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「シノサカくんとマチコさん」

■「シノサカくんとマチコさん」登場人物

●シノサカ一号~五号
●マチコ一号~四号。(45分)

シノサカ 年齢は二十六歳。八月十日生まれ。
マチコとの同居生活は五年目。
至って健康だが、子供の頃に大病を何回かやっているかもしれない。
生活は比較的規則的で、三食食べる。
友人に相談されることも多い。
案外しっかり、きっちりしている所があり、部屋もそれなりに。
しかし、ちょっと時間にはルーズ。

♂一号   バカップル♡マイハニィ聖子
     天文ファン☆『聖子と一緒に星を見るんだー!』
     マチコの肩もみをする。
     愛読書・天文ガイド、天文年鑑。天体写真も。
     「二号(二号)、三号(三号)、四号(四号)、五号(五号・るすばん)」
     「♀一号(マチコ・お前)、二号(彼女・食べる人)、三号(彼女)、四号(四号さん)」

♂二号   営業二課。ヒラ。
     足がクサイのがコンプレックス。
     きちょうめん。室井管理官タイプ。
     愛読書・星の王子様。
     「一号(ヤツ・あいつ・あんた)、三号(バイト)、四号(四号)、五号(るすばん)」
     「♀一号(そっちの一号さん)、二号(あんた)、三号(彼女・若作り)四号(そっちの留守役)」

♂三号   銀行清掃員バイト。
     趣味は鍵開け。
     普段は無口だが、鍵のこととなると饒舌。
     清掃員としては、着実に働いている。
     「一号(あの人・あなた)、二号(あの人・あなた)、四号(英検・あなた)、五号(るすさん)」
     「♀一号(彼女)、二号(食べる人)、三号(あのひと)、四号(そっちのるすさん)」

♂四号   英検三級チャレンジャー。
     『英語であそぼう』その他子供向け英語番組視聴者。
     幼稚なところがあるが、熱心。必死。
     今まで書きためた単語ノートが宝物。
     「一号(一号さん)、 二号(仕事人さん・二号さん)、三号(鍵屋さん)、五号(るす役さん)」
     「♀一号(そっちの人)、二号(記者さん)、三号(マックの人)、四号(四号さん)」

♂五号   凡庸な留守番係り。
     内職として封筒貼り。手が暇なときやる。
     ♀四号と好き合っている。
     「一号(一番さん)、二号(二号さん)、三号(三号さん)、四号(英検の人・四号さん)」
     「♀一号(一番のマチコさん)、二号(記者の方)、三号(あの彼女)、四号(君・彼女)」

マチコ  年齢は二十七歳。五月十一日生まれ。
ブンレツしていたシノサカをデパートの屋上の遊園地で発見。
声をかけて友人になり、同居をもちかけた。五年間の同居。
不健康な生活。夜中まで起きている。
食事も、時間帯がばらばら。
整理整頓は苦手だが、約束に遅れるようなことはほとんどない。
交友関係が広い。

♀一号   バカップル♡ダァリン小池
     サイクリングが趣味。山道でもゆく。
     シノサカいびりが趣味。
     ちょっと下ネタ好きだが、からっとしている。
     愛読書・関東の旅のパンフレット。
     「二号(二号)、三号(三号)、四号(るすばん・明治ちゃん)」
     「♂一号(シノサカ・あんた)二号(企業戦士君)三号(鍵)四号(英語君)五号(留守役君)」

♀二号   雑誌「くいだおれ」記者。
     栄養剤で生きている。
     ドリンクやサプリメント、青汁を集めるのが趣味。
     胃薬は持ち歩いている。
     好きな食べ物・ラーメン。
     「一号(あのこ・あんた)、三号(あのおネェ・あんた)、四号(るすばん)」
     「♂一号(一号)二号(営業)三号(鍵)四号(三級)五号(あっちのるすばん)」

♀三号   マックのバイトおねぇさん。
     バイトの男の子に二十二歳と偽る。
     見破られると、本当は二十四だという。
     お客の中からいい男を見つけるのが趣味。
     化粧は念入り。
     「一号(彼女・一号)、二号(おじさん・二号さん)、四号(四号さん)」
     「♂一号(あの人)二号(企業戦士君)三号(三号さん)四号(英語君)五号(るすばんさん)」

