【音霧雑記】大和田常務の「恩返し」の意味とは

ロスジェネの逆襲原作には未登場の大和田常務。ドラマ版第1話に出演時、頭取との会話中に飛び出た新名言が、

「施されたら施し返す。恩返しです!!!」

具体的にこの言葉の意味は何なのか。前期シーズン(1~10話)、ロスジェネの逆襲時(1~4話)の大和田常務を振り返って、彼の持つ恩返しの意味を考えてみたのですが、そこはやはり大和田常務。言葉通りの意味で捉えると一筋縄ではいきません。

※ネタバレ上等記事。本編を見ていない人は隠し部屋にブラウザバック!!
※あくまでも考察なので解釈の不一致も上等です。

頭取に対しては言葉通り

前期シーズンラストで半沢直樹に土下座をした大和田常務。しでかした迂回融資の件や、伊勢島ホテルの一件における処分を受けることになるが、頭取から言い渡された人事は常務から平役員への降格。本来なら懲戒処分か、地方への出向等が妥当なところを銀行に残ることになった。頭取の転覆を目論んだ事も暴かれた上での人事に、大和田常務は感謝する。

行内融和を睨んだ頭取が大和田常務(もう常務じゃないけどこれで良い)に恩を売った形になり、いわゆる「施された」立場。頭取のために動くことを誓い前述の名言を発する。

事実今回の大和田常務は、金銭的な着服行為を行わず、銀行に対して不利益になる行為は事実上していない。伊佐山との企てにしても、三笠に恩を売る程度であった。

しかし会議にて500億の融資が通っていた場合、伊勢島ホテル以上に頭取の立場が危うかったわけだが……頭取はそれすらお見通しの可能性があるから本当に恐ろしい。分かり難いかもしれないが、ダイの大冒険でバーン様(頭取)がキルバーン(大和田常務)を嬉々として幹部にしているような関係とよく似ている。

大和田常務という危険因子を役員会にそのまま放置することがどういう結果を招くかなど、そんなリスクは織り込み済みだろう。前期10話でも「私は銀行員としての君を尊敬していたんだよ」と発言した頭取の事、銀行員として再度頭取の椅子を狙ってくる野心家の大和田常務を、信頼している。恩返しとはつまり、腰巾着程度で終わることなく、邁進すること。

恩売りの大和田

浅野支店長に対しては、「全てを知っているけど言わないよ」という迂遠で釘を刺すような会話がある。大和田常務は伊達に銀行員をやっていないから実力は半沢並みかそれ以上と見積もって良いだろう。東田と浅野支店長の関係や金の流れ、大体察しがついているか、8割方見破っていると見ていい。

目をかけていたという浅野支店長に、重ねて「黙認」という恩を売った大和田。浅野支店長が敗北して嘆くかと思えば、新たに恩の売りがいのある人物を見つけたと喜んでか興味を示さなかった。しかしその人物は全く靡かないばかりか、反発ばかりする。当然その人物とは半沢直樹である。

伊勢島ホテルでの案件でタイムリミットになり未だ解決できない半沢。「もう少し待ってほしい」と懇願した半沢に大和田常務は「土下座でもしてもらおうか」とこれまでとは違うやり方で恩を売った。立場を理解させること、貸しを作って従えることの両得であり、半沢はここで一度敗北する。

そもそも大和田常務は平役員に降格してもなお、三笠副頭取が頭を下げる程度には役員たちの人心掌握が完了している。それは恩を売ったとか脅したとかだけではない、銀行員としての信頼も、厚かったのかもしれない。

ただの恩返しじゃなくて契約的な恩返し

誰彼構わず恩を売るわけでもないし、売るときは相手が窮しているか、必要としている時が殆ど。

「施させなさい。その代わり、施されたら施し返す」

恩のキラーパス、からのキャッチボールが大和田常務の流儀である。基本的に自分の部下には甘いし、伊勢島ホテル編では半沢を裏切った近藤に銀行復帰人事を施した。やる必要はなかったけどやってのけた。(その後半沢に近藤を切り捨てれば私を倒せると言ったが、義理人情ある半沢が仲間を売るわけないという確信があったからこそ言ってのけた悪魔のささやきである)

前期10話。岸川は半沢に弱味を握られて真実を暴露する前、大和田常務を裏切る直前に「すみません」と叫ぶシーンを見るに、「脅されてやらされていた」感じは見受けられない。

前期2話か3話にて小木曾が「半沢直樹は頭取を狙っているとは、身の程知らず」という台詞を言った時。岸川は真っ先に大和田の反応を窺った。大和田常務の夢が頭取の椅子なのを知っている。そういう男の夢を知っているというのは、相当懇意にしていた事になる。ましてや、その夢は「=企て」なので表には出さない。信用している人物しか知らない。

