正しく怒る主人公は魅力的【鬼滅の刃】
創作物に触れる際には感情移入が大事。今主人公が思う気持ちや、脇役が命を燃やす瞬間など、想いを馳せる事で没入感を与えるし、悔しい時も悲しい時も一緒に悔しくも悲しくもなれる。
鬼滅の刃無限列車編は、まさにそこが空前の大ヒットの理由なのではないかと考えています。世に数多ある日本アニメ作品の中で、先日堂々の興行収入1位を叩き出した鬼滅の刃無限列車編。私は公開されてしばらく経ってから1度見て、数日前(12月中盤)にもう一度見に行ってボロボロと泣いていた。
ただ感動の押し売りではないため、迫力満載の戦闘シーンに要所要所に挟まれるギャグシーンがある。お蔭で沈痛な想いに浸る時間はありません。泣いた次のシーンには笑っているし、笑った次には深刻な状況に息をするのも忘れている。この映画は正にジェットコースター。鬼滅知らないでも楽しめるけど、知っているとより一層楽しめる。だから1度目よりも2度目、3度目と理解の深さが進む毎にまるで違う景色に見える色変わりの映画。
※この記事には映画鬼滅の刃無限列車編のネタバレが含まれますので、まだ見ていない方は是非とも映画を観に行ってください。
炭治郎の心と共に泣く
この映画は煉獄さんの活劇がメインであるが、炭治郎は全く目立たなかったわけではない。アニメ26話を通じて強靭になり、柱が覚える技術をも会得して遥かに強くなっていた炭治郎が挑む最初の戦い。元の炭売りとはかけ離れた彼が対面したのは鬼ではなく、過去の幸せな夢。
失ったものを尊いと思い、何でもないやり取りに幸せを感じる幸せな夢。鬼の仕掛けた罠から逃れようとする炭治郎を、「幸せ」が引き留めようとする。この構図が既に「炭治郎が辛すぎる」と涙が溢れてくる。隊服に戻って自分の使命を全うする時、弟や妹を置いて行かねばならないときの悲し気な顔、どうにか振り切るために駆け出した先にいた、日の下にいても平気な禰豆子。
「ここにいたいなあ」
悲痛な胸の内を吐露するシーンで更に泣く。私達は、炭治郎がこの夢を振り切って脱出するであろう未来を知っている。しかし彼が懸命に抗い、屈してしまいたくなる気持ちも十分に理解出来る。自分がいない間に起きた惨劇が、ここでは悪い夢のようになっていて、その夢のままでいられたらというかすかな幸せをも、自分で捨てなければならない。
そんな残酷なことはない。痛いほど伝わってくる炭治郎の想いが涙腺と心を刺激する。
よくぞ振り切ったと思いながら、心のどこかで「屈しても良かったんだ」と泣きながら心中拍手する私に、六太が叫ぶ言葉、私も炭治郎も涙を抑えることが出来なかった。「竈門炭治郎の歌」がBGMに流れる。歌詞を知っていたら更に泣ける。何ならこの記事書いている時に思い出し泣いている。
「いっぱいありがとうと思うよ」という決別の言葉が更に辛い。もうこの時点で炭治郎へ感情移入を思い切りしている。
正しく怒れ
前半で炭治郎への感情移入はバッチリだ。次は幹部級の鬼である下弦の壱、魘夢(えんむ)との戦いに移り変わります。見せた夢のことや、次はどんな夢を見せようと楽しげに笑う魘夢に、青筋が浮かぶほど激怒した炭治郎が、抜刀するシーンが本当に好きだ。
奥歯をグッと噛み締める程、「なんて惨いことをしやがる……!!」という私の怒りをこれ以上なく表現している。言い回しも実に炭治郎で、鬼の所業を絶対に許さない鬼気迫る顔は物凄く「頑張れ!!!」と応援したくなる。
幾度も強制睡眠を課す強敵にも怯むことなく立ち向かう炭治郎の雄姿に心が燃えている。そして敵が愉悦を楽しむためにとっておいた「血まみれの家族から詰られる悪夢」で怒りが爆発するシーンも大好きだ。アニメ本編で、死んでなお家族の絆を見せつけた竈門家がそんなことを言うはずがない。あの炭治郎の台詞はまさしく私の心の叫びでもあった。その怒りの一太刀で魘夢の首を刎ねたのだから爽快感は数十倍に膨れ上がっている。
だからこの映画は煉獄さんがメインなんだ
原作を読み進めている人たち以外は、煉獄さんという人物を知らない状況でこの映画を観ることになる。正直、感情移入出来る時間が終盤も終盤で、限りなく少ない。あまりにも次元の違うバトル、高潔な精神、柱としての強さを、炭治郎の目線で私たちは見ている。
加勢も出来ず、相打ち上等の夜明け前でようやく駆け出す炭治郎が、しかしその鬼を逃してしまう所で鬼の背中にいつもの彼らしからぬ罵声を浴びせるシーンが、そのまま赤子のように泣き崩れるシーンが、…………この文面書いている時点で涙がこみ上げる程印象深いシーンの連続だから、まだ見ていない人がいたらお願いだから見に行ってほしい。
アニメでは私たちは私たちの視線で炭治郎たちの活劇を見ている。しかしこの映画では感情移入度があまりにも高すぎるため、私達は炭治郎と同じ視点で煉獄さんを見つめているのだ。
だから僅か2時間という映画の中で彼の死に深い悲しみを覚え、強い志の感銘を受ける。
強くなるための理由があり、そのための努力を決して惜しまず頑張ってきた炭治郎。それでもなお上弦には遠く及ばない。その事を「壁がある」と表現して悔しさをにじませるシーン「お前本当に頑張ったのに何でだよなんでだよ」と私も悔しくなってくる。悔しくて悲しくて仕方がなくて涙が溢れだす。
そんな炭治郎を、ひいては私たちを救ってくれたのが伊之助の涙ながらの主張なのだ。彼の言葉により私たちはここで、炭治郎とのシンクロが解ける。ここから先に続く物語と同じくらい、自分たちの現実にある「壁」を思う悔しさや理不尽に想いを馳せてしまう。
そのまま少しの時間の後エンディング曲へと移行していく。これがもう本当に、心を落ち着かせるためには絶対に離席NGな一曲で。この曲だけ知っている人と、映画も見ている人とでは認識の差があまりにも遠い。
まとめ
心を燃やせ。この映画を象徴するキャッチフレーズ。2020年未曽有の危機の中で、私たちは何を求めたか。ドラマならば半沢直樹を。アニメ映画では鬼滅の刃を求めた。共通することは「立ち向かう勇気」だ。強く折れない主人公と心を重ねて、私たちの心も弾む。単なる熱狂では終わらない、心に着火して燃え盛る炎が私達に勇気と感銘を与えてくれる。
正しく怒ることが出来る、慈(やさ)しくて強い炭治郎が主人公だから、この時代で大衆の心を掴んで離さない。
きっと私はもう一度この映画を見に行くだろう。今度はコミックスを全巻揃えて読破した後に。その時はまた、違った視点で物語を眺めることが出来るはずだから。
サポート1人を1億回繰り返せば音霧カナタは仕事を辞めて日本温泉巡りの旅に行こうかなとか考えてるそうです。そういう奴なので1億人に到達するまではサポート1人増える度に死に物狂いで頑張ります。