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自分に与えられた使命を全うするために

整った顔立ちに柔和な表情。メイク、ヘアセットも美しく、上品な空気を身にまとう―「くりまゆ」さんこと栗林麻由子さんは、絵にかいたような「きれいなお姉さん」だな、といつも思う。
 
しかし、くりまゆさんの本当の魅力は口を開いてから。親しみを感じる関西弁でテンポよく話す内容は核心をついていて、それでいて聞く人をいやな気持ちにさせない。ライター・ネイルチップデザイナー・ブロウアーティスト・個性學アドバイザー…さまざまな肩書で活動する日々は、とても忙しいであろうに力みがない。予定が詰まっていた一日のことを「今日もたくさんの方とお話できて幸せでした」と振り返る。
 
この活力、前向きな姿勢はどこからくるのだろう?
 

環境問題に熱心に取り組んだ大学・社会人時代

 
大阪外国語大学在学中には、環境問題に関心を持ち、「エコロジーとエコノミーの両立」をテーマに企業協賛も得てのイベントを開催。今から20年以上も前に、しかも大学生という立場で…なんと志の高い若者だったのかと驚いてしまう。
 
「ちょうど京都議定書が採択された頃で、いろいろな国からの国費留学生が最初に日本語研修にやってくるのがうちの大学でした。その子たちは授業中や休み時間に“あなたはこの大学で何がしたいの!?”って英語で話しかけてくるんですよ。6年間ぬくぬくと女子校で過ごして大学に入ってすぐ…問題意識のスケールの大きさに愕然としましたね。自分の世界が一気に広がったタイミングでした」
 
就職先に選んだのは大手流通会社。主催イベントで知り合った、その会社の環境対策室長に憧れ、彼女の元で企業として環境問題に取り組んでいきたいと考えたのだ。しかし、会社が別のグループ傘下に入ったことで配属を希望していた環境対策室が消滅。その会社に在籍する目的を失ったくりまゆさんは退職を決意し、産官連携で環境対策を進めるNPO法人の立ち上げに「今までと違う立場で環境問題に取り組める」という価値を見い出して参画した。
 

好きなことをゆるゆると…新米ママ時代

 
環境問題に対して熱い思いで取り組んできたくりまゆさんがネイリストに―この大きな路線変更のきっかけのひとつは、悲しい出来事だった。
 
結婚しても仕事と家庭を両立し、「バリバリ働く気だった」が、その考えは妊娠をきっかけに変わることになる。初めて授かった小さな命が「無頭蓋症」との診断を受け、妊娠11週での別れを経験したのだ。
 
お母さんのせいではないと先生に言われても、仕事をすると熱中しすぎてしまう自分のことをどこか責める気持ちを拭いきれなかった。このとき感じた気持ちが、その後の働き方につながっているのかもしれない、とくりまゆさんは振り返る。
 
その後、2人の子どもを授かり、出産。

育児をするなかで、子どもに手を掛けられる時間を大切にしたい、自分の世界も作っていきたい、という双方の思いを持ちつつ、それぞれにのめり込みすぎることなく、バランスよくやっていけそうだと浮かんだのが「ネイリスト」という職業だった。
 
環境問題に取り組むNPO勤務から思うとかなりの方向転換のように感じるが、くりまゆさんのなかでは、両方「好きで興味があること」という点で共通していた。
「中高時代、美術部で、絵を描くのは大好きでした。トールペイントも習っていたのですが、大きな棚などの作品がどんどんできていくのは好きではなかったんです。その点ネイルだったら、小さいし、使えるし、処分もできる」と笑う。
 
長女が3歳になり、幼稚園に通い出したタイミングで、1日1コマ、週に数日だけ長男を預け、資格取得のためにスクールに通い始めた。
 
2年ほどゆっくり時間をかけてネイリストの資格を取得、自宅の一室でプライベートサロンをスタート。しかし最優先は「今しか関わることができない」子どもとの時間だった。基本的に仕事を入れるのは子どもが帰宅するまでの時間。PTA活動やボランティア活動にも積極的に参加した。

ライフステージが変わることで、自分自身のありかたに変化を迫られることが多い女性にとって、自分の置かれた環境のなかで、どう「好き」に向き合っていくかはとても大切だ。「諦める」のではなく、「違うかたちを見つける」―くりまゆさんの話から、その転換こそが、人生を通して豊かに生きていくための核になりうるのだと感じる。
 

