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恋人じゃなくても


部屋に入っても直ぐにハグしたり、キスしたりしないんだ佐藤さんとは。


ソファに並んでは割と真面目な話をするんだけれど、今日は私の人生相談を。佐藤さんは真面目で勉強もスポーツもストイックにこなし知識も豊富だから、私の苦手な数字についてもよく教えてくれるんだ。昔ど素人のくせして投資に手を出し失敗した私の話も、分析しながら答えをくれる。勧誘の断り方も熱く伝授してくれ脱帽。自分にないものを教えてくれる人とゆうのは、魅力的で私を安堵の気持ちにしてくれる。

「悪い意味ではなく、僕はいつでも疑ってかかっている」

佐藤さんは、人との関わり方をそんな風に話してくれた。どんな小さな事でも、理論的に説明出来ない事には一切の手は出さない。そして佐藤さんはもう気を許していいはずの私への警戒も強く、未だにスマホも鞄も無防備には置かず、多分本名も語っていない。

「なんでそんなに上手なの?」私の口からよく出る割とお決まりのセリフだ。白いシーツを握りしめて佐藤さんを見る。         

「好きだから」佐藤さんはベッドの上ではそんな言葉を使う。だけど私はそんな言葉はいつも流しているんだ当たり前だ。疑ってかかる佐藤さんのように私だって疑っている。そもそも男の言う会いたいや好きだなんて、ヤリたいや抱きたいと同義語なんだから。だけど私は正直者で、好きでなければ好きと言わない。だから今日だって言ってはいない。

好きの代わりに、気持ちいいと言う。

ただこんな関係だけれど、楽しいんだとても。お互いの束縛もなく先の約束もない。真面目な話をしてセックスをして、たまにメールをする。

色々アドバイスありがとう。そう返信すると、また的確な言葉を並べてくれて、最後に私を泣かすような言葉が書いてあった。

「僕にも力になれる事があると思うよ」


(あぁ、こんな言葉を私をも疑いながらも会い続ける佐藤さんでさえ吐いてくれるんだ。そうか、それなのに今朝夢に出てきた、たまにひょっこりと夢に出て来ては私に冷たくする好きだったあの人は私に安堵をくれなかった。あの人からは聞いた事のないセリフがあの人は私の事を決して大切ではなかったのだよと、そう言っているみたいだ。その時には気が付かなかったよ。恋は盲目。もう恋なんてしないよなんて言い続けてやるよぜったい。)


そう、男なんてね3.4人くらい匂わせておいて、気持ち良くしてもらえたら幸せなの、きっと。

一人の男と添い遂げる。夢物語みたいな話だね。そんな捻くれた事を敢えて言いたい夜なんだ、きっとね。




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