見出し画像

令和版粋なゲーマー養成講座:ダークサイド11:旅に出ます、探さないでください。

解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。今回は、ゲーマーの終活に関して、ベテラン・ゲーマーたち(酔っ払い)が語り合います。一応、ライトサイトの続き。

文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ

ようこそ、私の研究室へ。

 TRPG誕生から半世紀が過ぎ、日本のTRPG業界も40年を超えた。そろそろ、日本のTRPGの歴史も誰かがちゃんと語らねばならない時期に来ている。
 こういう講座を運営している上、(安田先生を除くと)ほぼ、最長老世代になってしまったので、少しずつ語っていきたいところである。ここ3ヶ月ほどの間に、何件かの配信に出演し、昔話をしたのは、そういう時期であったからかもしれない。

 とはいえ、出来れば、そういう歴史語りは、もっとちゃんとした人に頼みたい。誰か、TRPGジャーナリズムというべきものを確立し、日本TRPG史をまとめてほしい。

 お前がやれ、という話もあるが、私も現役のTRPGデザイナーであるので、冷静な分析など出来ないし、仕事の都合上、出来ないこともある。実際、デジタル・ゲームでのジャーナリズムも確立してはいない今、狭い業界でジャーナリズム的な行動をするより、クリエーションを続けて、可能性を少しでも広げる方が面白いのだ。

令和6年6月


【主な登場人物】


難解好夫(なんかい・すきお。60歳、フリーランス、TRPG歴41年)
少々梶理(ちょっと・かじり、14歳、CoC大好き中学生、TRPG歴半年、通過リスト50+)
色々知照(いろいろ・しってる。53歳、政府外郭団体系NPO管理職、TRPG歴36年。なんだかんだ言って、難解さんと30年以上ゲームをしている古株ゲーマー。世話好きだが、なぜか独身)
少々梶郎(ちょっと・かじろう、48歳、邪神系コンベンション主催者、会社員、TRPG歴35年。梶理の父で、親ばかが高じて、娘のためにTRPGコンベンションを開催する)
難解ひろこ(なんかい・ひろこ。難解の妻、旧姓・曖昧(あいまい)。46歳。自営業。和装小物製作、TRPG歴27年)

難解さん還暦CON打ち上げ

「邪神CON難解さん還暦SP(*1)終了! お疲れさまでした!」
 イベント主催者の少々梶郎(ちょっと・かじろう)の挨拶を皮切り(*2)に皆が乾杯。都内某所の居酒屋を貸し切り、打ち上げが始まる。

「いや、この一杯のために生きている!」(*3)

 今回の主役である難解好夫(なんかい・すきお)は、生ビールを一杯。

少々「では、難解さんからご挨拶を」
難解「もう、たっぷり話しただろ?」
少々「いえいえ、まだまだ、難解さんの話を聞きたいですよ」
難解「うーん、長くなるぞ」
少々「多少なら」
色々「馬鹿、やめろ!」
難解「で、どこから聞きたい?」(*4)

 ちなみに、30分の段階で、色々さんとひろこさんが止めなかったら、難解トークショーは2時間以上、続いたはず(*5)。ベテランGMのトーク能力を舐めてはいけない(*6)。

難解さん、失踪?

 難解さんトークショーを30分で中断し、打ち上げはフリートークに移る。久しぶりに顔を出したメンバーもおり、時間はあっという間に過ぎてしまう。(*7)

少々「では、締めは一本締めで」(*8)
色々「難解さんがつかれたそうなので、代理はひろこさんが」(*9)
ひろこ「じゃあ、行きます。はい!」
色々「ほれ、解散! 解散! 店に迷惑かかるからさっさと撤収!(*10)
 飲み足りない奴は、暗黒司についていけ!」(*11)
暗黒「我が闇のサバトに参加するものは、集え!」(*12)

