とき

しがないシナリオライター。 映画の感想やシナリオの書き方解説などをしていきます。

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最近の記事

「アスペル・カノジョ」は、シナリオ創作論のアンチテーゼ

「アスペル・カノジョ」 https://amzn.to/3QEbgmz 「アスペル・カノジョ」は、シナリオ創作論のアンチテーゼである。 シナリオというのは、主人公が困難を乗り越えて成長する物語だ。 主人公や登場人物に何かトラブルが発生する。しかし主人公は苦労しながらも、そのトラブルを解決することによって成長する。 しかし、アスペルガー症候群(以下、ASD)においてはそれが成り立たない。 ●「アスペル・カノジョ」の冒頭その名の通り、この漫画はASDの女性のお話。 同人漫画

    • 「ガチャ上の楼閣」第14話(完)

      「皆、すでに知っているかもしれないが、『エンゲージケージ』をヘキサゲームスに売ることになった」  朝礼で社長が正式に買収の話をした。 「『エンゲジ』に所属しているメンバーはそのままヘキサゲームスに移ってもらう。先方は『エンゲジ』チームを高く評価しているので、待遇は安心してほしい」  歓喜の声があちこちで上がる。 「しかし、『ヒロクリ』はこのままノベで開発、運営を続けることになる。『ヒロクリ』メンバーはこれからも私たちを支えてほしい」  一瞬、社長が何を言ったか社員た

      • 「ガチャ上の楼閣」第13話

         「ヒロイックリメインズ」はまさに好調そのものだった。  初日にセールランキング3位を記録し、一週間経っても10位前後に居座り、「エンゲージケージ」を上回る売り上げとなる。  社員の苦労も報われたというものである。 「イベント告知のリアルイベント、小椋、コスプレするんだって?」  次のアップデートに向けてスクリプトを打っていると久世が話しかけてきた。 「は? なにそれ?」 「さっき、衣装届いてたぞ。ヒロインのメイ」 「聞いてないんだけど……」  その時点で予想がついて

        • 「ガチャ上の楼閣」第12話

           今日は7月27日。  「ヒロイックリメインズ」のリリース日である。  今日の14時公開予定で、ノベルティアイテムの社員たちはその瞬間を会社で待ちわびていた。  ゲームが完成したらほとんどの人はやることがない。あとはサーバー担当の仕事である。  みんなスマホやパソコンで、ユーザーの言動を見つつ待機している。  だが文見は走っていた。 「はあ、はあ、はあ……」  炎天下の猛ダッシュで汗まみれである。  そんな事態になってしまった原因は二週間前にある。 「ちょちょちょ、ち

        「アスペル・カノジョ」は、シナリオ創作論のアンチテーゼ

          「ガチャ上の楼閣」第11話

          「うわっ、小椋ひどい顔じゃん」 「久世もたいがいだよ……」  納品された音声データをすぐに組み込むための仕組みをプログラマーに依頼することになり、その担当は同期の久世に任されていた。  文見も寝不足が続いていたが、久世もだいぶ疲れているようで、前に飲みに行ったときよりも痩せているように見える。 「まあ、こうして掛け持ちなわけで」 「『エンゲジ』大丈夫なの? イベントで炎上してたじゃん」 「新仕様いれないなら俺の出番ないな。社長はもう割り切って、しばらくシステム自体は流用で

          「ガチャ上の楼閣」第11話

          「ガチャ上の楼閣」第10話

          「あの『エンゲジ』チームが送る最新作RPG『ヒロイックリメインズ』! 全国の名所とともに日本を救え!」  4月1日、「ヒロイックリメインズ」が発表になった。  様々なメディアを通して、ゲームのロゴやメインビジュアル、キャラのイラスト、オープニングの切り出し映像が公開された。  ちょうど公開日がエイプリルフールだったせいで、「ウソではありません」といちいちコメントをつけないといけなくなった。だが、エイプリフールネタにしてはお金のかかった発表だったので、それが逆に話題になった。

          「ガチャ上の楼閣」第10話

          「ガチャ上の楼閣」第9話

           時間はあっという間に過ぎていき、気付けばもう夏季休業も終わっていた。  都内の実家に帰ることもなく、ぼうっと自宅で過ごしてしまった。  お盆の時期はイベントがたくさんあり、コスプレの話題に欠かない。また何かやろうかと思ったが、実行に移すほどの気力がなかったのだ。 「社会人はこうして趣味を失うんだな……。そういえば、お父さんは趣味なんだったんだろう?」  夜遅くに帰ってきて、居間でゴロゴロし始め、いつの間にか寝てしまっている、というイメージしかなかった。  文見のメインス

          「ガチャ上の楼閣」第9話

          「ガチャ上の楼閣」第8話

          確定したプロットはだいたい次のような感じである。  ある日、主人公は現代日本にそっくりなパラレルワールドに飛ばされてしまう。  そこで謎のメカに襲われる。  窮地に巫女の姿をした少女が現れ、英結を召喚して戦わせた。  彼女の名はメイ。英結を感知できる不思議な力を持っている。  英結とは日本各地に根付いた神様で、認めた人間に力を貸してくれる。  主人公はメイと一緒に、各地を回って英結を仲間にしつつ、神出鬼没のメカと戦うことになる。  ……という話なのだが、メカがいったい何者

