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悩ましいかな、アメリカの歯科保険

今回のテーマ:歯
by 福島 千里

アメリカ生活において健康が何より重要であることは過去にちょっと書いた

アメリカの医療費はとてつもなく高い。高額な医療保険を毎月支払い、それでもさらに診療時には別途料金(Co -paymentと呼ばれる一定の自己負担金)がかかる。補償枠を超えた場合は、さらにその差額分も支払わねばならない。安かろう、悪かろう。プランによって適用の上限枠も大きく異なり、安価な保険加入者が大病や大ケガをすれば、容赦なくその皺寄せがくる。全米の自己破産理由のTOP3の1つが高額な医療費という統計があるほどだ。なんにせよ、健康はアメリカで穏やかに暮らすための絶対条件の1つだ。

そしてそれは歯においても同様だ。歯の治療費が高額なのは言うまでもないが、なんとアメリカでは健康保健が歯科治療には使えないのだ。なんというポンコツぶり。歯の治療には歯科保険、または歯科専門の割引きプランへの加入が必要だ。なければ、全額を自費で支払うだけ。下手に治療すると金がかかるという理由で、手っ取り早い(=もっともコスパの良い)抜歯に至ったという話も聞く。とにも角煮も、アメリカでの歯科治療は保険レベルから面倒くさいし、こうして当地に長く暮らしていると、日本の健康保険は万能だなぁとつくづく思う(今後の持続可能性は別として)。

そしてこの歯科保険というのが実に中途半端な代物なのだ。まず、歯科保険は健康保険と異なり、加入していなくてもペナルティを課せられることはない。要するに、加入しようがしまいが個人の自由。福利厚生が手厚い大手企業にお勤めの方などは、健康保険と一緒に歯科保険加入のオプションがあるそうだが、中小企業にお勤めの方や私のようなフリーランスは、自分にあう歯科保険を見つけて加入しなければならない。安いものは月額15ドルていど、高額なものは月額100ドル~など。補償枠も20〜100%とどこか中途半端で、緻密に細分化された治療項目ごとに変わる。保険に加入していても大きなベネフィットを感じられないのであれば、結局は自費で全額払ってもあまり変わらないのでは、なんて気になる。

それゆえ、歯科保険の加入は悩ましいのだ。基本的に、虫歯になりにくい人、日頃から口腔内の健康を保てる人、短~中期滞在予定の人には、歯科保険への加入は勧めていない。どうしても治療が必要なら、日本に帰国した上でちゃんと治療するのがコスト面でよいからだ。が、アメリカで長期滞在を予定している人は別。経済的にゆとりがあり、虫歯になりやすい人であれば、個人の状況に応じて歯科保険はかけておいた方がそこそこ安心だと思う。

歯科保険のベネフィットは、年2回の無料定期検診だ(クリーニング付)。これは虫歯になってお財布がすっからかんになる前に、早期に見つけて安く治療しましょう、というアメリカの予防医学に基づいたもの(これはこれでとても良いシステムだと思っている)。私自身は、このベネフィットのために、現在月額20ドル程度の歯科保険に加入している。虫歯予防はもちろんだが、加齢による口腔内のモニター、そして近い将来に予定している歯列矯正に備えるためだ(虫歯があると矯正ができないため、「絶対に虫歯になるものか」というプレッシャーを自分自身にかけているのです。ちなみに歯列矯正に関しては、アメリカは日本より市場が大きいせいか、施術料がリーズナブル)。

つい数年前までは「歯の治療をしたいから日本に一時帰国する」なんて声も時々耳にした。要は、渡航費+日本での自費治療費をもってしても、アメリカでの治療費に比べたらお釣りがくる、ということだ(ただし、パンデミック後は航空運賃が爆上がりしているので、今はこれも一概にそうとも言えないと思うのだが)。

こんな話もある。アリゾナ州に住む友人によると、歯の治療目的で国境を越え、メキシコまで遠征するアメリカ人も珍しくないのだとか。その理由として、メキシコにはアメリカに留学して歯科医になった人が少なくなく、それゆえ当地でもアメリカ同様の治療が受けられる。治療費が安い上に、技術的にもある程度信頼できるのであれば、治療をかねて旅行もしてしまおうという考えだ。

いずれにしても、歯科保険は自己投資。アメリカで穏やかかつ経済的に暮らすため、歯科保険加入は安心材料の1つだと思っている。
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◆◆福島千里(ふくしま・ちさと)◆◆
1998年渡米。ライター&フォトグラファー。ニューヨーク州立大学写真科卒業後、「地球の歩き方ニューヨーク」など、ガイドブック各種で活動中。10年間のニューヨーク生活の後、都市とのほどよい距離感を求め燐州ニュージャージーへ。趣味は旅と料理と食べ歩き。園芸好きの夫と猫2匹暮らし


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