 訓練されたオタク、もとい、呑兵衛たち(*13)は、二次会幹事についてゾロゾロと店を出ていく。

 残った少々、ひろこ、色々が顔を突き合わせる。

少々「で、これが送られてきまして」

旅に出ます。探さないでください。

色々「ああ、これは難解さんの足ですね。安全靴(*14)のヘタレ具合に見覚えがあります」
ひろこ「また、うちの宿六が迷惑をかけます」
少々「まあ、確かに疲れたんでしょうね」
色々「これを送ってきたということは、どこかで潰れている理由でもないでしょう。二次会は暗黒が仕切ってくれますので、後で俺が探しに行きます。あてもあるので・・・」
ひろこ「会計とか問題は?」
少々「問題ありません」
色々「さすが、某社総務課主任」(*15)
少々「ひろこさんは心配しないんですか?」
ひろこ「もともと、糸の切れた凧みたいな人で、急にどこかに行ってしまいますし、よく外泊もしますので、大丈夫でしょう」(*16)

名もなきバーにて

 その頃、難解さんは荻窪のアフリカン・バー(*17)にいた。

難解「ウゾをロックで」(*18)
マスター「どうぞ。何か食べる?」
難解「ソーセージ」
マスター「ブルボスですね。少々お待ちください」

エチオピアの蒸留酒ウゾをソーダ割で

難解「何年ぶりかな?」
マスター「1年ぶりぐらいですか?」

 言葉は途絶え、ソーセージを焼くかすかな音と厨房の音だけが響く。

南アフリカのソーセージ、ブルボス

 扉についた鐘が揺れて、カランという音を立てる。
 ひとりの男が入ってきて、難解の隣のカウンターに滑り込む。

謎の男

男「マスター、タスカー(*19)」
マスター「品切れです。ハートランド(*20)でいいですか?」
男「アフリカからものが入らない?」
マスター「ここのところの円安(*21)とウクライナ戦争以来の流通不安(*22)で、全然」
男「じゃあ、ハートランドとブルボス」

 男はメニューをちらっと見て、注文した後、難解さんをちらりと見て会釈するが、声はかけない。

難解「・・・朱鷺田?」
男「どうも。えっとどこかで・・・いや、JGCの会場(*23)かな?」
難解「ああ、たぶん、そこですれ違った。いや、待て。本物か?」
男「ええ、朱鷺田祐介です」(以下、朱鷺田)
難解「ちょっと待て、作者が作中に出てくるってことは、この連載も最終回か!?」(*24)
朱鷺田「メタ発言するな。俺も単純に酒を飲みに来ただけだ」
難解「ここは?」
朱鷺田「この店が神楽坂(*25)にあった頃に通っていた。まあ、俺も1年ぶりだがな」
難解「同じだ」
朱鷺田「とりあえず、乾杯」

献杯と昔話

難解「ひとりで飲むのか?」
朱鷺田「ゲームの打ち上げで飲むことも多いが、普段は、ひとりで1,2杯飲んで終わりさ」
難解「今日は?」
朱鷺田「まあ、献杯って奴だ」(*26)
難解「・・・」
朱鷺田「自分より若い業界仲間が往くのは寂しいもんだ」(*27)
難解「年寄ぶりやがって」
朱鷺田「まったくだ。おかげで、昔話ばかり求められる(*28)」
難解「あの配信、聞いたぞ、適当こいて、話盛っているだろ!」
朱鷺田「まあな、多少盛った方が面白えだろ? 細かいところは坂東さんが補ってくれるからな(*29)」
難解「てめえ、ざつだな!」
朱鷺田「そういう芸風だ」(*30)
難解「開き直った」
朱鷺田「悪いな。俺は思いつき型のクリエーターだ。完璧主義よりも拙速で提案する方が俺らしいと思っている」
難解「だから、おめえのゲームは誤植が消えねえのか!」
朱鷺田「残念だが、TRPGから誤植がなくなることはない」(*31)
難解「まあ、プログラムからバグがすべて消えることはないな」(*32)

