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五感を澄ます(「ダムタイプ2022: remap」の感想など)

アーティゾン美術館で、インスタレーション「ダムタイプ2022: remap」を鑑賞。

ダムタイプ2022: remap入場口の写真

真っ暗な会場に並ぶのは、さまざまな街の音を鳴らす幾つものレコード。「音を鳴らす」と言っても本当に耳を澄ませなければ聞こえないほどの小さな音だ。
人混みの音、声、走る車の音…。その街の名前と音から「どんな場所で鳴っていた音なんだろう?」と想像が膨らむ。

会場中央にはボックス状の部屋があり、夜を走る電車のような、モールス信号のような光が細く灯り、音楽が流れている。
静かでありながら、空間を拡張させ、飲み込むような音。その中に立ち、光が作る文字を目で追うのは、夢の中で現実を見ているような感覚だった。

暗闇で五感を澄ますのは、洪水のような情報に溢れた時代とはまったく対照的だ。普段いかに、望まない情報に流され、丁寧に情報をすくう作業をしなくなっているか気付かされる。

部屋の真ん中には地図が照らし出されている。
知らない人と暗闇で地図を見つめ、小さな音に耳をすませているとなんとなく相手との距離が近く感じられてくる。

コロナ禍を経た、世界との関わり方を示してもいたのだと思う。世界に対する体感、手触り。決して分かりやすくはないそれらに、主体的にそれに触れようとする事の意味。

何か写真を…とも思ったけど、暗いから何も映らなくて!
何度か撮って諦める。でもそれもまた、体感する事、その時間の中にいる事の価値を示しているようで良いな、と思った。

会場内の写真
なんだかわからないですが展示風景です

下のフロアで開催されていた展示にラインナップされていたのは、モネ、ルソー、ピカソ…など錚々たるメンバーによる絵画たち。
なんとなく眺めて進んでいたら、思いがけずパウル・クレーの絵を発見!クレーの絵は好きだ。優しくて、絵の中で眠れるような感じがする。
知らない場所で友人に会ったような、ホッとした気持ちになった。

クレーの油彩作品
「小さな抽象的-建設的油彩(黄色と青色の球体のある)」

調べればネットでいろんなことを知ることが出来るし、スマホさえあれば必要な情報はいつだって見ることが出来る。
ただ、その一方で偶然や驚き、予想外の出来事、そしてそれに対する耐性というのを静かに失っているように思う。

問いを立て、不明確さに手を伸ばすことでこそ、自身の存在は確たるものになっていく。
完全な理解を求めてジリジリするよりは、わからない中でウロウロするくらいのほうが自分には合っているのかもしれない。

展示は14日までです。



余談
ダムタイプの展示、会場の前ではなくて、会場を出たあとに解説の紙があったのが嬉しかった。
解説を先に読んで「体験のネタバレ」みたいになった後で作品を見るという動線はどうなの、と前から思っていて…。
体験するまでよくわからない、というのがとても、作品の趣旨に合っている感じがして良かったな。


今日の絵


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