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ペットが欲しい?

今回のテーマ:ペット
by  萩原久代

母は毛のあるペットは絶対に飼わない主義だった。毛が洋服やソファなどにつくのが嫌だという理由からだった。が、もともと動物が好きではなかったのかもしれない。

そんな訳で、実家にいる間に私は犬や猫など毛のある動物を飼ったことがない。ただ、幼稚園の頃、実家の小さな池に金魚がいて餌をやった記憶がある。また、小・中学校の時に文鳥を数年だけ飼ったことがある。しかし、窓を開けて出かけた隙に近くの野良猫に襲われて、鳥は敢えなく最期を迎えた。家の周りに野良猫が沢山いた時代だった。

子供の時にペットのいない生活をしたからか、私は自立して自由に飼える状況になっても、犬や猫を欲しいと思わなかった。というより、犬と猫を可愛いと思っても、どこをどう触っていいのか戸惑う。さらに、毛が洋服につくのでは、と今でも神経を使う自分もいる。私は母の潔癖症の呪いから逃れずにいる。

大人になってニューヨークに住むようになって、小さなアパートなのに犬や猫を飼う隣人が多くいることに驚いた。しかも、2匹、3匹と飼っている人もいた。日本に比べると、アメリカのペット飼育率はぐんと高い。ペットフーズ協会の調査によると、日本では犬の世帯飼育率は9.69%だが、アメリカでは44.5%という。アメリカのほぼ2世帯に1世帯が犬を飼っているという数だ。

猫はどうか。日本の猫の世帯飼育率は8.63%で、犬の飼育率と大きな差がない。一方、アメリカでは29%だそうだ。4世帯に1世帯くらいで猫を飼っている感じだ。この調査によると、アメリカでは圧倒的に犬がペットとして好まれているようだ。

友人からのクリスマスカードの写真に、家族と一緒にペットの犬が写っていたことを思い出した。しかも、”Best wishes from Mary, John, Tom, Linda and Sparky”といったように、最後に犬の名前まで挨拶文に登場した。犬は家族なんだなあ、と思ったものだ。最近はカードを送ることがなくなり、メールやSNSの一斉グリーティングなので昔話になってしまった。

さて、毛のあるペットは飼えない人間に育ってしまったが、ニューヨークでペットが欲しくなった時期があった。それで、金魚二匹を数年飼った。ちなみに、アメリカにおいて淡水魚をペットとする世帯飼育率は7%程度だ。

金魚は10年くらい生きるらしいが、水槽が小さかったせいか3年近くで二匹とも息絶えた。その後、淡水熱帯魚を飼ってみた。水を温めるヒーター付きの水槽が必要で水質にも敏感だった。初めて飼ったエンジェルフィッシュとネオンテトラは短期間で死んでしまった。

チャイナタウンにあった熱帯魚屋のおじさんに相談して、比較的丈夫なプラティを飼うことにした。2年近く生きてくれた。しかも、ある日、2ミリ程度の稚魚が泳いでいるを見つけてビックリした。プラティが太ったと思っていたが、卵胎生なのでお腹に稚魚がいたと後から知った。すぐに、稚魚を細かい網の囲いで分けて、親たちに食べられないように工夫した。2週間ほど育ってくれたが、それ以上生きてくれなかった。

個別に名前もつけてないペットだし、餌をやるときだけは水面に上がってきて可愛いが、それ以外に何の反応もない。しかし、生命の営みを目撃すると愛おしいものだし、死んだ時にはとても悲しい。もうずっとペットなし生活だが、時々プラティのことを思い出す。水槽で泳ぐ姿をボーっと眺めるのは、心休まる時間だった。

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萩原久代
ニューヨーク市で1990年から2年間大学院に通い、1995年からマンハッタンに住む。長いサラリーマン生活を経て、調査や翻訳分野の仕事を中心にのんびりと自由業を続けている。2010年からニューヨークを本拠にしながらも、冬は暖かい香港、夏は涼しい欧州で過ごす渡り鳥の生活をしている。


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