♀四号   凡庸な留守番係り。
     鍋料理が得意。
     手作り鳥団子は絶品。
     たまごやきも上手い。
     ♂五号と好き合っている。
     「一号(一号さん)、二号(あの人・二号さん)、三号(彼女・おねえさん)」
     「♂一号(一番さん)二号(働いてる方)三号(銀行の方)四号(英語のひと)五号(五号さん)」

大宮聖子 シノサカの恋人。二十一歳、父親の体が悪く、看病。すこしバイトも。父と散歩中シノサカと知り合う。夜の星空について話し、意気投合してつきあい始めた。つきあって八ヶ月。シノサカの無邪気なところが好き。「シノサカくん・シノサカ・あなた」

小池政志 マチコの恋人。マチコのからっとした気性に好感を抱いた。自転車会社に勤める平社員。バードウ オッチングが趣味。忘れたい女の過去有り。マチコとはつきあって一年半。一人暮らし。「マチコ・あんた・お前・マチコちゃん」

■シノサカくんとマチコさん(脚本本文:途中まで無料で読めます)

   暗い舞台。明るい客席。
   音響による話し声。わらわらわらわらと言う音声に紛れて会話が聞こえる。
   「ひとりだけってずるくねー」
   「みんなで行くとかそういうのやなんだけど」
   「ならお前あっちいけよ」
   「やっぱ本能としてさあ」「しっぽ踏んでるしっぽ!」
   「うっせーな」「っていうかさ」
   「あ、やばい。酸にやられたくさい」
   「しっぽ動かないし」「あとはまかせたぁ!」
   「あんた元気だね」「ミトコンドリア!」
   客席暗くなり。
   「だからさ。やっぱひとりだけってずるいと思うんだよ。」
   「どうするつもりだ」
   「酵素を工夫して」
   「俺賛成」「せーの、だな」
   「どうするよ」
   「もう俺達だけか」「時間ねぇぞ」
   「行くぞ!せーの!わぁああぁああぁあっ!」
   静寂。人の気配。
   と、二カ所に明かりがつく。そしてその一つに飛び出す人影。

♂一号  俺は、スゴい!

     何故なら俺は、ブンレツできーる!

   ぼうっと明かりがつく。青い系統の服を着た人々。
   と、♀一号飛び出し。

♀一号  そしてあたしも!

     ブンレツできーる!

   と、赤い系統の服の人々も。
   全員、ポーズを決め。
   そして、すぐに見えなくなる。

♂一号  そうさマルチパーソナリティーな僕ら。社会のゆがみ宇宙のゆがみ。神様だって分からない。
♀一号  第一階層第二階層、一号二号三号四号!さまよう迷宮心の迷宮、髪の毛一本ブンレツできーる!
♂一号  嫌なことなど忘れたいから、そうさ僕らはブンレツできーる!貴女を見つめてただ一途、仕事もバイトも勉強も、家の用事もお断り!
♀一号  命短し恋せよ乙女、女の気持ちの吹き溜まり。ココロとココロがぶつかり合って、所狭しところころ並ぶ。
♂一号  一人が二人、二人が三人。どんどん増えるブンレツショウ。

♂♀   我ら、特殊能力を兼ね備えた人類。
♂一号  シノサカ。(ゼッケン見せ)
♀一号  マチコ。(ゼッケン見せ)

♂♀   ・・・そう。そんな私たちでも、真っ当な人間ではない痛み押し隠しながら 恋 をする。愛するひととの当たり前のしあわせ。今は五月。中野区本町安アパートに変わらず巡り来る中央線の響き、そして、朝。

   中央線の響き。
   五月の中旬を過ぎた金曜日の朝。
   安いアパートの一室。中野区くらい。
   ♂二号は玄関に。これから仕事。今日も靴には消臭剤。
   ♂三号は忘れ物を取りに部屋に。新人に仕事を教えに行くところ。
   ♂一号は洗面台で歯磨き。これからデート。
   ♀一号は部屋で旅雑誌をひらいている。彼女は今日はヒマ。

