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【ショートショート】スナイパー
弾を1発放った。私の放つ弾は必ずに的に命中する。
標的が次元を超えた別宇宙に居ても、時を超えた未来や過去何処に居てもだ。
私はこの能力で様々な功績を残してきた。
宇宙光を密かに盗み、他次元へ売りつける密売人、未来の技術を現代に持ち込もうとした軍事国家Aの将軍。たくさんの悪をこの手で裁いてきた。
この現代社会において私の名前を聞いて震え上がらないものはいない。
標的にされたものは、最後の時を神に祈りながら待つのだ。
標的は依頼を受けて決める。依頼主は世界王族から時空警察、多次元に手を広げるマフィアなど様々だ。
ただ依頼を受けるとき、私はその依頼主の気持ちを自らの眼で測り受けるかどうか決めている。報酬はもちろん貰うがそれはそんなに重要ではない。
そして今回の依頼人。未来人と名乗る老けた男だった。
「自分の友人が呪われた身となり苦しんでいる。今はもう呪いに体を蝕まれ自らの命すら絶つことができないため話を聞いて俺が来た。過去に遡って呪われる前にその友人を殺し、彼を救って欲しい。」という内容だった。
正直、この手の依頼はよくある。口から出任せで自分の消したい人間を過去で殺そうとするのだ。が、彼の目をみてそれが真実だとを察した。男は友人のために本気で、友の命を摘もうとしていた。
報酬はいらないと言った。男は明らかにみすぼらしそうな服装で、金も持ってないだろう。ただ友への気持ちだけで私に依頼してきたのだ。その気持ちに私は飲まれた。この男を楽にしてやりたい。と
大体の年代と標的の人物像を聞き狙いを定める。
狙いを定めると行ってもハッキリと過去や未来、他の次元が見える訳ではない。情報と意識をを擦り合わせることで生まれるほんのりとした光の塊を撃つのだ。
こうして弾丸は私だけに聞こえる発射音を残し、次元の波へと放たれる。
当たるかどうかの確認なんてことはしない。弾は必ず当たるからだ。
私は的を外したことは無い。
そうして、狙撃が終わったことを男に告げると、男は目に涙を浮かべながら「ありがとう。」と言い去っていった。
たまにはこんな仕事も良いだろう。とウィスキーのキャップを開ける。仕事終わりの1杯は格別だ。
ウィスキーをいつものようにグラスに注ぎ、口を付けた。
その時だった。
ウィスキーの瓶を握っていた手が粒子状に崩れ始め、瞬きをする間もなく反対の手からグラスが床に落ちた。
私は全てを悟った。
数十年前、多次元を行き来する中で事故に会い、当時共に旅をしていた友人を庇うように射手座の影に飲まれた。
その漆黒の闇の中で私はその闇の主に「生」か「死」かを問われ、「生」を選んだ。
その闇の主は
「生には死より辛い''痛み''が付きまとう」
と言った。
その日からだ。私の放った弾は必ず命中する。
次元を超え時間を超え、標的がどこにいても必ず。
私は今まで奪ってきた「生」と与えたきた「死」を、思い出していた。
生には痛みが付きまとう。
救われたのだ。彼に。
私は、奪われていく「生」を感じながら、神に祈りながら最後の時を迎えた。
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