「やってやるよ!!」と叫ぶまでの心境考察

ロスジェネの逆襲編で大和田常務は、半沢直樹に施そうとする場面が2話にあります。「出向の人事を何とかしてやってもいい」というのだ。やってもいいという部分に「君が私の施しを望むなら」という含みがある。無論半沢は乗らない。恩を売る姿勢は、たとえ自身を失脚させ土下座までさせた敵である半沢に対しても変わらない。そういう意味では度量が広い。

4話で大和田は愛弟子の伊佐山から裏切られて意気消沈しているところに、全てのキーを握った半沢が現れて力を貸してほしいというのだ。ただこの「貸して欲しい」に含まれるのは恩ではなく、対等の条件であることが言外から読み取れる。「俺はこの情報をやるから、お前にもやってもらうことがある」という取引だ。

大和田の恩売りは実質契約と言ったが、「私は何も知らんよ」というスタンスで霞のように捉え処のない、しかし力ある束縛こそが大和田の恩返しにおける契約の正体です。半沢のような明確な形で行われる取引=契約とは性質が異なる。

「恩を売る」という相手の上に立つ状況を好む大和田にとって、対等の契約を、「ましてやお前みたいなやつと誰が手を組むか!!! 死んでもやだね!!」というのは至極もっとも。

しかしこの時点で2人とも確かに窮していた。半沢は黒幕の正体やその指示内容、実行犯や粉飾に至るまで全て証拠も言質も握っている、100%勝てる戦準備を整えている。だが、それらの情報も出鱈目と一蹴されるだけで終わってしまうし、何より500億の融資が決定した後では全てが水泡と化す。役員会議で発言出来なければ意味がないのだ。

大和田の力がなければ半沢はこのまま海外の零細企業に出向。大和田としては少し留飲は下がるだろうが、大和田とて何もしなければ、伊佐山と三笠という壁がある銀行内で頭取への道は永遠に拓けない。それを分かっている。かつて自身が入念に準備した計画を看破した、半沢の手腕は認めている。

一度断り、全てのカギを握っている半沢を利用すればほぼ勝てるだろうと踏んだ大和田。車内で色々と計算を巡らせた結果、すぐさま車をバックさせて半沢に詰め寄る。「お前の持っている鍵は何だそれ次第でのってやる」と、ここでも上から目線だし、恩を売ろうとする。

当然半沢は協力を確約しない限りは教えないし、「やるかやらないかどっちだ」と選択権を与えない。しばらく半沢の周りをグルグル回ってから、

「やるよ、やればいいんだろうその代わりやればお前の倍返しは決まるんだろうなちゃんと!!!」

恩を売れないばかりか、自分が窮する立場で怨敵に施された挙句に、自分の口からやるといわねばならない。上に立てない状況での結託を余儀なくされて息も荒い。土下座よりは何億倍もマシだが、屈辱だっただろう場面。

因みにその施しに対しては当然、「施されたら施し返す」の精神で、半沢の提示した2つの条件をすぐさま呑んだ。ただしこれはキャッチボールではない。大和田がボールを投げ、受け取った半沢が伊佐山達に剛速球を投げる、デッドボールである。ボールはどちらも拾わずに去るのみ。一回こっきりの共闘。

以上を踏まえて伊佐山は……

恩を売った伊佐山とは長い間恩のキャッチボールをしてきたが、最後の最後で暴投、不成立。恩を仇で返された。

裏切りを施した伊佐山には、裏切りを施し返す。

恩ではなく仇を施したなら、仇を以て施し返す。

これはもう恩返しならぬ、『怨返し』である。

これは半沢の持つ流儀の「やられたらやり返す、倍返しだ」よりも複雑。裏切りと仇の2つを同時に返すのだから、実質倍返しだ。

仕上げは入念に

大和田常務は伊佐山と結託し、三笠副頭取恩を売るために4話まで画策していた。しかし結果を見れば、三笠を失脚させて伊佐山と言う裏切り者もいなくなり、銀行内の風がとても居心地よくなっている。

更には二度と戻れないように電脳雑技団への出向にも推薦。後に金融庁検査が入ることを見越し、沈む船への乗船を強制したのだ。

半沢は大事なものを守り切って大勝利。大和田は頭取への道が再び見えたことで大勝利という結末に終わる。半沢の恩と感謝の精神、大和田の歪な恩と施しの精神。大和田常務のは本当に歪だけれども、恩と言う信念は半沢と一緒である。とにかくロスジェネの逆襲編は、感謝と恩返しを持つ者が勝利する物語だった。

まとめ

感謝と恩返しは半沢も劇中で何度か言っている。恩には恩で報いましょう。そんな道徳的な教訓が得られるので、半沢直樹は授業中に見せるべきなのかもしれませんね(それ言い過ぎ)

小さな恩であれ、感謝の気持ちを持って臨むと、少しだけ人生が豊かになる気がします。皆さまも身近な恩を大切にして下さいませ。

サポート1人を1億回繰り返せば音霧カナタは仕事を辞めて日本温泉巡りの旅に行こうかなとか考えてるそうです。そういう奴なので1億人に到達するまではサポート1人増える度に死に物狂いで頑張ります。