 一瞬の沈黙が二人の男の間に流れた。

朱鷺田「ところで、『その着せ替え人形は恋をする』……」(*33)
難解「13巻は、神だったな」
朱鷺田「涙が出るな」
難解「ハニエル」

その着せ替え人形は恋をする13巻

誰かが語り残せばいい

難解「日本のTRPG史の本は書かねえのか?」
朱鷺田「まあ、そういうのは安田先生(*34)か鈴吹太郎氏(*35)にお願いする。俺はそういう立ち位置じゃねえ。まず、メインストリームからの視点で語り残されないといかんよな」
難解「そんなこと言っているから、TRPGの入門本を配信者に書かれるんだぞ?(*36)」
朱鷺田「むつー(*37)さんの本は、今、求められているもんだろ?
 クトゥルフ・オンセ組は、俺の名前より、配信者や有名シナリオ書きの方を覚えているぜ。だいたい、俺は『狂気山脈』(*38)も『VOID』(*39)も遊んだことがねえ」
難解「てめえ、そういいつつ、あの怪獣図鑑はなんだ!」

クトゥルフ神話生物解剖図鑑 山田剛毅 執筆協力:朱鷺田祐介

朱鷺田「クトゥルフ神話生物解剖図鑑(*40)か。
 ありゃ、Goking(*41)さんの本だぜ。
 俺はフォローの解説を書いただけだ」
難解「本文120ページに、解説80ページかよ!」
朱鷺田「薄いと書店で埋もれるんだよね。だから200Pぐらいないと本になりにくい」
難解「く、新刊紹介に協力させられちまった!」
朱鷺田「皆さんのご愛顧で、発売前重版(*42)ありがたい!」
難解「こ、こいつ、しぶといな」
朱鷺田「出版メディアで30年も生きていたら、なんかひとつぐらい芸があるもんさ。俺なんか不器用な方だ(*43)」
難解「ああ」
朱鷺田「それより、前回の『光る君へ』(*44)……」
難解「春はあけぼの」(*45)
朱鷺田「夏はサマー」(*46)

年だからな

朱鷺田「さて、俺はここで上がる」
難解「まだ2杯だろ?」
朱鷺田「年だからな。肝臓の数値がな」
難解「アル中め。・・・それより『深淵』はいつだ?(*47)」
朱鷺田「もう少し待て」
難解「そればっかりで10年経ったぞ!?」
朱鷺田「あれを出さないで、死なねーよ」
難解「ち・・・待ってるぞ」
朱鷺田「ありがとうよ。
 たぶん、その前に、別の新作が出ちまうかもしれないがな」
難解「てめえ!」
朱鷺田「楽しみにしてな」

 カラン。扉の鐘が乾いた金属音を立てる。

追いついた男

 カラン。扉の鐘が乾いた金属音を立てる。
 色々が入ってきて、難解の隣のカウンターに滑り込む。

難解「来たんか?」
色々「あ、ブルボス、美味そうですね」
難解「やらんぞ」
色々「マスター、タスカー」
マスター「品切れです。ハートランドでいいですか?」

 軽く乾杯して、しばらくした後に難解さんが口を開く。

難解「フュリオサ(*48)がな」
色々「マッドマックス(*49)の新作でしたか」
難解「外伝だな」
色々「で?」
難解「俺がマッドマックスに求めとるのは、理性じゃねー。
 パワーと暴力、馬鹿でかい車だ」
色々「V8! V8!」

解説っぽい何か

ここから先は

2,650字 / 2画像
11人のライターが月に1本以上、書いています。是非、チェックしてください。

アナログゲームマガジン

¥500 / 月 初月無料

あなたの世界を広げる『アナログゲームマガジン』は月額500円(初月無料)のサブスクリプション型ウェブマガジンです。 ボードゲーム、マーダー…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?