無理に上を見なくてもいい。足元にある幸せを伝えたい。
福岡在住のめぐっちこと菅めぐみさんは、スバキリ一味にフォロー担当として参加する。主な仕事は、クラウドファンディング公開が決まってからの、宣伝活動のサポートだ。
クラウドファンディングは、公開前後に支援のお願いをする活動がプロジェクトオーナーにとっては大きな山場であり、不安や迷いを感じる方も多い。そんなときめぐっちさんは、オーナーさんの気持ちを想像して、提案の文言を考える。発信できないのはどうしてなのかな?どんな気持ちなのかな?―何かに挑戦したいと思って始めたクラウドファンディングを納得して終えられるよう、お一人おひとりの状況を考えながら、アドバイスと声援を送りたいと日々奮闘している。。
めぐっちさんがSNSで発信する言葉は、とても誌的だ。懐の深い優しさと、きっぱりと自分の考えを持つ潔さが同居している言葉だな、といつも感心する。
表現のスイッチを切り替えて
めぐっちさんは、以前SNSでこんな投稿をした。
小学3年生のときに両親が離婚。近所に暮らす祖母の助けを受けながら7つ下の妹と2人暮らしを続けていたというめぐっちさん。妹が高校を卒業して独立するまで、足りない学費などはめぐっちさんの収入から補いながら、一緒に暮らしていたのだという。そのときの辛い思い出を、こんなにもユーモラスに締めくくる。
「私試されているな」
結婚後、命がけの出産のときの話を聞かせてくれたときの視点も独特だった。
子どもを授かったものの重い病気が発覚し、治療しながら出産を迎えることとなっためぐっちさん。出産時は母子ともに高熱で、母体がけいれんを起こしてしまうため、縛って赤ちゃんの摘出手術を行うという大変な状況だった。「母子ともに危険です。どちらを優先しますか?」―ドラマでしか聞いたことのないそんなセリフが夫に告げられたほどだったという。
「先生はすごく丁寧に、慌てずに赤ちゃんを取り出したのですが、最初の言葉が…“髪の毛多っ!!”だったんです。そんな大変な状態なのに、何だか和んで」
壮絶な出産時の出来事と並列にこのエピソードを語ったり、幼少期の大変さを語った続きにくすっと笑わせる写真のエピソードで締めくくったり。めぐっちさんの話は「大変だった。しんどかった」だけで終わらない。
「私、試されているな、と思うことが目の前でたくさん起こるんです」と続いた話もまた驚きだった。
石垣に頭が挟まって抜けなくなった酔っ払い、土手をはいはいしている赤ちゃん、草むらから足を突き出し、真っ青な顔をして倒れている低血糖の男性…めぐっちさんはこれまでに幾度も「人を助ける機会」に遭遇したという経験を持つ。
そんなときには、大好きなアニメに出てくる場面に自分を重ねたり、ちょっと違うなと思ったりしながら、(好きなアニメは、『魔法騎士レイアース』『エヴァンゲリオン』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』)信じがたい目の前のシーンに向かい合う。同じ助けるという行為をするにしても「厄介なことに巻き込まれたな」と思いながら助けるよりもずっといい。
「この環境で不幸にならなかったのは、自分の強さだったんだなと思う」―幼い頃からのことを振り返り、めぐっちさんはそう口にした。世の中のさまざまなことは、どこまでも自分のとらえ方次第だ。同じことが起こっても、どこを切り取ってどう解釈するかの積み重ねで、人生は180度違ってくるのだろう。
“自分ファースト”より大切にしたいもの
命がけの出産を乗り越えたことで、めぐっちさんの価値観は大きく変わった。
「自由に生きていたいという気持ちはあるけれど、出産のときの体験や、自分が小さかった頃のことを思い出して、自分のことを後回しにするのが苦じゃなくなりました。『自分ファーストでないと!』『自己犠牲なんてダメだ!』とする風潮が強いけれど、私はちょっと自分のことは後にしても、子どもと一緒に、楽しく生きていたい」という。
