっている。クワトロキャストとはいえ、夏休みから歌い踊り舞いっぱなしでは疲れも溜まるだろう。ましてや10歳の子どもが主役の立場だったら尚のことだ。しっかり休んで、また客席に感動を届けてほしい。20分後、ビリーは代役:春山嘉夢一さんによって再開された。

「♪The Letter」など、すでに亡くなっている母親に語りかけるいくつかのシーンは、ミュージカル『バケモノの子』を想起させる。ビリーの母とウィルキンソン先生のハモリは、ビリーが先生と母を重ねたことを丁寧に表す。ビリーが先生に抱きつくシーンは、「ここでデビーが現れたら、彼女はビリーに相当嫉妬するだろうな」と若干ヒヤヒヤしながら見ていた。この作品ではビリーの敵となる人物がいないため、その点は安心だ。

レッスンを重ね、オーディションに出れるかもしれないという希望が見えてきたが、家族と情勢に揺れて断念せざるを得ない。1幕の最後、「♪Angry Dance」。タップダンスと迫力ある音響によって、怒り・葛藤・閉塞感・危機感・その他もろもろの感情が全力で放出される。ここのために序盤の音量が控えめだったのだとしたら、流石の演出だと思う。

第2幕

『ビリー・エリオット』は主要なナンバーが1幕に固まっているので、2幕が中だるみするのではと不安だったのだが、全然そんなことはなかった。

冒頭、トイレ休憩などで現実にかえった客席を役者のマイクによって舞台の時代に戻していく技は、ホリプロステージが得意とする演出だと思っている(『マチルダ』でも見られた)。今回はクリスマスパーティーを一緒に楽しむナンバー「♪Merry Christmas Magic Theater」で、街と客席が一体化されていった。投げ銭システムは2回目以降の観劇じゃないと反応できないって。

そして2幕のメインは、なんと言ってもビリーのソロダンスに尽きるだろう。大道具も背景もなく、スポットライト上のビリーがひたすら舞う。これで観客を引き込んでいくのだから小学生にして流石の演技力、1000人を超えるオーディションを勝ち抜いてきただけの実力だ。特にオールドビリーと2人で「白鳥の湖」を舞うシーンは圧巻で、ビリーの夢と未来を想起させる。そして2幕最大のナンバー「♪Electricity」、ステージでビリーが語り舞うわけだが、こちらも観客と審査員が漸近する演出があり、観客が引き込まれるように工夫されている。

2幕もう一つの見どころは、ビリーというダンサーとしての光と対比される、炭鉱の未来:ストライキの行方だろう。家族や街はここで大いに葛藤していく。ビリーの兄トニーの声には活力から来る迫力があり、こちらが身震いするほどだ。お父さんはビリーの「白鳥の湖」を見ているわけで、葛藤はより強いだろう。終盤における合格発表とストライキの結末が示すものも、またいい対比になっていた。炭鉱労働者たちが地下に潜るように、ビリーは険しいバレエの世界へと向かっていく。

そして最後のシーン、語らないマイケルとビリーがしびれる。二人の友情に、言葉は余計なのかもしれない。

おわりに

1980年代が舞台のこの作品は、現代で生きる我々に強いメッセージを与えているなど思った。個性を出し自由に生きること、他者を認めともに生きること、団結し課題と向き合うこと……、矛盾するようで矛盾しない、大切なことである。

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