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令和版粋なゲーマー養成講座:ダークサイド7:それ、本当にTRPGでやる必要あるの?

解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。今回は、TRPGシナリオを書いてみたい、という話。ライトサイドの続き?

文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ

ようこそ、私の研究室へ。

 TRPGを巡る環境では、しばしば、車輪の再発見が行われる。
 かつては、サークルやサポート雑誌などで共有されていたノウハウも、コロナによるサークルの世代間断絶、サポート雑誌離れなどから、失伝が発生している。そこを活かすために、各TRPGデザイナーが積極的にウェブでの発信を行ったり、サポートサイトの充実を計ったりしているが、何でもかんでもフォローは出来ないし、相変わらず、よりマスなメディアの影響力には及ばない部分がある。
 『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローの誇り』のおかげで、TRPGに対する興味をかきたてられた人々の多くが助言を求めるものの、うまく先達とマッチングしないままであるし、無料で配信される動画でTRPGを始めた人々にとって、TRPGサポート雑誌/書籍は時代遅れの高コストな媒体に見える。
 その結果、世代間ギャップが発生しているのである。

令和5年5月

【主な登場人物】


難解好夫(なんかい・すきお。60歳、フリーランス、TRPG歴40年)
少々梶理(ちょっと・かじり、14歳、CoC大好き中学生、TRPG歴半年、通過リスト50+)
色々知照(いろいろ・しってる。52歳、政府外郭団体系NPO管理職、TRPG歴36年。なんだかんだ言って、難解さんと30年以上ゲームをしている古株ゲーマー。世話好きだが、なぜか独身)
少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳、邪神系コンベンション主催者、会社員、TRPG歴35年。梶理の父で、親ばかが高じて、娘のためにTRPGコンベンションを開催する)
難解ひろこ(なんかい・ひろこ。難解の妻、旧姓・曖昧(あいまい)。46歳。自営業。和装小物製作、TRPG歴27年)

僕のキャラはそうしない!

 今日は、KPならぬDM(*1)をこなした色々知照(いろいろ・しってる)は、難解好夫(なんかい・すきお)とサイゼでイタリア飲み(*2)。

難解「お疲れ様!」
色々「今日も終わった!」
梶理「お疲れ様です!」
難解・色々「はい、お疲れ様です」

 しかし、なぜか、二人の横には、梶理ちゃん(*3)と少々父が。
 それには理由がある。

梶理「今日のセッションでちょっとひっかかることがあって……」
難解「どうしたんや?」
梶理「今日は新CoCのKP(*4)だったんですけれど、ほ1さんが…」
難解「ほ1?」
梶理「ハンドアウト1を選んだ人です。略してHO1、ほ1」(*5)
難解「ああ、PC1さんね」(*6)
梶理「探索の途中で、ほ1さんが『僕のキャラはそんなことはしません』と言い出してしまって……」
難解「あー、出たよ、RP厨房ムーブ」(*7)
梶理「あ、よくあること?」
難解「まあ、わしもやったことがある(*8)が、キャラに入れ込むヤツほど、設定とシナリオの齟齬にはまり込んで動けなくなるんや」
色々「ロールプレイ好きほど悩むんだすよね、あれ」
難解「まあ、TRPG初段(*9)あたりにだいたい通る道やね」
梶理「TRPG初段?」
難解「慣れてきた頃やね。キャラ設定とシナリオへのモチベーションが合わない時に、ちょっと斜に構えたプレイヤー(*10)がハマる罠や。
 で、どうしたんや?」
梶理「ほ2さんとほ3さん(*11)が説得してくれてなんとかなりました。私はどうしたら、よかったのかな?」
難解「まあ、できることはあるが、『僕のキャラはそんなことはしません』と言い出した時には、もう遅いんやな」
梶理「えーーー」
難解「TRPGは、没入系の遊びや(*12)。キャラに入れ込んだり、キャラの立場になって考えたりしたら、GMのシナリオからはみ出す、というのは、シナリオの設定が間違っているか、ゲームの設定に対するコンセンサスが成立しておらんのだよ」
梶理「???」
難解「今日はCoCやったんやろ? CoCの探索者(*13)ってのは、ちょっと好奇心が強くて、邪神の存在に気づいてしまうようなキャラなんだが、そこがプレイヤーにも共有されていないと、『こんな場所にいられるか!』(*14)という現場からの逃避になってしまうんだ。常識的に考えれば、首を突っ込まないようなオカルト事件に関わるんだからな」
梶理「でも、私の方をちらちら見ていたんですよね?」(*15)
少々「それは、面倒くさいヤツだ」
梶理「???」
難解「まあ、そいつがいくつかはさておき、人生、ちょっと斜に構えたキャラがカッコいいという時期がある。GMの期待を裏切って依頼を断る、オレ、カッコいい!(*16)と思うんだよな」
梶理「もしかして、中二病?(*17)
 あの人、20越えてましたけれど」(*18)
難解「いいか、男には、いくつになっても、心に中二病を飼っている(*19)ものなのさ。そこはまだ梶理ちゃんにわからないだろうな」
梶理「わかりたくないです」
難解「メンバーは?」
梶理「ハンドアウト1は霊媒カタルさん、ハンドアウト2は恍惚果(こうこつ・はてる)ですね(*20)」
難解「恍惚は自己陶酔型のロールプレイが好きだが、ついに調整する側に回ったか(*21)。そこは、少々父が配慮したはずだ(*22)」
梶理「そうなの、パパ?」
少々父「まあ、付き合い長いし」