簡単にできることを真剣に磨く


子どもたちも成長し、自分のために使える時間が増えてくると、くりまゆさんは仕事のアクセルを踏んだ。2017年、ジュネル(ネイルチップ)の販売資格を取得。

くりまゆさんが書道家蘭鳳さんのために制作したジュネル

インストラクターとして教えたり、仲間たちと積極的にイベントで販売したりするようにもなり、仕事量は増えていった。

美容商材見本市のスタッフデビュー

そんななか、共通の知人を通じて、スバキリ一味団長の小西さんと出会う。クラウドファンディングのプロデュース事業を拡大するためにライターを募集しているというのを知り、自分の「得意」を活かせるかもしれない、と感じた。
 
文章を書くことは昔から嫌いではなく、イベントの際は文章を書き、告知をする役割を自然と担うようになっていた。大学時代には論文懸賞に入選し、奨学金をもらうことにあった。
 
自分自身の特性や能力を活かすために、「簡単にできることは真剣に磨いたほうがいい」と言われていたこともあり、人の役に立ちながら自分自分の「書く能力」も磨いていけたらと、2021年、スバキリ一味にライターとして加わった。
 

自分が担う役割にアンテナを


 ライターとして関わり始めたスバキリ一味の仕事であったが、その後加えてキャンプファイヤーへの申請も担当、さらに、プロジェクト全体の設計や進捗管理を行う「ディレクター」としての役割も担うことになった。
 
くりまゆさんは、2年前から、一人ひとりが生まれ持つ特性や能力を大切にするための実践学である「個性學」を学んでいる。その観点から見ると、何かを「動かす」「マネジメントする」という役割は、彼女が生まれながらに個性として持っているものなのだという。

ネイルチップ販売資格(ジュネリスト)インストラクターチーム
メンバーがより適した役割を果たす助けになればと共に個性學を学びはじめた

「思えば組織内を整えていくとか、改善していくとかいう役割をよく担ってきました。マネジメントにもいろいろなやり方があると思いますけど、私は相手の気持ちを察知して大切にし、潤滑油のような役割を果たすタイプかなと思っています」
 
自分に与えられた役割を果たしたい、というのは彼女の信念だ。だから、「ふとやってきた打診や機会や意見や試練は受け入れる、もしくはひとまず受け止める」ことを大切にしているのだという。全ては必然だから、その入口で拒んだりせず、まずは受け止めてみる―この決意が、彼女がとても前向きで軽やかに見える理由なのだろう。
 
そして、くりまゆさんがこれから推し進めようとしていることは、まさに彼女のもつ「個性」を遺憾なく発揮できる場だと言えるものなのだ。
 

 女性が輝き続けられる社会環境を

 
くりまゆさんが協働運営し、ネイルや眉の施術を行っているサロンは、今後移転し、規模を拡大してウェルネスサロンとして生まれ変わる予定だ。オーナーの意向に賛同し、仕組みをつくろうとしているのは、このサロンを「女性がいろいろな働き方をできる場」にすること

サロンオーナーと(2017年)

このサロンではよりたくさんの人にシフトに入ってもらい、週1回しか出勤できない人も、毎日7時間出勤する人も、同じ温度感で仕事をできる環境をつくろうとしている。お客様はもちろん、協働する人同士も仕事を通じてお互いを大切に尊重し合う場所を目指しているのだという。

「私は一度専業主婦を経験して、運よく仕事に戻ってこられましたが、これからの時代は、女性も働き続けることが望まれる時代です。出産育児を挟んで女性が働き続けるのってめっちゃ大変じゃないですか。それを支えられる社会環境のひとつに、このサロンがなればいいなと思って関わっています」

 
大学時代に、地球規模の環境や経済などの社会問題を考えることに夢中になったくりまゆさんは、時を経て、女性が働き続ける困難さという社会問題に向き合っている。問題解決のために、サロンでの働き方の仕組みを整えようとしているのは、まさに今まで生きてきた道と個性の掛け合わせで向かうプロジェクトだ。
 
ネイリストへと大きく舵を切ったと思ったら、そこから道がつながり、「社会問題解決」へと活動の場が戻ってくるのだから、人生は面白い。彼女の職業人生が一直線ではなかったらからこそ、そこで得たさまざまな類の経験をこれから出会うたくさんの女性たちのために活かすことができる。
 
人生のなかで、今は新たなターンの「種まき期」だというくりまゆさん。これまでの経験からふかふかに耕されたその畑で育つものは、豊かな実を結び、収穫期を迎えることだろう。

取材・執筆ー石原智子
 

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