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お気に入りスポット 結局は家のカウチ!


今回のテーマ:お気に入りスポット

by   阿部良光

現代の若者たちは知っているかどうか、60年代から70年代にかけてベ平連の活動家で、当時の若者の多くの心に火をつけられた『何でも見てやろう』の作家小田実さんを思い出した。 旅行中かどうかNY滞在中、行き交う人々を眺めながらエッセイを書いたという、ウエストヴレッヂの小洒落たカフェ「フィガロ」(だったか)のような名前を出そうと思ったが、あれこれと思い描いてもどうもしっくりこない。

もともと、カフェやバーで落ち着いて思索したり本を読んだり集中できない性格。そこで思いついたのがセントラルパーク。今は亡き、バーニーズ専属のヒーリング・ストーン作家Kさんとその友人の超有名ピアニスト、Mさんがよく散歩した場所と言っていたので、それに習って近所の公園のワンスポットを挙げることにした。 マンハッタンのほぼ北端に近いフォートトライオン・パーク。ロックフェラー3世が寄贈してから、メトロポリタン美術館の分館として有名なザ・クロイスターズという、中世ヨーロッパ美術を集めた文字通り修道院風の美術館がある場所。 もちろんここはハドソン川のほぼ真上にあるので、四季折々の絶景スポットで名勝地化しているが、この荘厳な場所ではなく、そこに行き着く道の外れにある大きな岩の上がそのスポット。 今は少し寒いがそれでも日が射していれば、読書をしたり瞑想に耽ったりするには最適な場所だ。

石のパワーに預かって、体の芯からエネルギーも湧く。と書くと、危ないスピ系かと思われてしまうが、少々その気もあるにはあるのだろう、小鳥の鳴き声に混じり色々な音に合わせて、多くのデジャヴ経験をした。 何故か小学校時代にした経験を、あっ、今ここで感じているのと同じだとか、本を読んでいる時、一人の少年がやってきて、その本は何語なの?と聞く。日本語だよと言うと、そんな難しい文字よく読めるなぁと。これは反対に、子供の時に想ったことだったから、デジャヴではなく予知だったのかもしれない。

やっぱ、スピ系でもあるか。 別の時は東洋医学書に目を通していると、人体には血管の他にまだ何かチューブが走ってるの?とか、いわゆる経絡についての質問攻めにあった。 そして今はもうなくなったが、高校の文学の先生をしていたというオジサンが、日本文学は素晴らしい、西鶴なんて最高の庶民派文学者だねとか、『源氏物語』はソフィスティケートされた、最古の文学だねと。あまり知りもしない日本文学を、いかにも知ってるふりして話したこともあった。お陰でその後、寂聴さんの現代語訳や橋下治解釈の『源氏物語』を読む羽目になった。

何がいいかというと、生馬の目を抜くとまで言われるマンハッタンで、自分の精神を解放できる場所があるということは、本当にラッキーだと思えること。そして現実から少しだけ離れた世界を浮遊できることだ。 でも、おじん臭いが(ってしっかりおじんだが)本心を言うと、自分の家のリヴィングのリクライニング・カウチが一番のお気に入りスポットである。本を読んだりTVを見ることの方が断然多いのだが、うたた寝をすることも結構あって、とにかくここに座ってしまうともう半日は動けなくなる。早い話、カウチポテトっていうこと。

正直な話、コロナのせいか公園の整備も手を欠いているのだろう、あの石の周りが蔦で覆われて、登るのが少し困難になっている。結局、最近はリヴィングのこのカウチの方が多い毎日なのだ。 色気も洒落っ気もなく寂しい気もするが、前から家のカウチは好きなスポットであることは否定できない。 来年こそは心穏やかな年になりますように!



[プロフィール] 1980年10月自主留学で渡米。しょうがなくNYに住み着いた、”汲々自適”のほぼリタイアライフ。

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