『女子高生がどぼどぼ』

私が賭けられるものはわたしだけ。
終わらないなつやすみを賭けて戦いたい
終わらせられないなつやすみの宿題から解放されたい。

あと80回くらいしかないであろう
夏の残り香を感じたい。


【女子高生がどぼどぼ:登場人物】

●ちひろ…高校3年生の女の子のようだ。夏休みの宿題を賭けて先生と戦う。
●教官…ちひろの先生のようだ。夏休みの宿題を賭けてちひろと戦う。
●犬…ちひろが飼っている犬のようだ。

 【的】
●17歳(高校生) ちひろが嫌いな「去年のちひろ」…1.ちひろに撃たれる

●5歳(幼稚園生) 少し人見知りな「5歳のちひろ」…7.ちひろに撃たれる
●9歳(小学生) 明るい、「小学3年生のちひろ」…3.ちひろに撃たれる
●14歳(中学生) 生きることに意味がないと思っている「中学生のちひろ」…5.先生に撃たれる
●20歳(大学生) 少しあかぬけた「大学2年生のちひろ」…2.先生に撃たれる
●28歳(新婦) 職場の同期と結婚する「ウエディングドレスのちひろ」…4.先生に撃たれる

●25歳(社会人) スーツを着込んだ 「キャリアウーマンのちひろ」…6.ちひろに撃たれる
●35歳(母) おくるみにくるまった赤ん坊を抱いた 「母のちひろ」…8.自分で水に入っていく

【女子高生がどぼどぼ:あらすじ】

女子高生のちひろと先生は、「夏休みの宿題」をかけて、
「過去と未来のちひろ」をマトにした射的で勝負する。

未完成の夏休みの宿題を提出したくないちひろ
夏休みの宿題を早く提出させようとする先生。

ちひろが勝利すれば、宿題が完成するまで、先生は待っていてくれる。
先生と約束したあの夏を終わらせないために、ちひろはひとり、
毎年やってくる夏の残り香の中に、あの夏を記憶し続けるために、時と戦う。

【女子高生がどぼどぼ:本文】


   誰もが一度は口にしたことがあるセリフを高らかに読み上げる男女がいる。

教官   「楽しかった!」
ちひろ  「大失恋!」
教官   「くやしかった」
ちひろ  「大失恋!」
教官   「おいしかった」
ちひろ  「アイスクリーム」
教官   「苦しかった」
ちひろ  「人間関係」
教官   「暑い夏の日に汗だくになった」
ちひろ  「組体操」
教官   「みんなで練習した」
ちひろ  「卒業式の呼びかけ!」
教官   男子!声が小さい!女子!私語をつつしめ!
ちひろ  「厳しさとやさしさの入り混じった声に、私たちは背筋をのばし、列を整えた」
教官   「練習は続いた。この学び舎にわかれをつげるまでもうあまり時間がない。」
ちひろ  「さよなら、さようなら!私の思い出!私の青春!練習は続いた。夜のとばりが落ちるまで」
教官   誰だ、この声は。誰かこのなかにひとり。この練習に遅れてきたやつがいる。練習に遅れてきてなお、でかい声を張り上げているやつがいる。そこか!
ちひろ  遅れてごめんなさい!先生!
犬    わん!
教官   鈴木さん。今日はどうしたんですか、
ちひろ  お布団が離してくれなくて。
犬    わん!(教官にじゃれつく)
教官   わっ。
ちひろ  こら。お前は(ボールを投げる身振りをして)とっておいで!
犬    わん!

   犬、身振りだけでつくられた、存在しないボールを探しに、舞台の外へと飛び出していく。

教官   何時間寝たんだ
ちひろ  13時間くらい
教官   きみはどうも成長期が終わらないようだね
ちひろ  そうだといいんですけど。
教官   なんだ、多少チビなことくらい気にするなよ。さあ、出したまえ。
ちひろ  何をですか
教官   何をいっている。宿題だよ。
ちひろ  宿題。
教官   忘れたとは言わせない。夏休みの宿題だ。
ちひろ  忘れました。
教官   きみはいつになったら夏を終えるつもりだ。私は待った。待ちすぎるくらい待ったね。
ちひろ  でももうちょっとだけ
教官   もうちょっともうちょっとって、そう大人をじらすもんじゃないよ
ちひろ  でも先生、終わっていないんですもの。
教官   よかろう、終わっていないのならば仕方がない。なら力ずくで奪うまで!
ちひろ  なんてことを、先生!未完成のままの宿題などをみられたら、私の評価が下がってしまう!
教官   案ずるな。君の評価などもう、地に落ちている!
ちひろ  でも、でもあきらめない!私は最後まで、この夏休みの宿題を、守り抜く!
教官   さ、出しなさい。
ちひろ  いやですってば。
教官   最初はグー。出さなきゃ負けよじゃんけんポイ!やーい、出さなかったからお前の負けー。ほら、ということで君の負けだ。鈴木さん。宿題を出しなさい。
ちひろ  いやです。
教官   強情だね君も。
ちひろ  完成したら出します。だめなんです。まだ、未完成だから。
教官   そうは言ったって君ね、夏休みはとうに終わっている。そして君はもう3年生だ。卒業式の練習も始まっている。内申にひびくぞ?ん?
ちひろ  内申にひびかせるのはやめて。
教官   やっぱり内申に響くのは怖いのか。ならはい、出しなさい。宿題。
ちひろ  それも嫌。
教官   困った子だねえ。
ちひろ  (宿題を胸に抱いて、先生をにらんでいる)
教官   しょうがないなあ。よし鈴木。先生と勝負をしよう。
ちひろ  勝負?
教官   先生が勝負に負けたら、お前の要求を呑んでやろう。夏休みの宿題は完成まで待ってやる。
ちひろ  内申は?
教官   内申も下げない。
ちひろ  いいの先生、そんなことして。
教官   お前の進路にかかわることだからな。先生だって、むやみに評価を下げたりはしない。
ちひろ  勝負って、どうやってするの。
教官   鈴木が選んでいいよ。じゃんけんでも。しりとりでもなんでも
ちひろ  射的
教官   射的か。的は何にする?
ちひろ  的はあたし。あたしが的になる。

   ちひろ達、5歳、9歳、14歳、17歳、20歳、28歳やってくる。
   ずらりと並ぶ。

教官   よし、先攻を決めよう。
ちひろ  最初はグー出さなきゃ負けよ、じゃんけん
2人   ポン!

   ちひろ、負ける

教官   俺が先だな。ルールはどうする。
ちひろ  全員を打ち落とすまで。多く打ち落としたほうが勝ち!
教官   さてどうするかな。偶数だ。
ちひろ  本当。ならひとり落とせばいいわ。

   ちひろ、17歳のちひろを撃つ。

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