残夏

去年の春、高校時代の同級生が事故で亡くなった。
それを知ったのは少し暑さの残る9月頃だった。
連絡が取れなくなり、彼の家族に連絡をした友人からだった。

同じ時を過ごし、意見を交わし時にはぶつかることもあっただろう。
そんな青春を共にした彼が
私を含めた同級生、誰にも、何も言えずにこの世を去った。

初めて聞いた時は本当に実感が無く
涙も出なかった。ただただ驚いた。

しかし、先週やっと同級生皆の時間が合いお墓参りに行くことになった。
お墓に行く前に、彼の家を尋ねた。
彼の最後を聞きたかったのだ。
インターホンを押す。彼の母であろう女性の声が返ってきた。
「息子さんの高校の同級生です」というと
ドアがゆっくり開いた。
引きつった笑顔でこちらを見つめる女性がいた。
きっと私や一緒に行った友人には計り知れない程の重りがこの女性にのしかかっていたのだろう。
目には涙も浮かんでいたかもしれない。
とても彼の最後を聞けるわけもなく、お墓に参らせてもらう許可だけを頂いて、彼の家を後にした。
私たちが家の前に停めた車に乗るまで彼の母は頭を下げていた。
悪いことをしたような罪悪感に襲われた。
来るべきではなかったのだろうか。と。

車が発進し、ふと彼の家の方を振り返る。
ベランダに高校時代の体操ジャージが干してあった。
胸がとても苦しく鼓動が早くなったのを感じた。

何度も引き返そうかどうしようか。と繰り返し、やっとの思いでお墓に着いた。
花と線香を供え、手を合わせる。

目を瞑ると、様々な情景や気持ちが浮かんできた。
彼との思い出。彼の母の顔。

言いたかったこと。聞きたかったこと。
一緒にやりたかったこと。

気付けば涙が溢れていた。
あの時出なかった涙が滝のように溢れた。
グシャグシャになった顔を見て彼はどう思うだろう。
あの頃みたいに馬鹿にして笑ってくれるだろうか。

家に帰る途中、母校の制服を着た3人組が歩道を歩いてるのを見かけた。
自分の高校時代と重なる。
たわいも無いことで笑い、辛いことがあれば共に涙を流す。
私達はあの頃、たしかに共に同じ時間を過ごした。
その思い出は絶対に消えない。

これからも彼は私の中で生き続けるのだ。

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