「後回し」は「我慢をする」とは違う。めぐっちさんは家族と「ともに」、のびやかに暮らす日々を選んだ。
福岡の13歳の少年が主催した「こどもばんぱく」を手伝ったのをきっかけに、
生まれ育った広島から福岡へ家族での移住を決めた。子どもが3歳になってこれからのことを考えたとき、子どもがやろうとすることをこんなにも大人が応援するような環境で子育てをしたい、と感じたのだという。
夫に相談し、一度家族で福岡を訪れてから、1カ月半後には引っ越すというスピード感ある決断に、周りの人たちは驚くばかりだった。
糸を紡ぐように
めぐっちさんは、役場の戸籍係などを経て、現在は手芸を楽しみたい人たちのためのコワーキングスペース「Kibiru」で働く。移住時に「こんな素敵なところで働けたらいいな」と感じていた場所だった。
当初は福岡の中心地に住む予定だったが、たまたま見学に行ったKibiruに入った瞬間、懐かしさや居心地のよさを感じ、「このあたりに住むのもいいな」と、住む場所まで変えてしまったのだそう。
ここでめぐっちさんは、「糸紡ぎ」に出会う。たくさんの趣味があったが、糸紡ぎに「巡りあえた」と感じるほど、心から好きなのだという。
こんなにも糸紡ぎを面白いと感じるのは、人生模様と重なるからなのだそうだ。
「引っ張りすぎると切れてしまう。多く絡みすぎるともたついてしまう。人を巻き込むのは急すぎてもだめで、同じペースで続けないとうまく巻き込むのは難しいのだなって。そして、つながったばかりのときはまだふわふわですぐ切れてしまう。これも人間と同じですよね。出会っただけでは“ご縁”じゃなくて、そこからお互いによく知り合えた上でやっと“巡り合えた”と言いたい」
下を向いたままでもいい
めぐっちさんは「廻屋(めぐりや)」という名前で、マルシェなどでワークショップも開催している。
「自分のなかでうまくいったな、と思ったときに、カチっと音がして“何か廻ったな”という感覚があるんです。糸紡ぎもくるくる回るし」―「廻屋」の意味を訪ねたら、そんな言葉が返ってきた。
ワークショップや、Kibiruや、そしてスバキリ一味での仕事でも…つながりができ、その関係が深くなって、何かが廻る―私は、めぐっちさんのこの「廻る」という表現が好きだ。
こういうとき、多くの人は「広がる」と表現する。もっとたくさん、もっと上へ…。広がることで違う世界が見えてくる。
しかし人生を豊かに生きる方法は、それだけではない。つながりが深まり、関係性が変わることで感じる豊かさも確実にある。めぐっちさんが「廻る」と表現するのはきっとそちら側だ。
本当にしんどいとき、「頑張れ!」「ポジティブにいこう!」そんな言葉がしんどく感じることがある。めぐっちさんが送るメッセージは、そう感じる人に優しく訴える。「無理に上を向かなくてもいい。下向きでもちょっといいことがあれば、それでいい。例えばかわいい靴や靴下を履くとか、そういうことでいい」
めぐっちさんは昨年から養育里親として、一時的に子どもの面倒を見られない状況になってしまった人のために、数日間子どもを預かるという活動もしている。この活動は上を向くのがしんどくなった人に対して、間接的なエールとなる。声の大きすぎない、しかしながら確実に届くエールだ。
スバキリ一味での、フォローのスタンスにも、近いものを感じる。もちろんたくさんの支援がいただけるに越したことはないけれど、クラウドファンディングをすることで、数字には表れなくても「廻ってくる」何かがあるはずだ。身近な足元にも喜びを見つけ出せるめぐっちさんになら、その「何か」のヒントを伝えられるだろう。
取材・執筆―石原智子