無有描写

無有描写

「博士、戻ってきてください、船は無人で飛ばしても良いではありませんか。」

「いやそうはいかん、自分が造った推進力エンジンだ、自分で乗ってみたいのだ、それに私は医者から余命一ヶ月の宣告を受けたばかりだ、
これがある意味宇宙葬とでも考えてくれたまえ。」

博士はモノポールの捕獲に成功したのでした。磁気単極子であるモノポールはもう片方の極を求めて極めて不安定な状態となり暴れまわるのです。
超合金のケースに閉じ込めていますが、ケースからは物凄い超音波を発するほど暴れまわっているのです。
博士はこの状態を推進力エネルギーに変換して超合金で出来た一人乗りの宇宙艇に搭載したのでした。
この推進力エネルギーは時間とともに増幅して前代未聞の加速を得られると博士は考えていました。

「どこまで加速するのか私は非常に興味がある、体験させてくれ。
まあ無駄だとは思うが通信も心がけよう、さあそろそろ出発しないと、 
いや開放してやらないと、船内の暴れ者が大爆発して宇宙ステーションのみならず地球にまで被害が出る、
最後にこれは極秘実験なのでくれぐれも口外せぬように頼む、では。」

宇宙艇は出発しました、信じられないスピードで視界から消えたのでした。

「まだ通信は行けそうだな、今火星を過ぎたところだ、木星も近づいてきた土星もだ、見たものが直ぐにやってくる、後ろが見えないが赤方偏移とやらも起きるのかな、そろそろ太陽系を出る頃だろう、何!!」

「博士、何があったのです、応答願います、、」

「通信が途絶えました、座標も特定できません。船は消滅した模様です。」

「遺言通りこの件は伏せておこう、身寄りのない天才科学者の孤独な死ということで我々だけで、、、、」

「つ、通信復活!」

「何だと!位置は特定できるか?」

「はい、そそそれが、、ここです」

「どういうことだ?」

「驚かせてしまったかな?」

後ろから声が聞こえました。そこには博士の姿がありました。

「博士、何の冗談です?」

「どうやら船は光速度を超えたらしい、アルバートの説を逆説的に捉えると、『物質は光速度を超えられない』を『光速度を超えると物質ではなくなる』と解釈する訳だ。
つまり私は物質ではなくなったと言う訳だ。」

「しかし現にここにおられるではないですか」

「実を言うと今のこの私は三次元ホログラムなのだよ。
太陽系の端のベルト地帯に近づいた辺りで何処かに閉じ込められた感じがした、
そしてそこが二次元空間だと認識した。
この二次元空間には全宇宙の全情報、データが閉じ込められていて、
いや、下手をすれば二次元とは情報やデータそのものの事なのかも知れない。
まあ兎に角私はここのデータから三次元ホログラムの投影法を頂いてここに人間の形でここにいると言う訳だ。
三次元ホログラムは肉体もあるし当然触れることもできる。
つまり私は諸君らと同じ人間で脳はアカシックレコードと言うことになる。
驚くなかれ私は全宇宙の情報が同時に分かるのだ、
例えば君の奥方のランチ後のコーヒーに入れる砂糖の粒の個数から別惑星の一体のアメーバに付着している微生物の卵の大きさとか、 
兎に角全てだ。
何故二次元にそこまでの情報、データがあるのか?
それは重さがないからなのだよ。
そもそも情報、データには重さが無い、質量は高さあってのことだからね。
なので高さが無い二次元空間では無尽蔵に収納できる訳だ。」

「博士、まだ良く理解出来ません、頭が混乱しております。」

「そうだろうねえ、今我々がいる宇宙全ては何者かがプレイしている宇宙シミュレーションゲームなのだよ、
我々はゲーム内にいる意識とか感情とかそして生殖機能を持ったの三次元ホログラムなのだよ、正確に言えばアダムとイブと言う最初のホログラムの子孫でもあるのだが、この過程をすっ飛ばしていきなり現代にすることも可能だ。
何者かが造ったビッグバンから始まったシミュレーションでの宇宙、
そんな宇宙の地球という惑星で私と言う人間が産まれて、
学者になり光速度を超えて二次元空間におけるビッグバン宇宙の全情報、つまりアカシックレコードを手に入れたと言う事だ。」

「この世界は投影に過ぎないという事ですか?」

「そうだろうね『コペンハーゲン解釈』なるものもこれで説明が出来る、
つまりは情報空間の節約だ、わざわざ観測されてない時まで物質である必要はないのだからね、
私がこの部屋から出ていけば諸君にとっての私は波となって空間を漂っているわけだ、全く上手く出来ているものだ、」

「ところで博士はこれからどうなさるおつもりですか?」

「私と一体化しているアカーシックレコードを既にパーソナル化されている量子コンピュータにそのまま搭載させる、
そして宇宙シミュレーションゲームとなって誰かに遊んでもらう、
それは途中で方向も変えられる、気に入らないと滅ぼしたりしてね、
もしかしたらビッグバンから始める言わばここと変わらない宇宙かもしれないし、
種子から成長して枝や葉っぱが増殖してそこに生命体が住んでいる宇宙かも知れない、
そのゲーム内でも何者かが私のようにアカーシックレコードを手に入れてコンピュータゲームを展開する、
そして何者かがプレイヤーとなって宇宙をシミュレーションしていく。
これが多次元宇宙の正体なのだよ。
量子のもつれを考えてみてくれ、
当然この宇宙は造られた宇宙シミュレーションなので根本的に距離やら時間やらは全く存在しない、
なので遠距離での相互作用は当然だ、データに距離など無いのだからね。
つまりは『究極の素粒子はデータ』と言えるのかも知れない。
私はこれからこの宇宙創生ゲームを創った大本なる存在を求める旅に出ようと考えている,そこは原初への旅でもある。
ここにいる今の私のホログラムはここに置いておくがね。連絡は私を通じて知らせよう。
まあ端末とでも解釈してほしい、もう既に旅にの途中だよ。
おっと、到着した。おーなるほど、、」

「何なのです博士、独り言ですか?」

「ところでこの宇宙ステーションの研究員で新婚ホヤホヤ又は近日結婚予定の人はおるかね?」

「はい、今週末地球で式を挙げる者が一人おりますが、彼は単身赴任でかれこれ一年程でして、式後は又ステーションに戻って来ますが、」

「そーか、新婦は地球に残されるのか、」

「はい」

「それではまるでモノポール状態だな、対極物質を引き寄せねばな、
ならば新婦もこのステーションで住んでもらおう、産婦人科の医師も呼び寄せよう。」

「しかし当ステーションはまだ家族が生活出来る様には出来てませんが、」

「いいんだ、私の部屋を彼らに提供してくれ、」

「それでは博士が、」

私は何処にでも何体でも居ることが出来る自作ホログラムなのだ、受精から始まったものでは無い、
なので部屋は必要無い。
しかし今度は彼らの子供が私なのだからね、
原初の旅に出て戻って来るのだよ、
ノイズ無しにしつかりと育ててくれたらその原初の世界の話しがその子から聞ける様になる。
特に言葉を教えてるのは慎重に頼む」




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?