   照明フェードインしつつ。

♂二号  いってきます。
♀一号  いってらっしゃーい。なに忘れ物?
♂三号  ああちょっと。トイレ?ったく。ああ?すぐ出ます。

   舞台明るくなり。

♀一号  あんたも今日出るの?
♂一号  あー。(一度洗面所に戻り、うがい)三号もう出た?
♀一号  出たよ。「山梨県ブドウ狩り」。何?巨峰かね。・・・書いてないし。
♂一号  山梨か。
♀一号  うん。
♂一号  星綺麗だよ。けど春はな。冬の方がさ、いいんだけど。今何時?
♀一号  うんー。
♂一号  ねえちょっと。
♀一号  どしたよ。
♂一号  いい。(ポケットから携帯を出し)あともうちょいか。府中までどれくらい?
♀一号  チャリなら四時間くらい。
♂一号  もう聞きませんよ。
♀一号  ねえねえ、今度さ、あの人と山梨行こうと思うんだけど。
♂一号  泊まってきたら。
♀一号  車だとどんなもん?ちょっと長距離だから。
♂一号  あー、どうだったかな。二時間かかんないと思うけど。小池さん?
♀一号  他に誰がいるっての。ダァリンはひとりですー。
♂一号  へーそうですか。なんで車?
♀一号  あの人さ、前肉離れ起こしたんだよね。しかも普通のサイクリングロードで。
♂一号  やりこんでるお前とは違うんだよ。
♀一号  でもあたしも筋肉はおかしいって。ね、シノサカシノサカ。
♂一号  何でございましょう。
♀一号  (肩もみの体制)はい。
♂一号  ったくよ。(当分もみ)
♀一号  あーそこそこ。いたたたたた。あんた時間は?
♂一号  やべ。行って来る。(玄関へ行き、五号を出し)よいしょっと。ふー。お前さ。
♀一号  なに。
♂一号  ちゃうちゃう。
♀一号  あ。留守役くんねー。
♂一号  じゃあさ、五号頼むわ。宅配便な。十時半から十一時半。うん。よろしく。行って来る。と。ちょっとどいて。マチコ。どっかおかしくないか?おい。
♀一号  ネクタイおかしい。
♂一号  それはいい。聖子に結び直してもらう。うわあ着信一件。マイハニィ。いつのまに。
♀一号  ネクタイぐらい結べるようになれば?楽しんでこいよ。
♂一号  おー。

   ドアの音。♂一号はデートに行った。
   玄関先から、♂五号。

♂五号  マチコさん。あっと。すいません。
♀一号  何。何あやまってんの。
♂五号  (交換ノートを手元まで持ってきて)あ、なんでもないです。
♀一号  ねえねえ留守役くん。好きな人と行くんだけど。
♂五号  山梨ですか。
♀一号  巨峰もおいしそうなんだけどさ。この文学・歴史の旅も棄てがたいわけよ。
♂五号  もうちょっと遠くは。千葉の海とか。
♀一号  チャリで?それキツい旅だよ。
♂五号  自転車、ですか?すいません。一番のマチコさんはそうでしたよね。そう。そうでした。すいません。
♀一号  そんなあやまんなくても。ひとの趣味なんかねえ。では問題です。恋人の名前は?
♂五号  待って下さい。池がつく人。
♀一号  留守役くんあんまり出されないもんね。わかんないか。
♂五号  小池さん。
♀一号  すごいじゃん。よくできました。ね、肩もんでくんない?
♂五号  (肩もみ)
♀一号  (携帯をいじって。見ているのは小池のメール)ねえさー。
♂五号  はあ。
♀一号  昔の女って、忘れられないもの?
♂五号  あんま、そういうのないんですけど。
♀一号  聞きたいの。ほらなんかないの?
♂五号  体験談はありません。
♀一号  男なりの推測で。
♂五号  推測?待って。何が聞きたいんですか。
♀一号  なんかさぁ・・・・。・・・・ううん。なんでもない。いい。
♂五号  気になる。
♀一号  なんでもない。
♂五号  教えてくれないと肩もみません。はい終了。
♀一号  やだ。いい。なんでもない。
♂五号  (封筒を取り出し、はり始める)
♀一号  まあいいや。いわないよ。あたし。テレビつけていい?
♂五号  あんまいいのないですよ。

