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アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ

年の瀬に驚きのドキュメンタリーを見ちゃいました。タイトルは"DAWSON CITY : FROZEN TIME"。2016年の米国映画ですが、実は2017年のイメージフォーラム・フェスティヴァルで日本でも公開されてたようです(まったくアンテナに引っかかってませんでした)。その時のタイトルは『ドーソン・シティ:凍結された時間』。ちなみにキャッチコピー的な副題が付いていて、”Film was born of an explosive."。「フィルムは爆発物として誕生した」です。

1978年にカナダのドーソン・シティという街の建築現場から、500巻以上の可燃性ナイトレート・フィルムの缶が出てきて、その中には1900年代初頭からトーキーが始まる30年代までのニュース映画や劇映画がざっくざく。

なんでそこにこれらのフィルムが? 

ドーソン・シティは北米の映画配給網の終着点で(初公開後2~3年してやっとそこに届く)、フィルムがそのままそこに留まり、そのうち保存しきれなくなる。いったんは映画会社に「返したい」と連絡したこともあったようなんですが、返事は「捨ててくれ」と。仕方ないのでユーコン川に流したり(無茶しおる)、燃やしてしまったりしたようですが、それでも片付かないので、残ったものをアイスホッケーをやるためのスケートリンクの下に埋めてたんだそう(その施設は、一時は映画館としても使われていた場所でした)。この建物もやがて火事で焼失するのですが、その跡地に何か建てようと工事の人が掘り始めたら出てくる出てくる。

可燃性フィルムは一定の温度、湿度の環境で自然発火することがあり、いったん燃え始めたら手が付けられない。水の中でさえ燃えます。それが寒い北の土地で、氷の下にあった。スケートをしてた子どもたちは、氷の上に飛び出しているフィルムを見つけては、マッチで火をつけて遊んでいたそうです。

で、この映画がすごいのは、このドーソン・シティという街の歴史(1900年頃、ゴールドラッシュの時に、各地から4万人も集まったものの、そのムーヴメントが去ると、どんどん人が減っていく……一時は900人までに)と、可燃性フィルムの歴史、映画館の歴史(とにかく火事ばっかり起こります)、映画ビジネスの歴史を、その埋まっていたフィルムに収められていた映像そのものを使って再現ドラマ風に伝えてくれる、というところ。もちろん、そのために撮られていたわけではないから、いろんな素材を語りたい内容に合わせて上手いこと編集しているわけですが、これがなかなかの手腕です。途中、本筋とはあまり関係ないものの、出てきた映像が貴重だったからでしょう、ジョン・セイルズが『エイトメン・アウト』という劇映画で描いた、1919年の大リーグの八百長試合、いわゆる「ブラックソックス事件」の話も。しかも冒頭とエンディングのインタビュー部分、終盤のトーキー時代のフッテージ以外、ナレーションもなく、ほとんどはブライアン・イーノ的なアンビエントな音楽と(音楽を担当したアレックス・ソマーズという人はシガー・ロスとやっていたりしているらしい)、効果音と、テロップによる説明だけで2時間。なんか退屈そうに思えるかもしれませんが、これが飽きない。2時間、食い入るように見つめてしまいました。映像によっては傷みが激しくて、特に左右のエッジは巻かれてる時に空気や外の環境に触れてますから凄いことになってるんですが、そこに自然と化学変化が生み出した抽象絵画のような美しさも宿っている。

とりあえず、予告編はこちら。アメリカではBlu-rayも出てます。監督はビル・モリソンという人で、マルチメディア・アーティストだという。思わず過去の作品集もポチってしまいました。

発掘された映像から作品を作る、という意味では、今話題の「群衆」三部作、セルゲイ・ロズニツァに通じるものも感じます。ロズニツァは1964年生まれ、モリソンは1965年生まれ、今50代半ばですね。自分とほぼ同い年です。

2017年にトロント映画祭で上映した時の、監督インタビューとQ&Aはこちら

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