          「ガチャ上の楼閣」第8話

          「ガチャ上の楼閣」第7話

          「ちょっと、文見」 「ん?」 「ほらこっち」  木津にうながされて、文見はオフィス外の廊下までやってきた。 「どうしたの?」 「どうしたじゃないわよ。また変な顔してる」 「そりゃね……」 「またやり直し?」 「うん……。社長はいいって言ってくれたんだけど、生駒さんが納得してくれなくて」  前回の会議で、生駒に指摘されてから二週間が経過していた。その後、修正してメールでの意見吸収を行ったのだが、また生駒によって阻止されていた。 「あの屁理屈屋め……」 「屁理屈って……ま

          「ガチャ上の楼閣」第7話

          「ガチャ上の楼閣」第6話

           文見は修正を重ねて、社長のOKをもらった。  前回のように社員全員に聞いていたら時間が掛かりすぎるので、今回は主要なプロジェクトメンバーが集まって議論することになった。  直接、顔を合わせて答弁するのは緊張するが、今さらびびってもいられない。自分がシナリオリーダーであり、頑張って作り直した設定とプロットを守れるのは自分しかいないのだ。  先に資料は渡していたが、冒頭に文見が簡単に補足説明をする。 「――という話になっております。プロデューサー、ディレクターに相談しつつ進め

          「ガチャ上の楼閣」第6話

          「ガチャ上の楼閣」第5話

          「どうしても直さないとダメですか?」  文見はプロデューサーとディレクターと会議室にいた。  皆から出た意見を受けて、どう直すか方向性を検討した資料を文見が作成し、二人の判断を仰いでいるところだ。 「申し訳ないけど、あそこまで否定的な意見があると、直さざるを得ない」 「でも、天ヶ瀬さんはこのストーリーがいいって言ってたじゃないですか」 「言ったけど、私一人のゲームじゃないから、自分の意見を無理矢理通すわけにはいかないんだ」  社長は苦笑いを浮かべる。  そこは社長として

          「ガチャ上の楼閣」第5話

          「ガチャ上の楼閣」第4話

           文見は一心不乱に仕事に取り組んだ。  今売れているゲームはすべてやった。流行っているアニメもたくさん見た。許可をもらって仕事中にもやっていたし、家に帰ってからも見ていた。 「絶対にいい作品にするんだ!」  素人なんだから、ダメなシナリオと馬鹿にされるのは仕方ない。でも、これは自分だけの仕事ではなくて、会社の大勢の人に関係すること。ユーザーにダメシナリオと言われたら、みんなに迷惑をかけてしまう。それは絶対に避けないといけない。  世には星のようにゲームがある。毎週のように

          「ガチャ上の楼閣」第4話

          「ガチャ上の楼閣」第3話

           いよいよ新プロジェクトが始まった。  プロデューサーである社長が企画書を書き起こしたばかりで、まだ形は何もない。  戦闘、フィールド、UI、モデルなど、各パートのリーダーが選出され、企画書に基づく仕様を検討し始めたところだ。  ディレクターは村野。社長天ヶ瀬の親友で、二人でノベルティアイテムを立ち上げた。アプリ開発の会社にいた凄腕プログラマーで、何でも自分で作り上げるというフロンティア精神を持っている。常務取締役というポジションになるが、経営には口を出さず、開発に徹している

          「ガチャ上の楼閣」第3話

          「ガチャ上の楼閣」第2話

          「転職なんてろくでもないぞ、やめとけ」  お酒の入った佐々里はそのセリフを何度も繰り返していた。  秋葉原の繁華街にある居酒屋。文見たち四人の同期が集まってお酒を飲んでいた。  主役は佐々里。ノベルティアイテムを退社して、他のゲーム会社に勤めていたが、その会社もやめるという。  数ヶ月ぶりに会うが、その時より太っているような気がする。 「『ブレイズ&アイス』はずっと好きなゲームだったし、こうなればさらによくなるって、アイデアたくさんあったんだ。面接でも言ったよ。パーティー

          「ガチャ上の楼閣」第2話

          「ガチャ上の楼閣」第1話

          「新しいゲームの世界設定、担当してもらいたいんだけど」  その言葉は、小椋文見(おぐらふみ)の人生の中で一番嬉しかったかもしれない。  テストで満点を取ったこと、短距離走で一位を取ったことより嬉しい。大学の合格発表を見に行ったとき、企業から内定の電話があったときより嬉しい。高校生のとき、好きな男子から告白された言葉より……たぶん嬉しい。  文見はその言葉を会社の会議室で聞かされた。  相手は自分の務める会社の社長。  社長といっても、従業員が5、60人ほどの小さい会社だ。出

          「ガチャ上の楼閣」第1話

          「宇宙ポリコレバスターズ!」第2話

           出航早々、新入社員であるルカの仕事は始まっていた。  株式会社フリークエントリー。様々な文章を制作するライティング業が主な業務である。企画も行っていて、番組や雑誌、リアルイベントにも携わっている。お呼びとあれば、自ら司会やコンパニオンも務めることがある。つまるところ、何でも屋である。  フリークエントリーは小型宇宙艇ラクーアクアリーを保有していて、船の中を作業場としていた。今のご時世、銀河ネットを使えば、ライティングの成果物はいつでもどこでも納品できる。しかし、イベント

          「宇宙ポリコレバスターズ!」第2話