対策は事前に

梶理「でも、確かに、時々、オンセでも似たような話を聞きますね。野良卓(*23)だと、助けてくれるプレイヤーさんとかいなくて、どうすればいいのかな?」
難解「まあ、事前準備で大半は済む。
 『CoCの探索者は好奇心があって、神話事件を解決しようと思う人です』と最初に言っておく(*24)。ここからズレそうなら繰り返す(*25)」
梶理「うるさくないですか?」
難解「残念だが、人類という生き物は一度に三つぐらいのことしか考えられない(*26)。すぐ、一杯一杯になる」
梶理「それでも暴走したら?」
少々「メタ発言(*27)というか、プレイヤー発言(*28)で相談するのもいいよね?」
難解「メタ発言って萎えるから嫌いなんだよな」(*29)
少々「どうするんですか?」
難解「ダイスを振る」
少々「はあ?」
難解「新CoCのいいところは、バックストーリー(*30)の存在だ。それを思い出させる。1D6を振って、特定のバックストーリーが脅かされる可能性を指摘するのだよ。この時に、必ず、キャラクターシートを確認するんだよ」
梶理「バックストーリーを確認する訳ですね?」
難解「まあ、そうだが、その時に、キャラクターシートとKPのメモを突き合わせて10秒ぐらい考える。梶理ちゃんがKPからそうされたら、どう?」
梶理「難解さんが私のキャラシートをじっと見る。なんかキモい」
難解「・・・・まるで俺が犯罪者みたいじゃないか?」
色々「事案ですね?」

 何かが通り過ぎた。

梶理「いや、そんなつもりじゃないです。でも、確かにちょっと嫌ですね」
難解「そこがプレイヤーに自分を意識させるテクなんや」

それはTRPGなのかな?