   テレビの音。

♀一号  (新聞で)「おかずのクッキング」、健康百科・・・「今日の料理」あ、みそいりたまご。
♂五号  もしかしてお腹減ってます?
♀一号  (テレビ切り)ううん別に。
♂五号  鍋、ありますよ。四号さんの。
♀一号  なになべ?
♂五号  とりだんごです。
♀一号  とりだんご二つ。野菜いっぱい。汁すくなくてよし。
♂五号  あれでいいですか?あのちょっと深いヤツ。
♀一号  うんよろしく。

   冷蔵庫を開ける音。食器の音。電子レンジの音。

♀一号  ラップかけた?
♂五号  めんどくさくて。
♀一号  明治ちゃんに怒られちゃうよ。あのこキレイ好きじゃんよ。
♂五号  家事全般四号さんですからね。
♀一号  あたしできないからね。まかしちゃってんの。こういうとき便利だよね。あつつ。
♂五号  (封筒をかばい)気つけてくださいよ?いちおう仕事なんですから。
♀一号  ごめん。ちょっとうすくちかなあ。
♂五号  ちょうどいいですよ。そんなもんで。
♀一号  うんー。(食べ終わり)ま、こんなもんか。
♂五号  まだありますけど。
♀一号  ダイエット。
♂五号  それくらいでいいと思いますよ。
♀一号  やなの。ひまー。あーあ。

   間。その後、チャイムの音。

♂五号  (玄関へ)
♀一号  宅配?(ノートをいじりはじめる)
♂五号  はい。あ、はい。ありがとうございます。はーい。
♀一号  何だった?
♂五号  デパートから。何でしょうね。
♀一号  ねえさー、これ何? あんたのでしょ。何よ。
♂五号  まあまあ。まーまーまー。
♀一号  ふーん。ま、いいや。(携帯に気づく。小池からのメールがあった。)あ。へへ。
♂五号  にやけないでくださいよ。
♀一号  にやけてない。
♂五号  にやけてます。
♀一号  そうかあ?あ、ねえ、英語君ってどうなったの?
♂五号  四号さんはまだです。
♀一号  四級。
♂五号  ええまあ。ダメですよ。四号さんは、彼なりにがんばってるんだし。
♀一号  家事能力検定とかないのかな。そしたらこっちの四号うけさせんのに。
♂五号  でも、彼女もぬけてるとこありますからね。わかりませんよ。あ、でも本番は強いかな。
♀一号  (携帯に女友達から電話が)あ、ちょっとごめん。はいもしもし。何?どしたの。食事?なんかあった?元気ないよ。うん。ううん。分かる。はいはい。ううん、まだ食べてない。まだまだ平気よー。今家。そっちは?あ、うん分かった。たぶん一時間くらい。じゃあ今から行く。今日?全然。ヒマだから。うん。じゃ、今から出るわ。うん。はい。はいはいあそこね。待っててよ。うんごめん。じゃあねー。ばいばーい。
♂五号  片づけときます。
♀一号  ありがと。(洗面所へ化粧しに。)明治ちゃん出してったほうがいい?あ、やだ。ついちゃった。どうする?あんた一人でいい?(ジャケット羽織ってでてくる)
♂五号  お願いします。
♀一号  わかった。(ものをかき集め、バッグに入れて)じゃ、行って来るわ。
♂五号  はい。
♀一号  (玄関で)よーいしょっと。何時になるか分かんないけどさ、夕方になるとそっちの、北っかわの窓に猫くるから。餌やっといて。ほか?それだけそれだけ。うん。行って来る。できれば食器あらっといて。あとお風呂ね。よろしく。あっと、明治ちゃんちょっと。二号のさ、原稿なくしちゃったん だ。さがしといてくれる?絶対怒られる。ごめんね。ごめん。じゃね。

   マチコ一号は友人との食事に行った。
   マチコ四号と、シノサカ五号。

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