 いざという時のテクニックを伝授させてもらった梶理だが、どこか納得していない様子。

梶理「今日のメンバーさん、結構、変なことを言うんですよね?」
難解「変なことって?」
梶理「ほ1の霊媒さんは教授役なのに虚言癖があって、いい加減なことをよく言うし、ほ2の恍惚さんも変なセリフを乱発するし」
難解「たぶん、それは通常運行だ」
色々「主催者、参加者アンケート(*31)見せて」
少々父「はい」
色々「あ、この霊媒カタルくん、他に好きなゲームで『人狼(*32)の狂人役。霊媒を騙るのサイコー!』って書いている」
難解「ナチュラル狂人系(*33)の知識人か、それはヤバいな。恍惚の方が演じる楽しみを重んじる分、扱いが楽かも」
梶理「でも、恍惚さんは、私立探偵(*34)を選んだ瞬間に、ホームズのコスプレ(*35)始めましたよ?」
難解「そこは通常運行だ。キャラを演じるのに命をかける。ファンタジーだったら、カバンからマントとウィッグが出てくる」(*36)
梶理「それであのスーツケース!?」
難解「LARP(*37)なら、全身鎧とツヴァイハンダー(*38)を持ち込むぞ」
梶理「・・・・・・、CoCでよかった」
難解「他は大丈夫だったか?」
梶理「ほ3のローリング鶴蔵さんは、危険な発言が多くて、最初から本人の正気度(*39)が・・・」
難解「どんな発言?」
梶理「何か村ごと焼いて、皆殺しにすれば終わるとか」(*40)
難解「まあ、間違ってはいないが・・・」
梶理「間違ってますよ!」
難解「確実に邪教徒が葬れるなら、村を焼くだろ? 世界を救うためだ(*41)」
梶理「焼きません!」
色々「この人、好きなゲームの欄に『人狼村歴15年』(*42)だそうです」
梶理「また、人狼。でも、ほ1の霊媒さんと会話が噛み合ってませんでしたけれど」
難解「流派が違うからな」(*43)
梶理「流派?」
難解「ローリング鶴蔵は、ゼロ年代後半にネット人狼(*44)で、人狼ゲームをやり込んだ猛者だな。それもリアルタイムで一週間続く昼夜逆転村のサバイバー(*45)だ。村人側で勝利を得るために、ローラー作戦で何人釣れば勝てるか計算してきた(*46)。下手するとセリフは出欠確認(*47)や謎解決の導線(*48)であるべきで、余分なロールプレイはノイズ(*49)としか見ていない」
梶理「・・・・」
難解「対する霊媒カタルはロールプレイが好きなナチュラル狂人で、人狼側に立って、村人側の役職を騙る(*50)のが一番楽しい。予言者じゃなくて、霊媒を騙る(*51)あたりがかなり狡猾。この二人、好きなゲームは一緒だが、正直、天敵だな(*52)」
梶理「じゃあ、ローリングさんが霊媒さんの説得に協力したのは?」
難解「効率よく(*53)、シナリオの謎を調査するためには人手とスキルが必要だからな。『君が活躍してくれるのを期待しているんだ』ぐらいは言っただろうな」
梶理「はい、そのまんまでした。後半、霊媒さんが魔道書を読んで発狂した時も、一番に邪教徒の家に踏み込んで怪物に食べられちゃった時も止めませんでしたね」(*54)
難解「霊媒のキャラが危険の中に飛び込んで、犠牲になるのは、ローリングにとって、想定されたリスクなんだよ」(*55)
梶理「なんかしっくり来ないです。
 TRPGでそこまでする必要はあるのですか?」
難解「あるさ。だから面白い」

意外に楽しんだ参加者たち

 まだ、なにかしっくり来ない梶理ちゃんだが、そこで、少々父が、感想シート(*56)を取り出す。

少々父「梶理は心配しているけれど、4人の参加者はみんな満足して帰ったようだよ」
梶理「よかった」
難解「まあ、霊媒は、ロールプレイに殉じて死んだ(*57)のだから満足だろうし、恍惚は嘆くロールプレイが出来てコスプレも出来た。ローリングは謎解きを果たし、邪教徒をあぶり出せたので満足か」
色々「4人目の黙々さんは……何、この細かいメモ! イラストが怖い」
難解「ラヴクラフト(*58)が残した『狂気の山脈にて』(*59)の創作メモみたいだな」

ラヴクラフトの描いた『狂気の山脈にて』の創作メモ

梶理「この人、最低限しかしゃべらなくて、ずっとキャラシートに絵を描いていたから、楽しかったのかな? と心配だったけれど、よかった」
難解「お地蔵さん(*60)にも色々あってな。ロールプレイは苦手だけれど、ゲームに参加してクトゥルフ神話世界にいる感じだけで楽しいって人もいるんだよな」
色々「あ、この人、最近はソロジャーナリング(*61)にハマっているようですね」
難解「む、何か、宣伝の匂いがするぞ!」

とっぴんぱらりのぷぅ。

解説という名前の何か

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